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sinzaka
12/14 1:38
オリジナルファンタジーバトル小説 大地の女神の恵み巡り 「大食戦記 狩人のルフィルは今日もお腹をすかせている」
はしりがき
12/14 1:42
ルフィルというのはアイコンのキャラです(お金を払って描いてもらったもの)
長身の女性が、雪山の中を歩いていた。
ごうごうと白い雪と風が吹き付けるが、その歩みはごく自然で足を取られる様子もない。その背中には武具と背負い袋を備えているにも関わらず……きつい斜面の山道を平地のように進んでいく。
水色の長い髪が激しくなびくが、気にした様子もない。透き通るような肌、左が赤、右が黄の瞳。そして冷たい美貌。
身につけているのは長袖の白い服に、鮮やかに赤いロングスカート。高級な品ではあるが都会の人間が着る普段着だ。最も深き山から200km程度しか離れていない雪牙山を登るにはあまりにも不似合いだった。しかし、彼女がそれを身に着けている限りにおいては、そうではない。
まるで、その装いも含めて一種の生物であるかのように彼女は存在していた。
その足が止まった。
彼女が視線を上げる。
数十mほど離れた場所に一匹の獣がいた。
白い毛皮の、四足の肉食獣。どこか猫を思わせる頭の形。この山に住む、雪獅子だった。
「見つけた」
長身の女……ルフィル・スーゼインはつぶやいて、背負っていた武器に手を伸ばす。
その瞬間、雪獅子がルフィルに向かって襲いかかる。三歩の助走の後に跳躍。ルフィルの上から大きな口からのぞく鋭すぎる牙が降り来った。
「よ」
全く動じることなく、背中に回していた両腕のうち、左腕を雪獅子に向けて上から振り抜く。
凄まじい打撃音と硬いものが砕ける音。大きな雪獅子の頭がブン殴られて雪の中に埋まり、その奥にある地面に叩きつけられた。
ルフィルが手にしていたのは、小さな盾だ。直径は50cmほどか。木の板を土を焼いて作る陶で補強した、陶盾だ。
400kgはある雪獅子の突進を盾で殴り潰す。途方も無いほどの力だった。
ルフィルは身体を起こす。陶盾が雪獅子の頭から離れた。
その時だった。
全身のバネを使って雪獅子が跳ね起きる。この山で生き延びる肉食獣は、ただ一度殴られただけで死ぬほどに脆くはないのだ。
もちろんルフィルはそれを知っていた。
左手の盾を横にして、雪獅子の噛みつきを受け止めた。がり、と深く牙を突き立てようとして雪獅子はそれが肉でも骨でもないことに気づいた。しかし遅い。
ルフィルはそのまま、軽く左手を上に持ち上げる。盾に噛み付いたまま雪獅子の上体が起こる。その身体が彼女の目の前に晒された。
素早く右手を突き出す。……そこに握られていた武器が雪獅子の胸に突き立ち、貫き、背中から抜けた。
雪獅子の赤い血を撒き散らしながら顕れたそれは、金属で作られたメイスだった。
本来は打撃に使うそれを、先端は尖らせているとはいえ獣の胸に突き入れて、その強靭な筋肉と頑丈な骨を撃ち抜いて貫通させたのだ。ただ、筋力だけでそれを成すのがルフィルという女性だった。
盾に噛み付いていた顎の力が、抜ける。心臓をメイスで貫かれ、雪獅子は絶命していた。
「よし」
ルフィルは盾を雪の上に落とし、雪獅子の頭を掴んで支える。そしてメイスを引き抜いた。流れ出し、飛び散る血で雪原に染み付く。
当然、彼女の服も返り血で汚れていた。吹き出した血は彼女の胸にとどまらず、その頬と口元にもかかっている。
「落としておかないとね」
ルフィルはそうつぶやいて、風雪の中で停まる。
すぐにその身体から青い気体、あるいは光のようなものがにじみ出て全身を覆う。
これは、この大地によって生命を支える力、霊気だった。生命そのものと言ってもいいそれを扱う技を、霊術という。
ルフィルが全身に施したのは狩人ならば誰しもが使える基本の術、解術(かいじゅつ)だった。これは既に死した生物の身体をほぐし、分解する術だ。
彼女の身体を染めていた血が消えていく。メイスの先に着いていた血もなくなっている。
この術を使えば巨大な獣もほんのわずかな時間で解体することができる……が、とりあえずそれは後でいい。
「よいしょ」
雪獅子の首に縄をかけて、ルフィルが背にしていた袋のフックに結んだ。そのままルフィルは歩き出す。縄でつながった雪獅子の身体はずるずると引きずられて運ばれる。
この程度で雪獅子の毛皮は痛みはしないし、こうしているうちに余計な血も抜ける。ついでに血の匂いに誘われて他の獲物が現れてくれれば万々歳だ。粗雑に見えて合理的な手法だった。少なくとも彼女にとっては。
雪獅子一匹を仕留めれば一日のノルマとしては十分……とはいえ、まだ時間も早い。もう少し狩っておきたいとルフィルは考え、しばし山をうろついてみることにした。まっすぐに登っていた山を、今度は横に歩き出す。
五分ほどそうして歩いた時だった。
ふと、ルフィルは立ち止まる。
何かが、聞こえた気がした。
周囲を見回してみる。当然ながら風と雪に視界は閉ざされているので、霊術で視覚を強化する。数メートル先が霞む吹雪の中でおよそ150mの視界が確保された。
何も見えない。更に聴覚も強化。吹雪の音がどんどん大きくなっていくが……同時に、本来は拾えないはずの音、降り注ぐ雪が地に積もった雪と触れ合う音すら聞こえてくる。
それでも何も見つからない。二つの感覚を強化したまま、ルフィルは歩き出す。
さらに一分ほど歩き、ふたたび足を停めた。今度ははっきりと聞こえた。誰かの助けを求める声だった。
ルフィルは走り出した。 つづく
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