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#リディールの毒蝶
rinsagiri2年前ロキくんがあまりにも鈍感すぎてさすがにイースさんがかわいそうになってきた(大阪行きの電車の中で書いてた一次創作のやつ途中までちょっと書き足した)フリーヴェルの花。それはセルシアでは珍しくもないありふれた花だ。細長い茎に、咲かせるのはひとつの花だけ。花は手のひらを広げたくらいの大きさで、開ききる前は釣り鐘のような形で下を向いていて、開いた花は星に似た姿をしている。色は赤や黄色、オレンジ、紫と幅広いけれど白色の需要が一番高い。誰もが知っているありふれたこの花は、けれどセルシアの民にとっては「特別」な花だ。その理由はーー

「え、星花祭、ですか?」
 騎士団寮の廊下を歩いているところを呼び止められて、ボクは緩んだ糸目をぱちぱちと瞬かせて聞き返した。
「ああ。一緒に行ってくれないか」
 問いかけるその整った顔は、眉間に皺の寄ったいつもの仏頂面だ。どう見ても楽しいお誘い、という顔ではない。
「えっと、ボクと、ですか?」
 誘う相手を間違えているんじゃないのかな?
 まず思ったのはそれだった。再度目を瞬かせて、ボクは首を傾げつつ、慎重に問いかけた。ああ、そっか。もしかしたら、ボクに話しかけているんじゃないのかも。そう思って周囲を見渡す。けれど、周囲にはボクたち以外は誰もいなかった。あれ?
 白い壁と、木の床を眺めやりながら、おかしいなあってボクは口元に手を当てて考え込む。すると、目の前のイースさんが、理解出来ないものを見るような、残念なものを見るような、呆れを含んだ目をボクに向けた。
「他に誰がいるんだ。お前しかいないだろう」
 苛立ったように強めの口調でそう言って、イースさんがボクに詰め寄った。思わずボクは後ろに足を引き、引き攣った口元を隠すように手を当てたまま、再度周囲を見渡して頷く。
 ……うん、やっぱり誰もいない。だからって、今ひとつ理解が及ばないんだけど。
「そうみたいですね?」って返したボク、ひょっとしたら今すごく間抜けな顔をしているかも。
「どうして疑問形なんだ」
 不機嫌そうにイースさんの眉間に深い皺が刻まれて、鋭い群青の目で不服そうにじろりと睨まれる。う、うわあ。まるで射殺すような目だ。どうしてこんなに不機嫌なんだろ? 困惑しながらボクは必死に動きの鈍い頭を回転させる。
「ええっと、誘われてる理由が分からないっていうか……。あっ! 警備の手が足りないってことですか? いいですよ、手伝います!」
「違う、そうじゃない。どうしてそうなる!」
 張り切って右手を上げ宣言すると、イースさんが声を荒げた。
「あれ? 違うんですか? うーん……?」
 星花祭はとても大きなお祭りだ。ボクは行ったことないから詳細はよく分からないけれど、きっとたくさんの人たちが街に集い、活気に溢れる一日になるんだろう。お祭りに乗じて騒動を起こす迷惑な酔っ払いとか、スリとかも出そうだし、城下町の警備の手が足りなくなるってこともあるのかも。だからてっきり、手の空いてそうなボクに声を掛けたんだと思ったんだけど……?
 考え込んでいると、呆れと苛立ちを必死に抑えつけているような表情で群青色の短髪をぐしゃぐしゃと掻き回し、イースさんが疲れたような溜息を吐いた。
「星花祭だぞ? お前を誘う理由などひとつしかないだろう」
「そう言われても、それ以外に浮かばないっていうか。他に何か理由ってあります?」
 困りきって問い返すと、イースさんが眉をぴくりと吊り上げる。額に手を当て、舌打ちをした後、思い切りボクを睨んだ。
「……ローキッド」
「はい?」
「俺とお前の関係はなんだ?」
「えっ……と? 聖騎士団の同僚?」
「違う」
「ええっと? あれ? あっ! 部隊長と平団員ですか!?」
「そうじゃない!」