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昭和生まれのオタク出戻り腐女子。FE3Hのクロロレで同人誌を出している。励まされながらでないと話が書けないので原稿はキリの良いところまで書く都度ソナーズに載せている。
複数の作品(4〜5作)を並行して書いている知人にコツを聞いたら曜日ごとに書く話を変えると言っていました。

私はマルチタスクが出来ないので書き終わっていない話がどうしてもよぎってしまい仕方ないので先に書き始めた話関連のことが脳内をよぎるたびに新しい話を書くのを中断して先に書き始めた話用のメモを作っていました。ひどい時だと100文字おきの反復横跳びのようになってしまいます。
つまり私は曜日ごとに頭を切り替えて書き分けることが不可能だったわけですがここにいらっしゃる皆さんはこれ出来そうですか?

曜日ごとに書き分けが出来る=行ける気がする
ごちゃ混ぜになるので出来ない=そういうときもある
そういうときもある!
百合かつR18なのでワンクッション頑張って!8/27の新刊、書き下ろしも書き終わって本文404ページになりました!

校正が地獄……。

もうこんな長い話書きたくないし書けない。来年は気軽な現パロしか書かないぞ!そんでもって来年はゲーム発売5周年なので推しカプオンリー絶対やるからな、という機運が高まっています。

完売しちゃった本がそこそこあるので活動一年目に出した本の装丁クソ盛りかつコミッションで表紙やカラー口絵も依頼しまくった合本再録本を10部くらい作るのを来年の楽しみにしようと思います。

いや、今年のリアイベ8/27で打ち止めなので……。
やるじゃん!
ログインできるかな?

出来た!いやーTwitter API騒動どうなるんでしょうね??

イベント終わって疲れ果てて昨日ようやく8/27新刊用の原稿を本当に単純にA6サイズPDFに流し込んだら378ページありました。私これから自力で校正やるの?!辛い!
応援してる!
20万文字書くのに7ヶ月かかった。手こずった。

8/27新刊用原稿本編は仕上がったぞ!!
いや、十分すごいよ!
出張編集部の講評が来た!!(今度はエクレアさんです)コミックジーンの編集さんから助言をもらう前に作った本なので指摘された点はほぼ変わりませんでした。

キャラの固有名詞を出さずにそのキャラであることを表す表現が少ない。一つの表現を記号として使いまわすのではなく場面に応じて相手から見た時の特徴に置き換えるべき、という助言をもらいました。

R18作品として読者が満足する分量のR18シーンがあったとのことなので今後の参考になりました。コミックジーンさんに提出した本はあらすじメインの本、エクレアさんに提出した本はエクレアさんはBL R18小説のレーベルなので女装してひたすらやってるだけの本を提出しました。

コミックジーンさんでもR18シーンの回数はこれでかまわないが最低でもあと400〜800文字は増やせ、と言われたのでこれでようやく相応しい比率や基準が自分の中でハッキリしてきました。

ありがてええ!!

今は受付停止みたいですが実施されてたら見てもらうの本当にお勧めします。
最初から最後まで書くストロングスタイルを貫いてきましたが作業時間が取れないので

作中の現在1400文字
受け視点から見た五年前の話1400文字
攻め視点から見た直前の話

作中の現在1400文字
受け視点から見た3年前の話1400文字
攻め視点から見た7年前の話1400文字

作中の現在1400文字
受け視点から見た1年前の話1400文字
攻め視点から見た8年前の話1400文字

という変則スタイルで書いてR18シーンは朝チュンで飛ばしあらすじを完成させてから改めて書く形式にチャレンジしようと思う、とここで宣言して退路を断ちます。

1400文字でひと区切りなのは文庫サイズ見開き2ページがそれくらいだからです。
頑張って!
若い頃には♡喘ぎとかありませんでした!私はちょうどその世代で十年以上のブランクがありました。

最初びっくりしましたがとくに嫌悪感は持っていません。個人的には流し見するお客さんに対してここはエロですよ、と知らせるための記号として導入しています。同世代のブランクなしで活動し続けてきた友人たちはむしろ♡喘ぎを嫌っていて使っていません。
それいいね!
他者への承認を出し惜しみする人って何なんすかね?浮いちゃうから直レスしなくなったけどRT後に空中に向かって感想言う文化は本当に意味が分からない。ツール使ってまで補足してるのにね、言われる側は。確かにねもう少しで6/25新刊の初稿が終わるから頑張れ自分!大丈夫!blueskyのアカウント作れたけど新参者すぎて招待コードがまだ貰えない!コードもらえたらここに貼ります。

https://bsky.app/profile/111strokes111.bsky.social

ただblueskyの招待コードってひとつにつき○○名、有効期限○時間、みたいな制限があるようなので無効になってたらごめんなさい。
それいいね!
大作書いても見向きもされない私みたいなのもいるから気にしないほうがいいっすよ!

原作ゲームが14章仕立てだから受け視点攻め視点でそれぞれ2000文字ずつ書いて1章ずつ投稿しても界隈の9割から完全に無視されてまーす!(ただきちんと毎回読んでくれる方が2人いらっしゃるのでもうそのおふたりにメールで送ったほうが効率が良いのかもしれぬ……)

1枚絵のイラストを文庫画像メーカーの画像4枚くらいで文字起こししたような、書きたいところだけ書いたんで雰囲気だけ味わってください!みたいな話がTwitterでは一番読まれるのでそれができる人はそれをやってみるべきです。

私は脳内カメラに難があるのでこの一枚絵が思いつかず起承転結全部考えて進行に沿って丹念に推しカプの関係が推移していく話しか書けないので今後も9割の人から無視されていくと思います。
いや、十分すごいよ!
オタクコミュニティの悪い所は、作品やキャラへの愛で始めたはずの二次創作がいつの間にか内輪ネタの手段になって謙虚さを忘れていったり、下品な性癖開陳チキンレースが常になったり、そういう環境に疑問を抱いても思ってることを言うことがストレスになることかな 到底健全な人間関係とは言えない

https://twitter.com/___mous___/status/1631443367824621569?s=46&t=8yD6YXcljTAAKpoEiuTuWg

これ本当にそうです。大半の人はR18の話と受け取ったようですが私が過去に通ったジャンルでは攻めをスパダリにするために受けの足を欠損させちゃったりクラスタ内で尖った人、の立場に居たいがために競技選手をえびせん食うような気軽な感じで交通事故に合わせて競技人生を終わらせたりする人がいた!そこまではまあいいとしてこう言うの読んでて辛いから嫌だみたいな話は一切表面化出来ないのが本当にキツかった。紙の本の頃はもうジャンルごと離れる以外ない。

そんな状況からの「流石○○さん!地獄作らせたら界隈で一番ですね!」「いやいやそれほどでも」もしくは「え?これが私の考えたハッピーな姿ですけど?」みたいなやりとりがめちゃくちゃ不愉快なんですよ。

好きじゃなかったら本は出さない、と言いますけど犬や猫を可愛いなと思っている人は可愛い犬や猫にはこういうひどい目にあってほしい、みたいな妄想で身内の結束を固めたりしないよ!

「創作者は先人の模倣を一切せず才能ひとつで勝負するべし」みたいな過剰な潔癖さのせいで生じた狂いのひとつな気がしますね。何人にも侵されない確固とした個性を持った上で他人と繋がりたいってことなんでしょうけど逆にアイヒマン的邪悪さと凡庸さに飲み込まれてるよ……。

私?私は二次BLで個を確立させたいと思ったことなんかないですよ!思いついた話を外部メディアにコピーしないと消去できないからテキストアプリ使ってポイピクに放り投げてるだけだよ!砂粒になって幸せな(あとエロい目にあってれば言うことないですね)推しカプの波を浴びてどこまでも流されたいだけだよ!

ピコ手プギャーみたいな揶揄も効かなくなりハッピーを量産することで流れに抗うことが出来るようになるので加齢も悪くないもんです。続くよ!
その通り!
そう、三次元の推しって死ぬし喧嘩別れするし逮捕されるし女遊びもしまくるんだよなあああ!ということを思い出しました。私の推しも何人か死んでます。辛い。でも好きだし彼らの関係性を消費してしまう。私も今は読むだけとはいえナマモノを嗜むのでお察しします。

述懐のみの短編ですが差し込まれる身体描写がライブ中の演者にしか分からない点、実際にAくんに触れた者にしか分からない点であったことがとても良いです。この路線を極めて全てをこの勢いで書くと舞城王太郎みたいなことがやれる筈ですがカロリー消費が激しく書いた方も読んだ方も真っ白な灰になると思います。周囲を灰にしてみませんか?

不満な点
・受けなのか攻めなのかリバなのかが不明(これは元ネタを知らぬ私の我儘です)
・A君から主人公への語りかけがあって当然な仲なのですがその描写がない(多分書くとジャンルバレするから省いたと思われますのでこれも私の我儘です)
なるほど
タグが途切れた!申し訳ないです。5/7ピクスク用後編もかけた!何故か他人の目に晒されるところに置くと校正や推敲が捗るのでここにおきます。ガルグ=マクちっちゃいものクラブ<クロヒル>
 いつか見た光景がクロードの前で再現されていた。ヒルダさん!と叫ぶマリアンヌは隣にいるはずなのに彼女の声が遠くから聞こえたような気がする。今回は敵将の前へワープした際に起きた事故だ。ヒルダより先に前衛としてワープで放り出されていたローレンツが慌てて空中にいた彼女を受け止める。手足の長い彼だから幼女の姿になったヒルダに手が届いたのかもしれない。桃色の髪は耳の下で二つ結びにされていた。綺麗に結い上げるのは難しいのだ、とクロードに話してくれたことがある。
 すでに転送魔法の魔法陣に囲まれていたのでクロードはその光景を見ているしかなかった。咄嗟にヒルダを受け止めてくれたローレンツには感謝の言葉しかない。
 頭身はそのままで敵将の射程範囲内に陣取ることのできたクロードはフェイルノートを引き絞った。小さなヒルダを守りながら長時間戦うことは難しい。増援を呼ばれる前にクロードが一撃で敵将を倒す必要がある。
 クロードがこの一矢に集中できるのは皆のおかげだ。ヒルダのこともローレンツのことも脳裏から追い出し、標的となる敵将を睨み付ける。そもそも一騎打ちで勝てるほど腕力に優れていなかったクロードは弓を覚えるしかなかった。だがこちらは才能があったようで放たれた矢の描く弧が金色に見える時がある。ホルストのような剣の達人は太刀筋が光って見えると聞くので似たような境地に達した、と言えるだろう。
「恨めばいいさ!」
 そう叫んでフェイルノートから放った矢は敵将の喉を貫いた。装飾品を手作りしたり美容に熱中したりと愛らしい面が目立つがヒルダは前線で育っている。それでもあの年頃の小さな娘にこんな光景は見せたくない───クロードのそんな思いを察したのかローレンツが大きな手で目隠しをしていた。紫の籠手は目どころか顔のほとんどを覆い隠している。素直に瞼を下ろしているかどうかはクロードにもローレンツにも分からない。
 将を倒し敵の抵抗が止んだのでクロードは黄色い外套を肩から外しながらローレンツに近寄った。先ほどは何よりも安全を優先していたが五年前と同じく服の寸法が合っていない。そのことに気付いたローレンツが真っ青になっている。
「助かった!クロード、靴と手袋も拾ってあげてくれたまえ」
 クロードの黄色い外套に包まれた小さなヒルダは二人の会話を聞いて声を出してもいい、と判断したようだ。
「エルヴィンさま、よろいをあたらしくなさったたのですか?」
 父親と間違われ動揺したローレンツの頬が赤く染まる。彼はクロードと違って色白なので動揺が顔色に現れやすい。あんなことで領主が務まるのだろうか。
「違う、僕はローレンツだよ。ヒルダさん」
「ちがうわ、ローレンツくんはわたしよりちいさいもの」
 クロードの脳裏に五年前抱えて運んでやった家中から愛されて育った子供の姿が浮かぶ。ヒルダもローレンツも五大諸侯の子女なので円卓会議や"フォドラの首飾り"視察の際に親に連れられて幼い頃からの顔見知りであったようだ。
「ああ、確かにそうだ。ローレンツはもっと小さかったよ。俺はクロードだ。よろしくな、ヒルダ」
「でしょ!ちっちゃかったよね!ねえ、エルヴィンさまでもクロードくんでもいいけどホルストにいさんかおとうさまのところへつれていってくれる?」
 古い顔見知りであったせいで生じた誤解をどう解いたものか、ローレンツは困り果てている。
「笑うなクロード!」
 思わず吹き出してしまったのは動揺を誤魔化すためだ。滑稽でもあるのだが彼らが小さな頃から顔見知りであったことが羨ましい。そんなことを悟られないようクロードはヒルダの靴と手袋を手に二人の後ろをついて行った。とにかくベレトや魔法に詳しい者たちに相談せねばならない。
「エルヴィンさま、そこでいちどおろしてもらっていいですか?」
 ぶかぶかになった服は着心地が悪いのだろう。小さいながらもおしゃれなヒルダはクロードの外套も利用して何とか見た目を整えようとしている。その間にクロードはローレンツから耳打ちされた。
「小さなヒルダさんは羽根のように軽いが居た堪れないので代わってくれ」
「いいぜ、エルヴィンさま」
「揶揄うのをやめたまえ、クロード!!」
 交代だ、というと素直にヒルダはクロードに身体を預けてくれた。ヒルダはゴネリル家のご令嬢らしく、地上に足をつけている限り最も頼りがいのある存在だがそれだけではない。装飾品作りや香油作りでも才能を発揮している。
 つまり彼女を抱き上げて運んでいると身体にお手製の香油の匂いがつくのだ。ローレンツが代わってくれ、というのはおかしな話ではない。好きな人の前に別の女性がつけた香油の匂いをさせて現れたくないのだろう。マリアンヌはおそらくそんなことを気にしないが、ローレンツはそう言うことを気にするのだ。
 ベレトは無表情なので内心が読めない。だが敵兵を倒して鍵を探し出し、扉を開けてヒルダの元に真っ先に走ってきたのは彼が心配している証拠だ。だからクロードは彼を信頼している。
 そして彼の後を追って主だった将たちがクロードたちの元にやってきた。面倒見の良いレオニーや親切なイグナーツ、それにきっと小さなヒルダの視線から見て兄ホルストに似ているであろうラファエルは相好を崩しているし年上ぶりたいリシテアは自分より小さくなったヒルダの方が背も足も小さいことに驚いている。
 そんな中でマリアンヌはただひたすら慈しみに満ちた顔をして、クロードに抱きかかえられたヒルダの姿を眺めていた。クロードはまだヒルダに自身の秘密を明かしていない。だからこの姿に何を思ったのか言って欲しくなかった。
「原因が解明されるまでワープは使えないな……」
 そういうと作戦を立てたベレトは唸った。何故こんな事故が起きたのか。かつてローレンツも似たような事故に遭ったことがある。クロードはヒルダを膝の上に乗せたままローレンツに問うた。皆、当事者の話を改めて聞きたがっている。
「お前の時は魔道書の誤植だったよな?」
 そのせいで五年前、子供の姿になってしまったローレンツは頷いた。真っ直ぐでさらさらとした紫色の髪が彼の仕草に合わせて揺れている。戦争が始まってからローレンツは髪を伸ばし始めた。魔力は髪に宿る。
「そうだ。幸いなことに一晩で元に戻ったがな」
「エルヴィンさま、いつおうちにもどれるの?」
 クロードの膝に乗ったままのヒルダが問うた。この場で唯一、ローレンツ以外にグロスタール伯の顔を知るマリアンヌが堪らず吹き出している。ヒルダがこれくらい幼かった頃のグロスタール伯は本当にローレンツと瓜二つだったのかもしれない。
「いや、参ったな……」
 小さなヒルダはどうしてしらばっくれるのか、と思っているようだ。ローレンツは頬を膨らませた小さなヒルダの機嫌をどう取ったものか考えあぐねている。だから気づいていないらしいが彼はこれからしばらくの間"エルヴィンさま"と呼ばれるだろう。望外の楽しいこと、は機会を逃さず楽しむべきだ。皆その機会を狙っている。
「あの時と同じ方法で元に戻るならレストが使える修道士の手配しましょう」
 こう言う時にマリアンヌはとことん空気が読めないが五年前と比べてはるかに堂々と発言するようになった。もしかしたら彼女はローレンツに秘密を告げられるようになるかもしれない。
「教え子の幼い頃の姿が見られるのは楽しいが……またこんなことが起きては何もかもが滞ってしまうな」
 ベレトがぽつりと呟いた。戦闘は先ほど終わったばかりで皆疲れている。もう少し解決法から目を背けていたいが彼はきっと言ってしまう。クロードにはもう分かっていた。
「全て買い直す資金がないなら知識のある者が総出で手持ちの魔道書の綴りが間違っていないかどうか確かめる必要がある」
 リシテアが顔を覆って呻いたがこれは全く大袈裟ではない。クロードに騙されるようにして新生軍の立ち上げに参加させられ皆、身が粉になるような日々を送っている。そこそんな作業が加わったのだ。マリアンヌもローレンツもこめかみを抑えている。だがまだ目ぼしい戦果もあげられず、親たちの援助も受けていない現状では魔道書を全て新しいものに買い直せない。

 マリアンヌも先ほどローレンツと同じ光景を目にしていた。ただし格子の向こう側から、リブローのでも魔法が届かない位置から、だった。あれが五年前と同じく、戦場でなかったならばちょっと楽しい騒動で済んだかもしれない。だがガルグ=マクで再会したクロードに巻き込まれる形でマリアンヌたちは最前線に立っている。
 ローレンツが遠目にもわかるほど血相を変え、地面に叩きつけられるはずのヒルダを必死で抱きとめてくれた。彼はいつも誰かを守ろうとする。その後クロードが一撃で敵将を倒してくれた。彼はいつも狙いを外さないが、今回ばかりは外さなかった理由に個人的な思いが含まれていて欲しい。
「ローレンツさん、事故当時の記憶は今もないのでしょうか?魔道書の誤りを見つけるのに役立つかもしれません」
 ローレンツは残念そうに首を横に振った。学生時代と比べて髪が伸びたので確かに彼の父と雰囲気がそっくりになっている。ヒルダがあれくらい幼かった頃、グロスタール伯は今のローレンツと同じくらい若々しかったのかもしれない。
「残念ながらないのだ……魔道書の頭から中身を確かめるしかなさそうだよ」
 マリアンヌはため息をついた。先ほどのリシテアのため息とは理由が違う。五年前の事故の際、マリアンヌは自分が求めてはいけないものを目の当たりにした。
「はぁ……だが、僕もマリアンヌさんも協力しないわけにいかないな」
 ローレンツはため息の理由を誤解している。マリアンヌのため息は安堵のため息だ。もしマリアンヌが獣の紋章を継いでいなかったらあんな子を腕に抱いてローレンツの隣を歩く未来があったのかもしれない。だからこそあの時、未来に怯える小さな彼にグロスタールの紋章を持つ妻を娶ればいい、とどうしても言えなかった。あの頃からそう言えなかったほど彼のことが好きだった、と気づいたのは最近だが。

 その後、小さなヒルダをガルグ=マクまで抱えていく役目はラファエルが指名された。筋骨隆々な身体つきがホルストと似ているからだろう。お役御免となったクロードが大きく肩を回している。
「血の気が引きましたね……大丈夫ですか?クロードさん」
 貫禄が出るよう頬髭を生やしているが大袈裟に嘆く表情は学生時代とあまり変わらない。遠くからそっとヒルダを見ている時の嬉しそうな顔も含めて、だ。
「いや小さくて細くて折れそうだった。あれなら気絶したローレンツの足首を持って地面を引きずる方がずっと気楽だ」
 小鳥を手の中におさめるとしたら、と考えればいい。持続することを考えず、完全に脱力するか力を込めるなら簡単だ。だが不快な思いや怖い思いをすることがないように小さくて柔らかいものを守るのは本当に難しい。
「ご経験が?」
「残念ながらないね。いつもマリアンヌがあいつを回復してやるからだろうな」
 そう言ってニヤリと笑うクロードの視線は何を見てもすぐにラファエルの肩に乗った小さなヒルダに戻っていく。小さなヒルダの要望に応えたのかラファエルがふざけて身体を揺らすので危ない、と言ってローレンツが怒っている。
「エルヴィンさま、そんなにしんぱいしなくてもだいじょうぶ!」
「そうだぞ!そんなに心配しなくても大丈夫だぁ!ヒルダさんはマーヤみてえに、羽根みてえに軽いからな!」
 ああもう、と荒げた声が少し後ろにいるマリアンヌにまで聞こえてきた。
「随分と楽しそうだな。マリアンヌ」
 将来、ローレンツが我が子を可愛がる姿を見る時に隣にはマリアンヌではない女性が立っているに違いない。本来ならいくばくかの痛みを伴うはずの光景のはずだった。
「クロードさんこそ楽しそうですよ」
「望外のものが見られるのは楽しいことだろう?」
 マリアンヌの脳裏に彼との会話が蘇る。敵方の生まれ、どこへ行っても疎まれる子供。クロードはヒルダを眺めているだけでこんなに幸せそうにしているのに、マリアンヌと同じく本当の自分をさらけ出していないのかもしれない。

 クロードがガルグ=マクを乗っ取った、と周知されてからは四方に散っていた教会関係者たちが再び集まり、様々な部門を再開させた。悲しいことに五年前より孤児院はその規模を拡大している。先にガルグ=マクへ戻ったベレトが小さなヒルダ用の服と靴を用意し今後の手筈の説明もしてくれた。少し変わったワープだから、という説明で納得してくれたらしい。
「わかりました。おようふくとくつをありがとうございます。ようやくじぶんでどこにでもいけるわ!」
「ヒルダさん、どこに行きますか?ご案内しますよ」
 二つ結びにした髪型がとても愛らしい彼女は真っ先にクロードのところへ行く、と言った。
「あらエルヴィン様のところでなくてよいのですか?」
 マリアンヌまで彼のことをエルヴィンと呼んだ、と知ったらローレンツはどんな顔をするだろうか。
「だってこれ、クロードくんにかえしてあげなくちゃ!あのかっこうにはこのきいろのがいとうがぴったりよ」
 ヒルダは幼いころからおしゃれが大好きだったのだろう。幼い彼女なりに畳んだクロードの外套を手にしている。
「分かりました。ご案内しましょう。でもその前に洋服選びのお手伝いをしていただけませんか?」
 洋服選び、と聞いて小さなヒルダの顔が輝いた。本来のヒルダが身につけるべき服を一揃い医務室まで持っていかねばならない。本人が選んだとなれば彼女も不満はないだろう。マリアンヌはまず、小さなヒルダを連れて本人の部屋を訪れた。
 やはりヒルダは小さかろうと完璧だ、とマリアンヌは思う。小さなヒルダは行李や棚の中を開けて物色しているがマリアンヌと違って無意識に物を置いたりしない。寝台の上に洋服を広げて考え込んでいる。
「おおきくなったらこんなおようふくがきたいなとおもってたの」
「素敵な組み合わせです。では畳んでからクロードさんのお部屋に参りましょう」
 その他にも目覚めた時に必要そうな物、をマリアンヌは大きめの籠に詰めた。この部屋に元からあった大きな物で、両手で抱えるしかない。
 仕方ないので小さなヒルダにクロードの部屋の扉を叩いてもらった。どうぞ、と言う声と同時に中から何かの崩れる音がする。扉が外開きでなければ開け閉めにも苦労するかもしれない。
「ああ、ヒルダとマリアンヌか。歓待してやりたいがこの有様でね」
 背中越しに見える室内は床に紙が散乱している。クロードがわざわざ廊下まで出てきたのはそのせいだろう。
「クロードくん、がいとうをかしてくれてありがとう」
 小さなヒルダが自分の外套を手にしていることに気づいたクロードは膝をついた。
「小さなお嬢さんのお役に立てて幸いだ」
 クロードは外套を恭しく受け取ったが、ヒルダに見られぬようマリアンヌが持っている籠の上にそっと広げて被せた。一連の流れはまるで手品のようだった。
「マリアンヌ、籠の中身が丸見えだ」
 クロードにそっと耳打ちされる。確かに、すぐに身につけられるよう肌着を一番上に置いていたが上から広げた手巾を被せたので大丈夫だ、とマリアンヌは判断していた。やはりあまり冷静ではいられないらしい。
「どうしたの?はやくいこうよ!」
「動揺してるのはお互い様だから仕方ないさ。後は頼んだぞ」
 マリアンヌはその晩、とりあえずあれ以上の失態はないはずだと信じて床についた。しかしこの件には後日談がある。魔道書の誤植由来で事故が起きた際の教本には何度も翌朝の揉めごとを避けるために大人の寝衣を着せてから眠らせ、レストをかけよと書かれることになった。
 あの時、クロードの言う通り動揺していたマリアンヌはヒルダの寝巻を入れ忘れている。医務室の修道士もまだ解呪作業に慣れていなかったのでその場にある物を流用したらしい。クロードの外套だけを身に纏って医務室で目覚めたヒルダのことを思うとマリアンヌはその申し訳なさに消えてしまいたくなる。
 後にマリアンヌは深酒をするたびに夫となったローレンツにその件について話すようになるのだが、その度に彼は口籠もり、何とも言えない表情を浮かべるのだった。
きゅんとした
5/7ピクスク用の話この週末で書き終えたい。そのあと6/25の推しカプオンリーイベントの原稿やりたい。応援してる!あーやっぱりここの人たちがpixivとかTwitterで発表してる二次創作読んでみたい!元ネタ知らんでも努力が結実したものに触れてみてえ!わかる、わかるよ……「わざわざ「理性的に」と書いた理由は,自分の文章について他人からあれこれ言われると「感情的に」反発する著者が多いからです.要するに「指摘されるとムッとくる」ということですね.あなたはいかがですか.  感情的な反発を抑えることは難しいでしょう.しかし,自分がムッとくるポイントこそ著者一人では発見しにくい部分ですから,反発する心をぐっと抑えて,理性的にフィードバックを受け取ることが大事です.  レビューアの指摘に対して著者が怒り出すのは,著者の態度として論外です.たとえレビューアの誤読や誤解があった場合でも,その誤読や誤解を生んだのは著者が書いた文章なのです.ですから,その箇所には改善が必要なのかもしれませんね.  そもそも,レビューアからのフィードバックに自分の文章に対する賛辞だけを期待するなら,それはレビューではありません.」

—『数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫)』結城浩著
https://a.co/9CEeFfP

ンーやっぱり有償で校正を兼ねてやってもらいてえなあと思いました。
共感する
ピクスク5/7開催イベント用の男女カプ全年齢小説前半書けた!後編も頑張ろう。

テキストアプリで読み返しても見つからないミスが投稿してみると見つけられるの本当に不思議……(なので推敲のためにここに投稿しちゃう)
朝起きたらまず身支度を整える。エドマンドの家にいた時は侍女が髪をまとめて結い上げてくれた。自力でやろうとすると水色の髪は全くいうことをきいてくれない。鏡の前で先日、シルヴァンから忠告されたように笑顔を作ってみたが頬が引き攣りそうになるだけだった。
 養父は士官学校へ行けば必ず良いことがある、と言って送り出してくれたが何もかもがうまくいかない。今日もきっと養父に興味のある学生や教会関係者が自分に話しかけてくることだろう。そんな中マリアンヌはローレンツから養父と全く似ていない、とはっきり指摘された。彼は五大諸侯の嫡子なのでマリアンヌが養女になる前から養父であるエドマンド辺境伯を知っていた可能性がある。
 養父はマリアンヌを気にかけて色々と世話を焼き話しかけてくれたのだがマリアンヌは自分の側から話しかけることがほとんどなかった。今はほんの少しそのことを後悔している。マリアンヌはあまり上手く話せないのだがそれは生来の口下手さだけでなく本当に養父のことを知らないからだ。適当なことを言って養父に迷惑をかけるわけにはいかない。

 士官学校の寮は扉が外開きだ。だから開ける前に人の声や足音に注意してから開けねばならない。養父は在学中、不用意に扉を開けたせいでマリアンヌの実父を思い切り小突いてしまったのだという。その話を思い出したのはどん、という鈍い音がした時だった。時刻は明け方でいつもなら天馬の面倒を見るイングリットくらいしか起きていない。
「すみません、大丈夫ですか?!」
 顔を押さえてうずくまっているのは真っ直ぐな紫色の髪を肩の辺りまで伸ばした子供だった。一目で寸法違いと分かるくるぶし丈の寝巻きに身を包んでいる。士官学校は修道院の附属施設だ。修道院は寄る辺のない子供たちの面倒も見ている。だが、そこから紛れ込んだ子供にしては身につけている寝巻きが上等だった。白い指の間から血が出ていたのでおそらく取っ手が鼻を直撃したのだろう。マリアンヌは養父が買い求めローレンツが褒めてくれた手巾を渡した。
「まさかこの時間に人が歩いているとは思わなくて……申し訳ありません……」
「ぼくも、ふちゅういでした……」
 怪我の責任を取るためマリアンヌがライブの呪文を唱えると鼻血を出していた痕跡は手巾に残るのみ、となった。僕、と言っているのでどうやら男の子らしい。よく見ると袖もずいぶん余っているようで何重にも捲っている。
「ここは……寮なので……おうちはどこですか?」
「わかりません……じぶんのおへやでねていたはずなのに」
「まあ、なんてこと……」
 自分の身には余ることが起きたのでマリアンヌは素直にヒルダの名を呼びながら隣室の扉を叩いた。
「もー!こんな時間に何?」
 朝寝坊好きなヒルダが大あくびをしながら扉を開けてくれた。寝巻き姿で髪は下ろしたままの素顔だがそれでもこんなに美しい。
「小さな子供が寮の中に入り込んでいて……」
 訳がわからない、という顔をしたヒルダのためマリアンヌは扉を大きく開き、戸惑っている子供の姿を見せた。途端にヒルダの眠気は飛び去ったらしい。下りてこようとする瞼に隠れがちだった薄紅色の瞳が、しっかりと不安そうにしている子供の姿を捉えている。
「え、うそ!その子ローレンツくん、だよね?」
 ヒルダにそう耳元で囁かれ、マリアンヌは初めて彼と目の前の子供がローレンツそっくりなことに気づいた。言われてしまうと彼としか思えない。一体、何が起きたのか。確かに髪の色も瞼の形もローレンツそのものだった。ヒルダが部屋に手招きしてくれたので今は二人で彼女の部屋に入り込んでいる。
「どうしましょう……」
「勿論、先生に相談だよ!でもその前に確かめたいことがあるからちょっとクロードくんを起こしてくるね」
 そこで待ってて、と言われたのでマリアンヌはローレンツらしき少年とヒルダの部屋で二人きりになった。何かの事故で姿形が変わった場合、精神だけは元のままなことが多い。だがローレンツの性格から言ってもし精神が元のままならクロードの部屋に怒鳴り込むか階下にいるベレトの元へ直行するだろう。
「きっとなんとかなります」
 自分の口下手さが本当に嫌になる。なんの意味もない慰めの言葉を口にしてみたがクロードは果たして部屋にいるだろうか。馬や天馬の面倒を見るため早起きしているマリアンヌやイングリットは時々、埃まみれで朝帰りをしているクロードの姿を見かけるのだ。
「はやくもどらないとねえやも、おとうさまもおかあさまもきっとぼくをしんぱいしています」
 真っ先にねえや、が出てくるところが微笑ましい。マリアンヌの前で嘆く少年時代のローレンツは髪が長かった。魔力は髪に宿るので英雄の遺産、テュルソスの杖を受け継ぐグロスタール家の者らしい髪型と言える。
「そうですか」
 どうにもぎこちない相槌しか返せない。だが小さなローレンツはマリアンヌにあれやこれやと話しかけてくれる。気を使われているのかもしれない。
「ぼくはきのう、けんさをうけました」
 マリアンヌは思わず、息を呑んだ。十傑の子孫が受ける検査と言えば紋章の検査に決まっている。
 獣の紋章を持っている、と判明した時の両親の顔は未だに忘れられない。だからこそ自分を養女として迎え入れた伯父、いや、養父がマリアンヌが獣の紋章を宿していると知った時の反応に未だに戸惑っている。養父の頬を伝う涙には喜びや親しみが含まれていた。愛を人質に取られた彼の人生やマリアンヌの人生に意味などあるのだろうか。
「結果は聞きましたか?」
「まだです。もしぼくがもんしょうをやどしていなかったら……」
 ハンネマンの研究によって、今ではすぐ分かるようになったがローレンツやマリアンヌが幼い頃は試薬の反応が出るのに一晩かかった。きっとグロスタール家の人々は眠れぬ夜を過ごしたことだろう。小さなローレンツは色々と思い出したせいか流石に不安そうな顔をしていた。
 人生を左右する検査を受けたばかりな上に、目覚めたら知らない場所にいたのだから仕方がない。ローレンツが積み重ねてきたものが取り払われた結果が現状だとしたら、マリアンヌは絶対に目にしないはずの貴重なものを目にしていることになる。
「大丈夫ですよ。きっと受け継いでいます。それにもし紋章を受け継いでいないとしても……」
 ローレンツの子供には発現するかもしれない。だがそれでは問題を先送りにしているだけで同じ心配がつきまとう。それにそのためにはあること、が必要だった。
「紋章を宿す者を探して雇えばいいのです」
 想像もしていなかった答えだったのか小さなローレンツは目を丸くしている。マリアンヌが取り繕わねば、と強く感じた瞬間に扉を叩く音が聞こえた。
「なんだよローレンツ!随分可愛くなったな!」
 寝巻き姿のクロードの視線はしばらくヒルダの部屋の中を縦横無尽に彷徨い、最後にじっと見つめても失礼には当たらないローレンツの姿に注がれた。どうやら既にローレンツの姿形が変わった件について説明を受けていたらしい。
「クロードくん、まだアビスに出入りしてるなら心当たり、あるんじゃない?」
「いや、流石にそんな作用があるものは扱ってないよ」
 その後もヒルダが思いつく限りのおどろおどろしい単語を出し、重ねて尋ねたせいだろうか。小さなローレンツは眉根を寄せ口を結び、不安や恐怖を堪えている。
「じゃあクロードくん、マリアンヌちゃんと一緒に先生のところへ連れて行ってあげて」
 マリアンヌはすでに制服に身を包んでいるが口下手だしヒルダも寝巻き姿で出歩くわけにいかない。クロードなら寝巻き姿につっかけ履きでも先生の前に顔を出せるだろう、と言うことらしい。
「ま、そうなるよな。不安だろうがついてきてくれ。信頼出来る大人のところへ連れて行くから」
 クロードが小さなローレンツを手招きした。その褐色の手は弓使いらしく胼胝だらけで、彼が決して語らない日頃の努力が偲ばれる。
「大丈夫ですよ。私もついていきますから」
「ありがとうございます」
 マリアンヌの知る十九才のローレンツならきっとご婦人に負担をかけるわけにいかない、と言って提案を断っただろう。将来、長槍を振り回し重い茶器を軽々と持ち上げることになる手はまだ小さく柔らかい。何故そんなことをマリアンヌが知っているかというと反射的に小さな白い手を握ってしまったからだ。

 背中に目がついていないのが実に惜しい。小さなローレンツの手を握っているのがマリアンヌでなければクロードは遠慮なく凝視した筈だ。先ほど引っ込み思案なマリアンヌがローレンツの手を取った瞬間をヒルダと共有できたことも嬉しい。クロードは口は上手い方だが見てきたように語っても伝わらないことがある。二人の間で語り草になるだろう。マリアンヌ自身は自分には度胸がない、と思い込んでいるが実際はかなり大胆なことをする。
 クロードは円卓会議の場にいることを祖父たちから許された時にエドマンド辺境伯と会ったことがある。見た目は洒脱だが物言いは鋭く大胆だった。マリアンヌはエドマンド辺境伯の大胆さを色濃く受け継いでいるのかもしれない。
 とにかくマリアンヌはローレンツのことを何とかしてやりたい、と強く思ったのだ。彼女はいつも何かに怯えていて枠から出ようとしない。でも今朝はそこを越えて小さな彼の手を取った。ローレンツの肉体と精神が元通りになった時にこの記憶はどうなるのだろうか。
「私たちの先生のところへお連れします」
「階段を下りたらすぐだ」
 クロードが廊下の先を指さすとローレンツは神妙な顔をして丈の長い寝巻きの裾をそっとめくった。これでは外を歩かせるわけにいかない。靴をどうしたのか聞くと目が覚めた部屋に巨大な靴しかなかったのだという。
「まあ……なんてこと……ずっと裸足だったのですね?気がつきませんでした」
 二階の廊下は絨毯が敷いてあるが階段と一階の廊下は違う。小さなローレンツはそのことを察したらしい。マリアンヌがしゃがんだので小さなローレンツは救いを求めるように紫の瞳でクロードを見上げた。この小さなローレンツは怪我人を背負って戦場を駆け抜けるマリアンヌを知らない。細身の身体のどこにそんな力が、と毎度感心してしまう。
「はじめておあいしたごふじんに、そんなことをさせるわけには……」
 故郷にいた頃クロードはよく靴を隠された。だから裸足で外を歩くと碌なことが起きないとよく分かっている。
「足に布を巻く時間がもったいない。ほら、背負ってやるから来い。それともご婦人の背中の方が好みかな?」
 クロードはあんな育ち方をしたというのに他人に、しかもローレンツに親切にしてやれることが自分でも不思議だった。嫌な記憶は鮮明なままだが仕上げに振り掛けられる粉砂糖のような暮らしをここガルグ=マクで送っているからだろうか。
 小さなローレンツは弾けるような早さでクロードの背中に身体を預けた。よろしくお願いします、といって乗せられた身体は悔しいかな、背中越しでも白い手足が長いとわかる。
 ベレトの部屋はさして遠くない。両腕と背中の塞がっているクロードの代わりにマリアンヌが扉を叩いてくれた。
「朝早くに申し訳ありません。先生、ご相談したいことが……」
 謎多き担任教師は講義の支度をしていたらしい。早朝にも関わらずすぐに三人とも部屋へ招き入れてくれた。こういう時はベレトの無表情さが救いになる。
「……という訳なんだ。どうしたらこの子が元に戻れると思う?」
 クロードが説明する間、マリアンヌは当然のように寝台の上で所在なさげに座っているローレンツと目の高さを合わせるためしゃがみ込んでいた。
「先週皆に渡した黒魔法の教科書に誤植があったんだ。その知らせが来たのが昨日でな。今日の講義で伝えようと思ったがどうやら遅かったらしい」
 フォドラの印刷技術は貧弱だ。活字を組み合わせるのではなく、木の板にその頁の文章を丸ごと彫りつけて紙や布に転写している。だから内容を訂正した冊子が刷り終わるのに時間がかかったようだ。
「そうか、ローレンツは昨日、黒魔法の自主訓練をしていたから……」
 金鹿の学級の者たちは皆、得意な武器や戦い方が全く違う。だから黒魔法の得意なローレンツだけが被害に遭ったらしい。
「ここにいるのは、ぼくのおちどではないのですね?」
「そうだ。だから安心して欲しい」
 ベレトがそう語りかけると小さなローレンツは安堵のため息を吐いてから手で顔を覆った。先ほどマリアンヌに握られていた手は将来、槍の鍛錬で胼胝だらけになる。
「その新しい教科書を真っ先に使ったのはローレンツさんですね。先生、それで対処法は?」
 ベレトは冊子をクロードとマリアンヌに寄越した。かなり革新的なことが書いてある。呪文の詠唱だけなら書いてある通りに読めばいい。だが自然を捉え直し逐一命令を下して、求める現象を発生させるのが魔道だ。しかしその術式が自然な人間の認識からかけ離れている。
 魔道があまり得意ではないクロードなら項目と数値がずれないように項目の直後に数値を持ってくるだろう。だが、これまで読んだ魔道書は項目を先に全て述べた後で数値を一気に言うものばかりだった。この時に数値を言い間違えてしまうと発動しない。
 だが今ベレトが見せてくれた黒魔法の教科書は設計が全く違う。要素ごとに項目と数値がまとめられていた。
「いや、これはすごい。魔道が苦手なやつでもこれなら何とかなるんじゃないのか?」
「確かにとても興味深いですが……話題がずれています」
 ベレトも頷いている。思考があちこちへ飛んでしまうのはクロードの悪い癖だ。冊子の後ろの方には起こりうる状態異常とその回復方法について記されている。意識と肉体の乖離した際にレストをかけるとこの状態異常は回復するらしい。
「マリアンヌ、マヌエラを起こしてきてもらえないだろうか?俺は必要なものを医務室に運んでおくから」
 先ほどはクロードだけで構わないだろうと思っていたがこうなるとマリアンヌがいてくれてありがたい。マヌエラの部屋はおそらく男子学生には見られたくない状態になっているはずだ。
 パルミラ人はナデルのように大柄な者が多い。だからクロードはフォドラへ行けば、自分がかなり大きな方になるのではないかと期待していた。しかし実際は見ての通りで、皆が皆ラファエルやヒルダの兄ホルストのような筋肉質というわけではないが背は高い。そんな訳でクロードはローレンツからもディミトリからも見下ろされている。
「俺からも頼むわ。ちびすけのことは任せてくれ」
 クロードはそう言って小さなローレンツと共にマリアンヌとベレトを見送った。将来、クロードがローレンツの子供の頭を撫でる日が来るかもしれない。だが本人の頭をこんな風に撫でる日は二度と来ないだろう。クロードは寝台の端で大人しく座っているローレンツの頭に触れた。彼の父と同じく肩のあたりまで伸びている紫の髪をくしゃくしゃにする。
「やめてください。せっかくねえやがねるまえにくしをいれてくれたのに」
「すまんな、でもこうしておけばマリアンヌが───さっきの水色の髪をしたお姉さんが整えてくれるかもしれないぞ?」
 小さなローレンツの髪を整える手が一瞬止まった。子供の頃から好みは一貫しているらしい。
「これいじょう、あのかたにごめんどうをおかけするわけには……」
 だが幼い彼は思い直した。フォドラでは力なき幼子でも美しい振る舞いを追求することが出来る。パルミラの者からするとフォドラは痩せ我慢の国に過ぎない。だがクロードはフォドラで過ごすうちにこれはこれで美しい、と思えるようになった。それでもクロードは先ほど咄嗟に小さなローレンツの手を取ったマリアンヌの内心に渦巻く衝動を高く評価している。
 マリアンヌとベレトの忙しない往来を何度か経て、クロードは小さなローレンツを医務室まで背負っていくことになった。隣を歩き小さなローレンツに治療法を説明するマリアンヌは常日頃と違って加害強迫の症状が現れていない。穏やかな彼女の姿がどんな様子だったかヒルダに話してやりたくてクロードは黙っていた。きっと喜ぶに違いない。

 翌朝、いつもの姿に戻ったローレンツが昨日の自分がどんな様子だったのか、クロードから聞き出そうとしてきたので───もちろん思わせぶりなことだけ言って肝心なことは何ひとつ教えてやらなかった。
これ好き! 好きすぎる!