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#天堂天彦
QnrI7gzw3gn5MhB2年前天堂天彦二十二歳は大欠伸をかいた。あまりにも退屈で、今横になればころッと眠ってしまいそうであった。隣に座する両親がそれを咎めるように厳しい視線を送ってくるので、天彦はヤレヤレと思いながらも居住まいを正してキチンと座った。
 今は天彦の見合いの最中である。相手は昔から天堂家として親交のある良家のお嬢さんで、この縁談は向うから持ち出されたものであった。天彦は最初この話を持ち出されたとき、キッパリ「嫌です」と断ったのであるが、母から耳にたこができるほどクドクド説得され、家の面目もあるからマァ見合いだけならということで渋々了承した。
 天彦はこの手の話に乗り気では無かった。何にもとらわれることなく自由な精神を以て多数の女性との交遊を望む彼にとって、法律上の関係を特定の女性と結ぶことは、その自由な精神と交遊を制御する重たく冷たい鎖である。結婚に当たって付随してくる責任は彼にとって邪魔であって、だから一生涯所帯を持つつもりは無い。そもそも家督は兄が継いでくれるので、妻を持つ必要も最悪無いのである。だからこの見合いは天彦にとって退屈で退屈で仕方がなかった。
 双方の両親が畏まって何か話している間、天彦は相手のお嬢さんの容姿をそっと観察した。めかしこんで厚化粧をしていて、派手な着物を纏っている。袖から覗く
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QnrI7gzw3gn5MhB2年前「天彦さんは、いつもあんな時間に家を出て一体何をしているんです?」
「おや、気になりますか」
 昼下がりのカリスマハウス。本橋依央利は夕食の食材の買い出しに出て、他の住人達もそれぞれの用事で家を空け、家の中に居るのは部屋から出てこない湊大瀬と、居間で雑談に興じている草薙理解と天堂天彦だけであった。
 草薙の質問に天堂はニッコリ微笑んで、「それは勿論、性の素晴らしさを世界に発信しているんです」と言った。
「其れがいまいち分からないのですが……」
「理解さんの求むところを察して答えますと、ショウに出てポールダンスを踊っているんですよ」
 天堂は度々、同居人達がそろそろ眠りに就く準備をするような時刻に静かに家を出掛ける。決してやましい事が有ってこうしているのでなくて、彼の仕事は夜遅く、道に人通りも少なくなる時間に始まるのである。
 「世界セクシー大使」を自称する彼が如何にして金を稼ぐかと言うと、レストランやクラブでポールダンスを踊って金銭を得るのである。彼は呼ばれれば何処ででも踊るので、ここいらの界隈に少し知識の有る者ならば彼の名を知らぬ方が珍しい。彼の踊りは日々の鍛錬による力強さと体の靭やかさによる妖艶さを兼ね備えていて、女性のポールダンサーと並んでも引けを取らないと評判が良い。
 彼の返答に、草薙は眉をギュッと顰めて複雑な表情を浮かべた。天堂がポールダンスを踊ることは知っていたし、仕様も無い嘘を吐くような男ではないので彼の言葉が本当らしいということは分かる。夜のショウで踊ることは決して罪ではない。この職を生業とする人はごまんと居るし、ポールダンスは重要な文化、娯楽の一つであるという理解も有る。
 然しだからといって草薙は、同居人に夜の街で働く人間が居るという事実を目の前に突きつけられて黙っている訳にはいかなかった。其れこそ其処に情事の縺れが無いとは限らないではないか。
 天堂は草薙の表情を見て、フ、と苦い笑みを浮かべた。彼は考えている事がそのまま外面に出るので、彼が今何を感じどの様な思考をしているのかが手に取る様に分かる。今迄触れてこなかった事象を初めて彼の「正義」の天秤に乗せているところなのであろう。
 夜間の外出の度にあの巨大な声で言い咎められては堪ったものではない。天堂は草薙の返答を聞くよりも早く口を開いた。
「観に来てみますか、僕のショウ」



「えー、天彦ちゃんのお友達なの〜?」
「ああ、まあ、ええ……」
「やん、可愛い〜」
「お酒飲まないの?」
「え、ああ……」
「あんまり困らせないであげてください」
 草薙の意識は早々に遠のき始めていた。両隣からの甘ったるい声と香水の香り、空気を支配するアルコールの匂いに気が滅入っているところに、聞き覚えのある低い声が聞こえてハッと気を取り戻す。
 眼鏡のブリッジを指で押し上げて声の主……天堂を見上げると、彼は既に衣装に着替えた姿でニッコリ笑っていた。助け舟を出してくれたらしいと一時ホッとしたが、普段と違う雰囲気を纏う彼をまともに見てしまった所為で逆に緊張し、口角がヒクと動いた。
「今夜のお代は全部僕が持ちますから。是非楽しんでくださいね」
「あ、ハイ……」