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#文体封印チャレンジ
にしめ3年前Twitterで 「#自分の絵柄の特徴あげてもらってそれを全部封印した絵を描く」 というのが流れてきて、これ文章でやってみてえ~!!と思いました。とても練習かつ頭の体操になりそう。特徴を教えてくれる人が現れるのかはわかりませんけども……
(しかも文章、文体の特徴ってことだもんな?絵よりも指摘が難しいような気もする)
文体封印というにはお粗末なんですが、敬体で書いたことないな~と思い書いてみました。敬体にすると言葉づかいも動作や状況の分解の仕方も変わる気がして、お、おもしろい……。
内容はツリーとは関係ない話ですが、登場人物やカップリングは同じです。
1,800字ぐらい





 ぐるる、とお腹にひびく低い音は、からだの中から聞こえてくるようでした。海底に埋もれた宝物を探すように抱えたギターを鳴らし続けていた勇人くんは、あらがえない浮力に導かれるようにして、ひとつまばたきをしました。まなうらに描いていた深い闇は一転、蛍光灯がまぶしく光る、見慣れたリビングルームへと姿を変えます。渦を巻くような音の中に沈んでいたので、静けさがより際立って鼓膜を打つようでした。
 まだ心臓がどきどきしています。うずくまるようにギターを抱えてかき鳴らしていただけだというのに、勇人くんはまるでほんとうに海底に潜っていたように息が上がっていました。曲作りとは、頭だけでなく体力もすりへるものなのです。
 勇人くんは音楽がだいすきです。何時間でも音の世界にのめり込んでしまいます。でも、限界はありました。 
 はらへった、と心の中でつぶやくと、勇人くんはゆっくりと首を起こしました。がらんとした部屋のなかには誰もいません。この家のあるじ、圭吾くんの気配はずっと感じていたはずでしたが、いざ見渡すと勇人くんが背もたれにしていたソファーに文庫本がひとつ置かれているだけでした。きちんとしおりが挟まれているのは慎くんから借りた本だからかもしれませんし、長い時間席を外すつもりだったからかもしれません。勇人くんにはわかりませんでしたが、またぐるる、とおなかが鳴ったので、とりあえず食べるものを求めて立ち上がりました。
 すると、どうでしょう。ダイニングテーブルの上にはこじゃれた箱が広げられていました。ほのかにあまい香りもします。八等分に仕切られた箱のそれぞれには、薄紙に守られるようにしてきれいなかたちのチョコレートが並んでいました。
 チョコと言うと圭吾くんはおこりますが、勇人くんはおいしいのだから名前にこだわる必要はないと思っています。食べる順番だってそうです。右から二番目だけが空いている小さな区画たちの、いちばん近いところに手を伸ばしました。
 ちょうどその時です。
「あっ、こら!」
 猫の盗み食いに居合わせたような言い方で、背後から声が飛んできました。ふりかえると、グレーのスウェットに身を包んだ圭吾くんがぱたぱたとスリッパを鳴らしてかけよってきます。赤らんだほっぺたに、シャンプーのにおいがふわりと漂って、お風呂から出てきたのだとわかりました。垂れた目尻を厳しくつり上げていたのはほんのわずかな瞬間だけで、あきれたように、もしくは安心したようにふうっと息を吐き出すと、圭吾くんの表情はみるみるやわらいでいきました。
「集中してたな。腹へっただろ」
 そしてチョコの箱を手にとると、どれが食べたいのかと尋ねてきます。適当に指をさすと、「それはオレが食うから、こっちな」と、勇人くんの指がよごれるのを嫌ってか、しろくてながい指先が隣のひとつぶをつまみ上げました。 口に近づけられたのでぱかりと開くと、遠慮なくチョコレートが押し込まれました。
 今までにたくさんのつまみ食いを重ねてきた勇人くんのことです。圭吾くんのように饒舌な品評を並べられなくとも、舌の上でとろける甘さは今までに味わったことのないものだとすぐにわかりました。目をみはる勇人くんを前に、うまいだろ、と言いたげな圭吾くんの視線も満足げです。
「もうひとつ食べるか?」と言いながら戻っていく指の先に溶けたのこりがついていることをめざとく見つけた勇人くんは、圭吾くんの手首を捕まえると、ぺろり、とその指先を舐めとりました。わずかな量でも、じんわりと余韻がからだをひたしていきます。
「ぎゃっ」
「うめえ」
 思わず口にして圭吾くんの方を見ると、お風呂上がりよりも肌を真っ赤に染めて、ぽかんと固まってしまっていました。うるうると揺れる瞳に誘われて、なんとなくくちびるを寄せました。歯を磨いたばかりの圭吾くんのくちびるは、ミントのさわやかな香りがして甘くはありません。しかしどうしてか空っぽのお腹にたまっていくような心地がします。
「……そんなに腹減ってんならなんかつくるけど」
「別にいい、腹いっぱいになった。サンキュ」
「……あ、そう……あんま根詰めるなよ」
「おー」
 うわのそらで返事をする勇人くんの耳には、海底を照らす光のように音がそそぎ込んできます。まぶしくてまっすぐで、きっとうもれた宝物のことも照らしてくれるでしょう。
 勇人くんはギターを抱えてリビングルームの定位置に座りなおしました。うしろではソファーに深く沈んだ圭吾くんが文庫本をひらいたところです。夜はこれから、静かに更けていきます。
おお〜😲