こそフォロ タイムライン フォローリスト ジャンル すべて 男性向け 女性向け その他一般
フォローする nomichixxx ツイッター @nomichixxx
足腰が死んでいるので長い漫画が描けないため、苦手な作文で書くにあたりケツ叩き場を作りました
\おいパイ食わねえか/
刀剣男士キャラクリしてFF14やるのも好きなので遊びながら以前妄想したやつの供養です
なんと グリダニアでイダパパリモと出会ったとこしか書いてないで終わっている
「暁の鶴丸国永」
紀行録 グリダニアの旅館「とまり木」にて 〇月〇日

ここに来て三日目になるが、とりあえず今日から日記をつけていこうと思う。
この摩訶不思議な世界に迷い込んだというか、気づけばこのぐりだにあとかいう国に向かって乗り物に揺られていた。ああ、黄色い鳥の馬は愛嬌のあるやつだったな。
とにかく、まだ状況が整理できていない。ここはどこなんだろうか。
あと、俺の頭の中で話しかけてくるふたつの声。ひとつは何となく、俺が本霊から何かを吹き込まれる時の感覚に似ている。あれはおそらく、そういった神々の部類なのだろうか。もうひとつは、座敷童だ。本人が言うには違うと言っているし、街に出てみれば確かに同じような背格好の、とにかくちんちくりんな人間(ちなみに、他には手足のすらりと長い奴、俺たちみたいな普通の背格好の奴、むきむきの体躯のでかい奴が混ざっていた)が生活に溶け込んで暮らしているようだった。でも俺から見たらこいつに限っては座敷童なのでそう記しておく。

冒険者。レイサイ。そこからの復興。マホウ、いや「魔法」か。
考えれば考えるほど、異世界というやつなんだろうかここは。

まだ情報が足りないし、何より食っていく元手がない。そして付喪神であった俺の権能のようなものもどうやら今の身体には存在しないようだ。つまり、ただのヒトとなり果ててしまったらしい。
俺を、「鶴丸国永」を知っているようだったので、その件についてお前は何か知っているのかと頭の中の座敷童を問い詰めた。前世とやら(この場合は俺もそうなのか?)で刀剣男士と関わる職業だったらしい。それはつまり審神者では?と聞くと全力で首を横に振られた。まあ今はいいか。

ただの人となった俺は、これからどうして生きていくのか。


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紀行録 グリダニアの旅館「とまり木」にて 〇月×日

今日は色々と驚きに事欠かない一日だった。
いや、この異世界に来てからずっとこんな感じなんだが。意外とぽーかーふぇいすなんだね、と頭の中の座敷童に言われた。まあ俺という個体がそうなってしまったのは前世(少しずつ実感しつつある)終の棲家となったあの本丸のせいだろう。思い出したくもなかったので座敷童の話は無視をした。
食い扶持を求めて適当に御遣いや獣退治を頼まれるうち、練兵所の人間から不審者の捜索を依頼された。まあそいつは残念ながら事切れていたし、彼が何らかの儀式に必要とされるものを仕掛けていたせいでデカい木の魔物と交戦するわ散々だった。まあ、その際ひょうきんな娘と苦労性そうなララフェルの男と知り合うことになった訳だが。俺の中で縁が強く結ばれたのがわかる。どうやらこういう感覚は、刀剣男士であった頃と変わらず残っているようだ。座敷童には驚かれたが。なんできみが驚くんだ。
ところで、魔物と戦った後にまたあの大きな神のような声を聴いた。起きたら俺はよくわからない水晶を持っていたし、その時から座敷童が現実の中で視えるようになった。本人も驚いていた。
だが、彼女(男だか女だかわからん装備を着ていて今までわからなかったが女だったらしい)は他の者には一切視認されず、誰も何も触ることができないようだった。また、彼女の声は俺にしか聴こえないという。
「これから色々あどばいすするから」なんて意気込んでいたので、「刀剣男士だった俺に助言が出来るほどのきみは猛者だったりするのか?」と少し意地の悪い言葉を返したら、「もざじゃあびばぜん」と鼻声で土下座して撤回された。なんなんだきみは。
とりあえず、この世界でわからないことがあれば答えてくれるということなので、彼女を座敷童から生き字引に昇格させてやることにした。実際わからないことだらけではあるし、そこに何となく不自由さを感じているところだったので丁度いい。
ただ、他者から見えない上に彼女の声もまた他者に聴こえないということで、傍から見たら俺が虚空に話しかける不審者となるため、彼女との声での会話は宿に来た時のみ行うことにした。まあ、今までも頭の中で会話をしているため、咄嗟の質問には困らない訳なのだが。

そういえば、宿屋の客室での対話を提案したときに彼女が何か呟いていた気がするが何だったのだろうか。
まあ、俺には関係無い話だろうが。


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「――お部屋で会話、か。あの時みたいだなぁ…」
鶴さに♀ 審神者は怪我で引退した元バレエダンサーという設定 で妄想して力尽きた供養です5番ポジションからふらつく事なくつま先で立つ。
そこから踏み切って跳躍し、たおやかに開脚する姿。
宙で時が止まる。
腕はしなやかに、指先まで静謐に。
照明を見上げて微笑み手を伸ばすあなた。
咲き誇り、羽ばたく。
あなたは確かに花だった。
あなたは確かに鳥だった。

あなたがわたしを手にするまでを、わたしは確かに見ていました。
それがあなたの最後のステージになってしまったけれど、わたしはあなたという最高のダンサーの側にいられたことを誇りに思います。




「鶴丸」
まだ冬は終わっておらず、されど時折訪れるようになった春の陽気。
暖かな日差しが差し込む本丸の執務室で、ひとのかたちを持つ一振りの刀が部屋のあちこちを探索しているのを、部屋の主である女性は微笑ましく眺めていた。
彼は、宝探しゲームの途中だという。
「また誰かここに隠したの?」
「いいじゃないか、皆きみの顔を見に来る口実が欲しいんだろう」
鶴丸と呼ばれた刀はそう言って笑う。悪戯っぽい言葉の割に、その声と表情は穏やかだ。
「それにしてもきみ、本丸に来てからそれなりに経つだろう。いい加減荷解きはしないのかい?」
棚の横、部屋の隅に積まれた箱の塔を指差し、主に問うた。
箱に視線を向けつつ、彼女はあまり気のない声を返す。
「まあ、開けてもしまうだけなのよね」
「かわいそうに。ものは使われてこそ喜ぶことをきみはよく知っていると思うんだがなあ」
大袈裟にため息を吐きながら、鶴丸は憐れむように箱を撫でる。
「そうねえ」
そんな彼と箱を他人事のように見つめる持ち主。
鶴丸は何かと理由をつけて自分に会いに来ては忙しなく、という程でもないが割とまめに話し相手を強請りにくる。他の本丸の「鶴丸国永」達はどうなのかわからないが(そもそも刀についての知識が無かったのだ)この本丸の彼は喜怒哀楽がはっきりしており、千年在る者にしては表裏が無く、刀を喚び起こした審神者たる彼女は彼に対し、やや不謹慎ながらこどものような印象を感じていた。
今も箱を撫で続けながらかわいそうになあと話しかけているが、そんなに気になるならさっさと開けてしまえばいいのに、彼はそれをしない。ちなみに、一番古い付き合いのとある新撰組の打刀であれば、「下着じゃないならいいよね?」と一度確認した上で開けていたことだろう。
鶴丸はただこちらの様子を伺っている。コメディめいた芝居をしながら、その瞳は叱られないかどうか、嫌われないかと確かに怯えている。たまに居る、臆病ゆえに口が良く回るこどもみたいに。
「開けたい?」
とくに叱ったことも嫌ったことも無いのだが、なんとなくその表情にくすぐられるものがあり、つい意地悪な聞き方をしてしまう。
鶴丸は一瞬きょとん、とした後で眉を困ったように下げて「きみが自分で開けないものを開けるのは気が引ける」と箱から手を離した。
「私が居ない間に宝をそこに隠した可能性もあるんじゃないの?」
「誰もきみが手をつけないものを触ったりはしない。隠すならきみが、他人が触れても気にしない場所。たとえば」
箱の反対側の棚に目を留める。花瓶やオブジェの乗ったそれには、いくつかの引き出しがあった。
「この棚は執務の消耗品しか入れないだろ?ほら、」
「あら…鶴丸、よく見て」
何番目かの引き出しを棚から抜いて持ち上げると、底の裏側にマスキングテープで花札が貼り付けてあった。花札には「はずれ」と書かれた付箋が貼られていて、二人は思わず顔を見合わせて笑った。
「やられたな」
「残念ね」
「きみの部屋を荒らして終わってしまったな。すまない、とりあえず引き出しを元に…」
鶴丸は抜いた引き出しを元の位置に差し込む。が、レールが錆びているためか途中で引っ掛かり、何度か強引に押し込んだところで棚が揺れ、一番不安定な立ち方をしていたオブジェが揺れて落下した。そしてそこの床は、畳ではなく。
「あ、」
がしゃん、と音を立てて透明なかけらが散る。
「あらま」
「あ…」
やってしまった。
鶴丸の白い顔はますます白くなり、窺うように主を見る。
一瞬だけ呆けていた彼女はすぐ鶴丸に向き直り、「ガラスだからね、足を切っちゃうといけないから動かないでね。あと触っちゃダメだからね」とスリッパを履いていた足をいそいそと動かし掃除用具を取りに向かった。
とりあえず引き出しを収め、言いつけ通り足の位置を動かさないようにその場に屈んで、大小に飛び散ったオブジェのかけらを見つめた。
手を切る心配のなさそうな大きな破片を手に取る。随分簡略化されているが、丸くて部分的な凹凸のあるそれはどうやら人の頭部を表現しているようだった。
「きみ、本当にすまない…」
指の腹でその頬の部分を撫でながら、鶴丸は心から詫びる。
主に対して、そして壊れたオブジェに対して。
「気にしなくていいのに」
箒と塵取りを持って戻ってきた彼女は、鶴丸に笑いかけた。
それでも鶴丸の表情は晴れなかった。
「だが、俺達よりも長くきみと供に在った品じゃないのか」
自分達は本丸での生活を通して、主たる彼女との出会いから現在を少なからず尊い時間だと感じており、少しでも永く供に在れたら、とも思っている。
そして自分達とこれは同じ「モノ」だ。かの物も、彼女と永く在りたかったに違いない。そう思うからこそ、鶴丸は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「そうね」
彼女は別の大きな破片を手に取った。そこに文字が書かれていたが、異国語で鶴丸には読めない。
彼女の瞳は、ガラスの向こうの世界を見つめていた。
「……」
彼はその先を知らなければ、想像すら浮かばなかった。
この本丸に主たる審神者が来て2年。
彼女の刀として喚び起こされて半年。
過去を問えるところまで、彼女との距離が埋まるまでの時を、鶴丸は未だ満たしていない。

「…きみは俺を責めてくれやしないが、間違いなくこれはきみにとって大切なものだ」
しばらく箒の音しかしなかった、長い沈黙の後。塵取りの中に収められた破片を見つめながら、鶴丸は懇願した。
「これを俺に預からせてほしい」
言葉から、やろうとしていることは想像がついた。審神者は首を横に振る。
「本当に気にしなくて良いのよ。それに置き物だし、なんとなく飾ってただけだし…」
「埃を被らずそこに在ったんだ。それなりに大事にしていたことくらい解る」
「でも」
「もちろん、完全に元の状態に直すことはできないが…。これはきみの歴史だ。きみを物語る品だ。壊してしまってから言うのは格好がつかないが、俺だって大事にしたい」
「…大袈裟ねぇ」
食い下がる彼に根負けし、審神者は塵取りを手渡した。
「ただし、取扱注意。怪我をしないように。それだけは気をつけてね」
「…ありがとう」
「お礼を言うのは私だと思うんだけど」
「いいんだ。俺がそうしたいんだから」
鶴丸の表情から、謝意の分だけほんの少し力が抜けた。


夢である、と気づくのは早かった。
「ねえ、先生。私やっぱりコンクールなんて向いてないと思うの」
それほど広くない鏡張りの部屋。
一人の少女が、鏡越しに映る壮年の女性に話しかけていた。
面立ちは間違いなく、自分の主である彼女だ。今より少し頬が丸いけれど。
鶴丸の存在は、どこにも映っていない。けれど、ただ今の事象を視せられている感覚だけがそこにあった。
少女の片足はつま先で立ち、もう片足はぴんと高く上げ。
たおやかな動きではあったが、その表情は冴えない。
「このスタジオの発表会だけで充分よ、競うのなんてやったことないし」
「競いに、でなくても大会ついでに学びにいくだけでもあなたには良い経験になるわ」
「いきなり海外なんて」
「勝手に動画応募したの、まだ怒ってるの?」
先生、と呼ばれた壮年の女性は悪戯っぽく笑う。
「そりゃあ怒るわよ」
「でも選考に受かったんだもの、凄いことよ」
「せめて国内コンクールにしてくれればよかったのに」
脚を交互にクロスさせて、爪先立ちだった両足を指先から踵まで床に着け、もう一度爪先立ちになり後ろ側に置いていた足をくるりと前に滑り出し、身体の軸足を前側に変えて、もう片足をコンパスのように回して。
「講師としては、せっかくだしスケールの大きい人生経験をさせておこうと思って」
「大学受験前にスケールの大きい挫折を味わったらどうしてくれるの」
「がんばって」
「他人事だと思って…」
その場で脚を抱えて座り、講師を恨めしげに睨む。
「勿体ないと思ったのよ」
講師の声を聞き流しながら靴の紐を解いて、窮屈そうにしていた足を解放し、親指付近を念入りに揉む。靴の爪先は何度も繕われていて、いつのものかわからない黒ずんだシミがあった。


転寝から現実に意識を戻せば、新聞紙の上に並べられたオブジェの破片が視界に入った。流石に塵取りのまま部屋に持ち込むのは気が引けたので、机に広げやすいように新聞紙に包んだのを思い出す。
壁の時計を見ると(いつぞやの誉の褒美で主がくれた。あんてぃーくとやらだ)午前3時を回っていた。
オブジェ修復の進捗は芳しくない。彼女の部屋に溶け込みすぎて全く意識をしておらず、元々在った形をあまり覚えていなかったからだ。
「すまないな、きみの手入れは思ったよりも時間がかかりそうだ」
オブジェの頭部に謝りつつ、別の破片を手に取った。
直線の先にある、豆のような小さな丸み。つい先程見たような。
(そうか、これは足だ)
メモ用紙に「足」「頭」と書き出し、該当するパーツをその上に置いていく。
そして、夢で見た審神者の姿勢良い立ち姿を思い浮かべる。
道楽に現世の情報を漁っていたら写真ぐらいは一度目にしている気がする。あれは、異国の舞の所作だ。
彼女は今も姿勢良く、あの背筋をぴんと張った真っ直ぐな立ち姿を、鶴丸は好ましく思っている。
(俺は、主の過去を夢に見たのか。いや…)
「きみが、俺に見せてくれたのか」
話しかけてもその答えが返ってくる事は無く、鶴丸はただただ顔が熱くなる心地がした。むずむずした。どきどきした。
主が秘密にしようと思っているのかはさておき、事実彼女が語らぬところに触れている。
好奇心はある。戸惑いもある。良かったのかという躊躇いもある。
けれど、確かに。
(うれしいなあ)
俄然、修復に張り切ろうという気持ちになる程度には、この鶴丸国永は素直であった。
応援してる!
創作審神者+本丸(兼さに要素後々入ります)本の漫画版の焼き直しを小説で書くとこの草稿
第1巻の0章・プロローグ ※兼さんはまだ出てきません
モノが語る故、物語。

人よ、数多の物語の故に自らの人生たる物語が在ることを
—――努努、忘れるな。


<プロローグ~定義>

                
晴天の曠野。
鋼が風を斬り、ぶつかり合って火花を散らしている。
黒い靄を纏った浮遊する骨、或いは腐敗した人間の身体のような「何か」。それと、豪奢な衣装を纏った人間—――否、その身体能力は人ではない—――が、互いに刀を交えている。一閃、渾身の力を込めた骨の物体が相対する者に迫った。
「おや、こんなものですか」
難なく避けた「彼」は、手に持つ刃を返し、骨の物体の頭部に突き刺す。金切り声の様な断末魔と共に、どす黒い血飛沫が散り、物体は霧散した。血飛沫は一瞬、彼の山吹色の装束と白銀の髪を汚したが、物体の消失と共にそれも消えた。
刀を納め、彼は振り返り微笑む。
「皆もご無事で何より」
「おー」やら「ハイ」やらバラバラに返事をする者たちもまた、彼と同じ様に豪奢な衣装を纏い、刀を携えていた。その内の一人が顔の前に手を掲げて、彼に詫びた。
「悪いな小狐丸の旦那。撃ち漏らしちまった」
「構いませんよ薬研殿。誉を頂く機会が増えましたゆえ」
気にすることもなくより深い笑みを見せる小狐丸に、薬研は苦笑した。
「ちゃっかりしてんなぁ」
「新参たるもの強かでいなければ、主(ぬし)様(さま)も…」
先程の戦闘の緊迫感は何処へやら、曠野には和やかな笑い声がしばらく続いた。

「えーと、状況終了?」
一方その頃。
純和風の屋敷に、「執務」のため誂えられた一室で、彼らの様子を観測する青年の姿があった。頭部に装着した端末をずらし、額の汗を雑に拭う。神社の神主の様な装束と、SF染みた頭部の端末や部屋の空間に幾つも点在するホログラムの画面が如何にもミスマッチだが、彼の職務と今置かれている環境に於いて、徐々に当たり前に溶け込んだ日常になりつつある。画面のひとつには、先ほど戦っていた小狐丸達が映っていた。
「時間遡行軍の殲滅を確認。
こんのすけ、介入から現時点の歴史事象記録との誤差は?」
「0.0000001%以内です」
青年は自分の隣に佇む小さな狐に話しかけた。狐はその前足でホログラムのキーボードを器用に叩き、青年の質問の回答を表示してみせた。そしてそうするのが当然のように、自然に人の言葉を話し出す。青年がそれに驚くことはない。
「前後の事象調整作業不要範囲にぎりぎりおさまりました。です、が…現在時間事象の影響のことは大丈夫だと思いますけど、念のため担当部署に連絡しておきますね」
「頼む」
画面に表示された数字を更に演算した値を見た狐は、ほんの少し苦い表情を浮かべながら青年の指示に従ってメールを送信した。すぐに「戦績を受領しました。連絡事項については確認後、本部に通達します」という簡素な返事を受信したところで、青年は端末を頭部から取り去って雑に放り、仰向けに横たわった。
「あー…よかった。今回もなんとかいけたわ」
「しっかりしてください。先代様からもちゃんと太鼓判を頂いていたでしょう?」
あ~、とだらしない声を出して脱力する青年の頬を、狐は叱咤するようにぺしぺしと叩く。
「だけどよ、あっちの人の命とか、派遣する部隊の命とか、やっぱり重いしさ…」
「そういうことは皆様の帰還処理を終えてから言ってください」
「こんのすけは厳しいなぁ」
こんのすけの小言を右から左に聞き流し切れず文句を垂れながら、青年は再び身を起こした。
「先代様から、主(あるじ)様(さま)のことをよ~く教育してくれ!と言いつけられておりますので」
「せんぱぁい…」
こんのすけの小言が鞭ならば、飴を投げ込むにもそろそろ良い頃合いであろう、と小狐丸は腕に装着された端末を操作する。画面に表示された情けない顔をする「主」に声をかけた。
『主様なら大丈夫ですよ。自信をお持ちくだされ』
「サンキュ、小狐丸」
励まされ、照れ笑いを浮かべていると小狐丸の横から別の顔が画面に割り込んできた。
『お~い、わしらの帰還承認はまだかのー?』
「あーすんません陸奥守さん!帰還出します!」
指摘され慌てて指定のコードを入力する。小狐丸達の周囲に円筒状の光が現れた。
『急かしてすまんの。
…のう、もうおまさんはわしらの…わしの「主」やき、しゃんとしい』
「…うっす」
陸奥守の鼓舞に背筋を伸ばし、彼らが画面から消えるのを見届ける。
【長篠→本丸 第一部隊刀剣男士 転送完了しました】
画面と音声がそう伝えてきたのを見て、青年は画面を閉じた。
そして、目を細めながら窓の外を眺めぽつん、と呟く。
「…先輩、元気かな」
「議員秘書として働いておいでだとか。お忙しそうですね」
屋敷の外が帰還した小狐丸達の声で俄かに騒がしくなってきたところで、一人と一匹は立ち上がり、彼らを出迎えるべく執務室の障子戸を開けた。
「もうちょっと落ち着いたら、手土産でも持ってあいさつに行くか」
「その時は陸奥守様も誘ってさしあげませんと。
飄々と振舞っておられますが…きっと誰よりも気にしておいででしょうから」

*****

彼らの置かれている状況は西暦二〇〇〇年代~二千百年代末まで遡る。
長く続いた全世界の冷戦・恐慌に痺れを切らした幾つかの国が、国際法違反の兵器を使用したのをきっかけに世界大戦が勃発。各国のあらゆる兵器により、地球上の大部分が焦土と化し、世界人口は戦前の半数以下にまで減少した。辛うじて機能した国際機関の幾つかが結託し戦争は終結したが、その後は自国の一刻も早い復興を図るため、一時的な鎖国を機関の加盟国全てで結ぶこととなった。日本もその例に漏れず、必要最低限の貿易及び技術の相互支援を除き、鎖国を余儀なくされた。
鎖国は二二〇〇年代の今でも続いているが、各国との関係途絶によるものではないため、一般人の海外旅行は面倒な検査を幾つか受けることで可能となっている。が、費用も時間も「国内クルージングが何往復も出来る」程度にかかるため、需要も供給も少なくなっており、人々の海外への関心は国際放送や雑誌などのメディアで情報を得るくらいに留まっていた。
また、鎖国と同時期に日本で「歴史修正」という現象が発生し始めた。
ある日、「今先程まで」共に居た隣人が急に消えた。複数人で行動していた内の数名が居なくなっていた。警察にはそういった相次ぐ失踪届を受けては捜索を開始するも、まず身元を調べようとしたところで戸籍が存在せず「消えた人物がそもそも存在していない」という壁に打ち当たり、頓挫した。更に奇妙な事に、同じく失踪した人間の隣にいたらしい他の人物に話を聞けば、その者に関する記憶すら消えてしまっていた。当時からすれば、戸籍や「居た」と証言した側の裏付け出来る証拠が無い時点で、失踪した人物すらそもそも居ないものであったとして、最終的には失踪届そのものが受理を取り消されたという。しかし同じ現象が相次ぐ事で、失踪者の捜索及び記憶している側と記憶していない側が決まって現れる事象について、様々な分野での研究調査が進められることとなった。
結果、時を遡り過去に何らかの干渉が行われた事でバタフライエフェクトの如く現在時間に影響を受けた、という説が最も支持され、政府は専門家達に時間遡行のメカニズムについて解明を急がせた。こうして、時間遡行による事象変更は「歴史修正」、それを目論む主犯らは「歴史修正主義者」と定義され、同時に、対策について議論と研究が進み、遂に遡行の手段として利用されている空間の歪曲点が発見された。また、現在時間と空間を切り離し物質及び生命を存在可能にする亜空間技術が開発され、政府はこの一連の歴史修正事件の対策本部をこの亜空間に設置することとなった。その後、本部の設立及び大規模な予算投資によって歴史修正主義者の実働部隊、およびそれら「時間遡行軍」の起源が「刀剣」となっていることが明らかとなった。逸話、或いは刃に染み込んだ血、刀工やかつての持ち主またはそれらを羨んだ者たちの心を浴びてきたその物語により、量子力学的理論上それらに意識と呼ぶに相応しいだけの観測数値が確認された。その意識体とのアクセスを試みるにあたり、人類はモノに宿る意識を古来の物語等から「付喪神」と呼称。最初に接触した付喪神の協力により、彼らの具現化方法が確立し、その作法が日本古来の神道に通ずることから、具現化し使役する者を「審神者」と称し、審神者を仮初の持ち主として歴史修正主義者達と相対する刀剣の付喪神を「刀剣男士」と称することとなった。かくして、大人数の審神者となる者を本土より招集し、彼らの「本丸」として戦闘拠点兼住居を亜空間上に設置、更には都市機能を整えたところで、対策本部は経済特区として本土政府より独立。
西暦二二〇五年。
歴史修正主義者対策本部は「時の政府」と名を改める事となった。
これは、とある本丸の審神者達と数多の刀剣男士の物語である。

「主様、招集通知が来ましたね」
「何だ?また急だな…」
青年は端末に表示されたメッセージを見て顔を顰める。
「しかも対面だなんて。何百年前の文化だよ」
彼もまた、刀剣男士を束ねる主たる審神者であった。


*****

平日の昼、首都圏のスクランブル交差点。
信号機が青色を示すと共に、一斉に鳴り出す靴。近づく足音に反応してその場から飛び発つ鳩。視覚障碍者に横断の是を示す人工的な鳥の鳴き声。隣人と話す声。端末を片手に取引先と話す声。イヤホンの音漏れ。皆、水族館の鰯の様に行き交う人の群れの中に在った。
—――刹那、時が止まる。
「歴史の矯正事象」
一人の青年が交差点の中心に立っている。時を止めた周囲の人間からは完全に浮いており、出立ちは平安時代の貴族のような和装で、その腰には一振りの刀を携えていた。
「歴史修正主義者による介入は、修正対象だけでなく広範囲に影響をきたす。鶴丸は確か—――バタフライエフェクト、と云いかえておったか…」
彼は歩みを止めない。三日月を浮かべた瞳が、人の群れや建物の群れの隅から隅までを見渡す。
「歴史が変わったゆえに存在した者が居た。
或いは、歴史が正しければ存在しなかった者が居た。
…正されれば存在は消える。
だが既に存在していた期間の中で、わずかながら世界はその者を定義した」
やがて一点の黒い小さな靄を見つけ、そっと近づく。
「その定義の残滓が、お前だ」
そして、壊さぬ様に両手で掬い上げる。靄は蒲公英の綿毛程の大きさで、僅かな風でも触れてしまえば霧散しそうな程希薄に見えた。
「…これはまた、よく『残って』いたものだ。
—――お前に問う。お前は、何だ」
靄は鈍く光る。人の言葉を発した様には見えないが、青年には理解する事ができた。彼は瞳を細め、微笑む。
「…そうか。良い定義(なまえ)を持っているな。
安心すると良い。—――お前にはまだ、意味があるのだから」
包む様に、青年はそれを胸元に抱く。

「お前の新たな時の、新たなさだめの上で。
俺がお前の見届け役となろう」
負けないで!
創作審神者+本丸(兼さに要素後々入ります)本の漫画版の焼き直しを小説で書くとこの草稿
第1巻の1章 ※兼さんはまだ出てきません
一.起動(めざめ)                       

自分の身の内に宿るものが「魂」や「意識」であることを近くした瞬間。
キーンと耳鳴りを感じ、聴覚を知った。それから嗅覚。初めて嗅ぐ、檜、白檀、それからい草。何故か懐かしく感じた。
眼球の上に瞼が乗っている感覚。い草の畳の上に自分の身体が乗っている感覚。
ああ、これが「触覚」というものか。瞼を開くと、明るさに目が眩みそうになった。数秒の後、漸く目の前のピントが合うと、そこに檜で出来た大きな箱があるのに気付いた。
———棺だ。
刀の姿であった頃の記憶や知識が自然と頭の奥から引き出される。本来この箱に収まっているのは屍の筈だが、一度瞼を閉じて箱を「視る」とそこから自分の心臓———これがこの身体を動かす核だという実感はまだ薄いのだが———に向かって細い光の糸が伸びていた。
———これは〈縁(えにし)〉だ。
「お目覚めですか、山姥切国広様」
背後から声がかかり、人の身を得た刀「山姥切国広」は振り返った。そこには、小さくて丸々とした狐の姿をした何かがいた。山姥切国広は彼の名前を知っている。正確には、「知識を刷り込まれて」いた。無論、身に覚えのない事柄が最初から頭の中に詰め込まれているのは心地が悪い。
「お前がこんのすけか」
その名を呼ぶと、恭しく狐は頭を下げた。
「はい。この本丸の端末を務めますクダギツネ、こんのすけでございます。山姥切国広様、これからどうぞよろしくお願い申し上げます」
「…長いだろう。当面は山姥切でいい」
お辞儀の体勢から顔を上げたこんのすけは、棺の傍に立って山姥切を促すように告げた。
「それでは山姥切様、早速ですが審神者様を」
「…これを開ければいいのか」
「はい」
戸惑いつつ、言われるまま彼は棺の蓋を開けた。
「——————」
ただの娘が、生まれたままの姿でそこに眠っていた。肌には血の気が無く、棺に入っているのもあり、死体のように思えた。山姥切国広の戸惑いをよそに、こんのすけは彼女に声を掛ける。
「審神者様、お目覚めください」
呼び掛けた瞬間、急にその肌に赤みがさした。外つ国の神の話の原初に書かれている、塵のヒトガタはこうして命の息を吹き込まれたのかも知れないな、と頭の中の事前知識を広げながら思った。
娘の瞼が時間をかけて開く。中の眼球が動き、山姥切達の姿を捉えた。両手が棺の縁を掴み、その指にぐ、と力が入る。その背が持ち上がり、上体が彼らを向いた。癖の全く無い黒髪が、乳房や背を擽りながら身体に沿って流れていく。一度だけ瞬きをした後、娘の唇が開いた。
「おはようございます」
…人間とは、こんなにも抑揚のない言葉を紡ぐ生き物だっただろうか?
彼女に対しての違和感に、少し呆けている山姥切の脛を、こんのすけの尻尾が叩く。
「山姥切様。ご口上を!」
更に戸惑いながらも自分の口上を述べる。
「山姥切国広だ。…」
娘は、じっと山姥切を見ていた。眼球は動かず、こちらを捉えたまま。耐えられず先に視線を外したのは彼の方だった。
「———なんだその目は。写しだというのが気になると?」
外套を目の下まで、彼女の視線から自分を守る様に深く被る。それでも彼女は動じないのを感じたので、つい非難するように言葉を吐いた。それに対し、やはり抑揚が無い、けれどはっきりと澄んだ声が山姥切を刺すように貫く。
「あなたは、山姥切長義の写しですね」
自分の劣等感の核にいきなり触れられ、山姥切はカッと顔が熱くなるのを感じた。
「そうだ…写しだ!写しで悪かったな!」
別に揶揄う様な事を言われた訳ではなかったのに、思わず激昂してしまう。
だが、娘はそれに表情一つ変える事なく、またあの平坦な声で言葉を紡いだ。
「私は、人間を模して審神者として運用されるために製造された人工生命体です。
あなた自身の定義を模倣するように私を表現するならば、私は人間の写しだといえます」
「———それ…は…」
その言葉に、ようやく彼女に抱える違和感について納得したが、熱くなった体が急に冷えていく。———この、うすら寒い感覚は何なんだ。頭の中で、今までの記憶や人為的に詰め込まれた知識を総動員して答えを探す。
わからない。
娘は淡々と言葉で彼を刺していく。
「あなたの瞳孔、表情筋の動きから、あなたは現在私に恐怖や生理的嫌悪を抱いているものと推測します」
「人間はこの部類の感情を向けられるとストレス指数が上昇し、相互間のコミュニケーションに問題が発生する可能性が高いため、この精神状態での接触を避ける事や感情発露の抑制を推奨されていますが、私は人間ではありませんので、どのように感情を向けて頂いても問題ありません」
「…俺が、主となるあんたを罵倒しても…手を上げて傷つけても、動じないと言いたいのか」
山姥切が掠れた声で娘に向けた問いは、先ほどと変わらない調子で返された。
「問題ありません」
猛烈な口の渇きを感じる。
「審神者として運用される個体の体組織は、一般の人間よりも頑強に作られています。また、生殖機能を搭載していないため、長時間の暴力行為を伴う拷問等も」
「そういう事を言っているんじゃない!」
咄嗟に娘の細い肩を掴んで、山姥切は彼女の瞳を自分からはっきりと捉えた。素肌の肩に人ならざる刀剣男士の力が加わった指が遠慮なく圧迫する。そして、彼女に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「…俺は、写しである事に強い劣等感を持っている。言葉として適切かはわからないが…とにかく、そこを不躾に突かれると『つらい』と感じる。———理解るか?」
「私は山姥切国広ではないため、理解は困難かと思われます」
「…はぁ」
それなりに懸命に説明したつもりだったが、それ以前に噛み合わないと悟らざるを得ない返答に、すっかり山姥切は気が抜けてしまった。肩を掴む手を外すと、痣が浮かんでいた。
「…悪い」
「問題ありません」
「…はぁ…。今俺はあんたに呆れている。何故だかわかるか」
「わかりません、申し訳ありません」
謝る声も平坦で、無表情だ。
「詫びを入れる時はもう少し申し訳なさそうにしてくれ」
「善処します。こんのすけ、謝罪対応についてデータベースを確認したいのですが」
「それは後にしましょう、審神者様」
先程からずっと山姥切の足元で所在なさそうにしていたこんのすけが、苦笑しながら彼女に巫女服を差し出した。
「お身体を確認しながら、まずはお召し物を。その間僕達は席を外しますので…」
こんのすけと山姥切は彼女を残し部屋の外へ出た。
彼女が視界から消えたところで気を取り直し、山姥切はこんのすけに問い掛ける。
「———とりあえず、説明しろ。あれは何だ」
「前世紀の戦争で世界人口が著しく減少した上に、歴史修正に対する戦争が起きている今———人間を、あまり『審神者(こちら)』には割けないのです」


*****

前世紀の世界大戦によって、国内の人口も例に漏れず大多数を失った。元々進んでいた少子化にも拍車がかかり、働き手不足も深刻化、経済的にも日本は困窮を極めていた。
そこで注目を集めたのがクローン技術とロボット工学による、クローン人間及びアンドロイド、そして両者をハイブリッドした人工生命体・バイオロイドの製造だった。二十世紀の研究当初は実用そのものについて倫理的な問題で色々と物議を醸し出していたものの、必要に迫られていた二十二世紀ではスムーズに国内事業として予算が組まれ積極的に増産が進められる事となった。
ただし、アンドロイドは純粋な機械であるため、元々運用されていた接客ロボット等と同じように扱われる形で然程問題にならなかった一方で、クローン人間及びバイオロイドは労働環境や人権問題上の立ち位置について、一時期国内が大いに揉めた。結果的に、クローン人間は一般の人間と同じ権利が認められ、バイオロイドについてはその扱いの難しさから、運用範囲を限定される事となった。
そして、その運用範囲として唯一認められているのが、歴史修正主義者対策本部・経済特区「時の政府」であった。
特区の中で「本部」と言われる座標に存在する研究棟。
広く清潔感あるフロアではあるものの、白衣を着た老若男女、そしてアンドロイド及びバイオロイドが忙しく動き回っているのがややミスマッチに見える。
「バイオロイド・個体F0034G87、無事起動。まんばちゃんと縁を結べたそーです」
【起動確認】と映ったコンソールを眺めながら、痩せた中年男性が冷めたコーヒーを口にしていた。
「で?当の見届け人はどこいったの」
「三日月宗近様がまともにここに着席してたことあると思う?」
横からコンソールを覗く女性は『監督刀剣男士』の欄を見て溜息をつく。バイオロイドを「審神者」として本丸に送る際は、初期刀と呼ばれる最初の刀剣男士と縁を結ぶまでのプロセスを、こんのすけの眼を通じて時の政府に協力する付喪神・刀剣男士それぞれの長たる「本霊」一振りが「監督官」となって見守るのが規則である。が、今先程本丸で目覚めたバイオロイドの監督官たる「三日月宗近」は、本日この研究棟に姿を現していなかったのだ。かといって特に驚くことではない。彼女の隣にいる若い男性も察したようで、俯いて首を横に振った。そう、「彼」が肝心な時に居ないのは日常茶飯事なのだ。
「なかったっすね。考えるのやめますわ」
そこに、突然快活な声が割り込んでくる。
「おや?湿っぽい空気だなあきみたち。不健康だぜ」
振り返ると、白衣の中に混じった、白一色の美丈夫がけらけらと笑っていた。
「出た徘徊じじい2号」
中年の研究員が心底面倒臭そうにぼやく。
「聞こえてるぜ」
「…神様って、暇なんですか」
彼は「鶴丸国永」。人間離れした美貌は勿論刀剣男士であり、彼は時の政府に住まう本霊の一柱でもある。———これも、特に驚くことではない。暇つぶしと「驚き探し」でしょっちゅう研究棟に遊びに来るからである。
「まめに様子を見に来て労わってやってるんじゃないか」
「冷やかしに来てるだけでは」
仮にも神の一柱であるにも関わらず、研究棟の彼らはあからさまに邪険にしていた。実際いつも邪魔だからだ。
「ははは。相変わらず俺達を敬わないなあきみたちは…」
「いやあんただけですよ。三日月様は祟りそうだからこえーし」
鶴丸は刀剣男士の中でも古株にあたるものの、フランクに会話を交わすことを好み、喜怒哀楽を素直に表すため、政府の人間からは接しやすい部類としてカウントされている。一方で、三日月宗近も人好きではあるが、その本霊ともなると老獪さとマイペースが混ざって極まっており、「何を考えているかわからない」と評されていた。勿論、鶴丸のフランクな部分もほんの一面に過ぎず、その実は掴み辛かったりする。だがそこまで土足で踏み込もうなどという根性のある人間は今このフロアに存在しないため、美丈夫がただただコミカルに怒ったり拗ねたりしているだけで済んでいる。
「俺も祟ろうと思えば祟るぞ」
「なんでもないでーす」
「で?また三日月が見届けをすっぽかしたんだろう?代わりにこうして来てやったわけなんだが」
「神様じゃん…」
若い研究員は素直に鶴丸を拝んだ。
「おうおう、もっと敬って信仰してくれ。就任する審神者の監督かい?」
「ええ、今回は数パターンぶりに自我がうっすいコなんで。監督してもらうのに説明とか色々しっかりやっておきたかったんですけどね」
中年の研究員が鶴丸に向けて資料を投影する。先ほど本丸へ送った女性型のバイオロイドのものである。
「…ふうん。当面であれば俺が代理で請け負おうか」
「頼みます。そういえば鶴丸国永様、人工生命体(バイオロイド)の審神者の監督経験は?」
「そういえばなかったな。ばいおろいどとやらについてはうっすらとは聞いていたが…この子らはヒトとどう違うんだ?」
鶴丸の質問に応じて、投影した資料を切り替える。
「肉体の形成組織が人間よりちょっとだけ丈夫にできてます。あと、このコは魂的なものが、そもそも三日月様がサルベージした段階で既に希薄なので、分析をしたうえで出来る限りそれに近い基礎人格を構成して意識領域にまぜまぜしてー…。こういうコは元々希薄なせいか、だいたい従順な性格の子が多いですね。
それからまあ、人間でいう研修は不要。各職業に合わせて必要な知識・技術・雑学含めて全部事前にインプットしています。睡眠学習の脳だけじゃない全身版みたいなもんですね。というわけで、審神者の場合はなおさら人工的な即戦力ってわけです」
「人間が要らなくなるなぁ」
研究員の説明に、鶴丸は苦笑した。
「それは無理ですよ。まず世界の純粋な人間の数が少ない。それから、そう都合よくバイオロイドに搭載する魂の残滓が出現するわけじゃないし、出てきても歴史修正主義者(あちらさん)に先を越されちゃって向こうの手駒にされるケースもあるし」
バイオロイドの運用がこの特区に限定されている理由に、製造方法と歴史修正事象が関係している。バイオロイドは機械と生体のハイブリッドであるが、個人として意思決定を行う「魂」あるいは「意識」がバイオロイドには見出せなかったため、人権関係の法律制定が困難であるとされ、本土での運用を見送られてきた。
しかし、歴史修正事象の発生により、歪められた歴史の先に消失する人々、或いは歪められたが故に存在する人々の「残滓」が国内の彼方此方で、刀剣男士達の「眼」によって観測されるようになった。それは個々に濃度こそ違えど、「魂」と定義するに相応しいモノであった。バイオロイドの研究過程で、この「残滓」を解析し、親和性の高い模擬人格と絡めて筐体に搭載することで、個としての意思決定が可能なバイオロイドが完成した。ただし、その出自により、自己が意味消失した「本土」では存在証明を確立できないため、彼らは人工的に作られた亜空間である時の政府という箱庭の中でしか生きることが出来ないのであった。
「まあ身も蓋もない言い方をすると、立場が違うだけでこの子たちは同じように利用されているんですよね」
「本当に身も蓋もないな」
「ライフリサイクルだなんて言う奴よりマシだと思ってますけど」
「倫理観がおかしくなるよねえ」
「残滓」は歴史修正主義者達も回収を企てており、手足となる時間遡行軍等の実行部隊や他の労働力のリソースとして利用しているため、時の政府は可能な限り「残滓」をこちらで回収するよう、刀剣男士の本霊達に依頼している。
そして、それを回収した刀剣男士が、本来監督官として務めることになるのだが、三日月宗近は放任主義なのか、よくこの見送り行事をすっぽかしているのであった。
「…大体わかった。在り方は我らの分霊に近いな」
「ああ、言われてみれば」
「監督業務はまあ人間の審神者と変わりません。時折コミュニケーションを抜き打ちで取っていただいて、歴史修正主義者への傾倒等の様子がないかどうか、健全な本丸運営ができているかどうか、審神者としての資質は問題ないかどうか、とか見ていてもらえれば」
「その点でいえば従順な人格形成ならわりとつまらない人間観察になりそうだな」
悪口を言われた腹いせか、鶴丸はあからさまにがっかりした表情を研究員たちに見せつけた。
「つまらなくない人間観察になったらこっちが困りますよ」
「人生には驚きが必要だぜ」
「適度かつ適正な塩梅の、を加えてくださいね」
研究員達の釘差しを右から左へ受け流しながら、資料に表されている「初期刀」欄を眺める。
「———人間の写しに刀の写し、か」
「あ、そうだ。鶴丸様が当面代理監督をされるなら、この資料も必要ですよね。
こっちはナイショのほうですんで、頼みますよ?」
中年の研究員からデータではなく小さな一筆箋を手渡される。鶴丸がそれを「視た」瞬間、一筆箋は燃えるように消失した。
「———良い名前だ。
俺が君を、君たちの本丸をしばらく見守ろう」
———そこに記されていたのは、彼女の魂の「真名」であった。


*****

「———それが、あいつか」
こんのすけの説明を受け止めた山姥切の表情は晴れない。こんのすけは更に補足する。
「かといって、人工生命体たるバイオロイドばかりでは…刀剣男士との関係も全てうまく築けるかといえばそうではないのです」
「そうだろうな。現に今俺が災難に遭っている。バイオロイドというのは総じてああなのか?」
全てがあの娘のような審神者だらけの戦場を想像して、山姥切は顔を顰める。こんのすけは慌てて否定した。
「いいえ、人工的に内包される魂、もしくはプログラムされる模擬人格にもそれぞれ個体差があるそうなので…。あそこまで機械的な方はむしろ珍しいみたいですね。
とにかく、全ての審神者がバイオロイドではなく、そうですね…現在は概算で全体の三分の一くらいです」
「意外と人間も多いんだな。まあ…どうでもいいことではあるんだが」
こんのすけの提示したデータを眺めていたところで、審神者となる娘が部屋の格子戸を開いた。
「お待たせいたしました。身支度が整いました」
オーソドックスな巫女装束に身を包んだ彼女は、やはり無表情のまま。人間でないというのなら、人形そのままだ、と山姥切は思う。
「これよりあんたがこの本丸の主だ。
色々と思う事は正直あるが、俺も善処しよう。———色々と」
「…?あなたのアップグレードはまだ政府より実装許可が下りていないと理解していますが…」
「もういい」
頭が痛い。
―——これが、娘と山姥切国広の本丸の、始まりの日であった。
nomichixxxさんのやる気に変化が起きました!
もっと幼少から活字積極的に読んで文章に慣れ親しんでおけばと思ったわね
というわけで、絵かまんがばっかり描いてた(作文がメッチャクソ不得手 書くことは好きなんですけど)自分がまあ色々ありまして体が長期間の座っての原稿作業に向かなくなり、それでもこれだけはちゃんと最初から最後まで書いておきたいなあというのがありまして この度慣れない作文で長編をやることになりました
何分飽き性でもあるので、途中でぽっきり折れないようにリラックスしつつ楽しみながら完走までがんばりたいとおもいます 目標は今年中なんですけどどうかしらね FF14もすぐ次のパッチ来ちゃうからね