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#湊大瀬
QnrI7gzw3gn5MhB2年前本橋と猿川が喧嘩をしたのである。一世一代の大喧嘩であった。物は壊れるし罵詈雑言は飛ぶし、ドンガラガッシャンドッタンバッタン、殴り殴られ蹴り蹴られ、血で血を洗う世紀の大乱闘であった。二人は最早意味を為さない掠れた怒鳴り声を上げ、縄張り争いをする肉食獣のようなスサマジイ形相で取っ組み合った。
 この喧嘩はハウスの居間で堂々と行われたが、止めに入る者は無かった。入っていったところで喧嘩は止まらなかったであろうし、二人のここまで激しい剣幕を目の当たりにしたのは誰もが初めてだったので呆気にとられてしまったのである。本橋が他人に対してこんなに喧嘩腰になれるのも意外であったが、何よりも、何だかだと言って今まで同居人に強い暴力を振るったり、罵倒の言葉を浴びせること無かった猿川が、容赦なく本橋を殴って、聞くに耐えないような言葉を吐き出すのが恐ろしかった。
 喧嘩は猿川が優勢であったが、本橋もなかなか食い下がった。しかし最後、猿川の蹴りが彼の胸ぐらを掴んでいた本橋のみぞおちにズンと入って、それで殴り合いは終了した。
 猿川は床に沈んで低く唸る本橋をそのままに家を飛び出してどこかへ行き、本橋はその後ゆっくり起き上がってふらふらと部屋に戻っていった。本橋の目には薄らと涙が光っていた。
 喧嘩の終わるのを廊下から見守っていた同居人たち(伊藤、草薙、テラ、天堂)は、どうしたものかと顔を見合わせた。喧嘩に気付いたときには既に殴って蹴ってが始まっていて、話し合いでの和解という道を捨てた後であったので、事の発端も分からずじまいで為す術もない。兎に角様子を見ようということで、その日は何もせずに各々部屋に戻った。