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QnrI7gzw3gn5MhB6/30 7:27俺の中学の同級生に、草薙理解というやつがいた。なかなか聞かないような珍しい名前をしていたけど、あいつが変なのは名前だけじゃなかった。
 あいつの学ランはいつもピッチリ上までボタンが掛けられていて、他の男子が行事のときにしか着けない校章も毎日着けてきていた。少し暑さを感じるような冬の日でも、あいつは腕を捲ったりはしなかった。
 上履きは毎週持ち帰っていたのかいつも綺麗な白色をしていて、踵を履き潰したり靴紐を内側に入れ込んだりもしていなかった。ハンケチーフとポケットティッシュはいつでもポケットに入っていたし、鞄や筆箱や教科書や、あいつの持ち物は全部新品も同様に奇麗だった。
 兎に角草薙は他の連中とは違っていた。

 俺が草薙と同じ学級に編成されたのは中学二年生のときだった。始業式の日、俺はあいつを全く知らなかったけれど、一年生のときあいつと同級だったらしい連中がコソコソ喋りながら草薙を盗み見しているのが目に入った。聞こえてくる話を鑑みるにどうやらあいつは嫌われているようで、まぁ問題児など学級に一人はいるもんだしな、と特に気にも留めなかった。
 新しい担任の先生も発表されて、みんなで自己紹介をしようということになった。席の端っこの人から順番に、氏名と簡単な挨拶を述べていく。俯いてボソボソと話すやつもいれば、ちょっとふざけたことを言って笑いを取ろうとするやつもいた。一人の紹介が終わる度に、全員が機械的な拍手を送る。
 まだ学級内で互いに距離を取り、互いを見極めているような雰囲気。みんながそわそわしているのもおかしくない。……が、どうもみんなの落ち着きの無さは、進級したことへの不安や期待のせいでは無いようであった。
 草薙の番が近付いてきた。草薙は俺の三席前、真ん中の号車の左側の、一番先頭の席だった。
 学級内のそわそわは最高潮に達した。クスクス笑ったりするような人も出てきた。先生が見兼ねて声をかけようとする素振りを見せたその時。
 草薙が、ガタンッと音を立てて椅子から立ち上がった。そしてクルリと後ろを向いてこう言った。
「草薙理解! 草薙理解と申します。どうぞ親しみを込めて『理解』と呼んでください」
 巨大な声だった。教室は一時静寂に包まれた。
 草薙の目は赤い色をしていた。あれは我々の行動を抑止する赤信号だった。ピカピカ光る赤信号にジッと睨められて、誰も身動きを取れなかった。
 草薙がその後何も言わないので、先生がパチパチと拍手をした。生徒たちもその音でハッと目覚めるように身体の活動を取り戻して、まばらに拍手をした。
 しかし草薙の隣の席の女の子が恐る恐る立ち上がろうと椅子に手をかけた瞬間、あいつはまた口を開いた。
「中学二年生というのは大切な時期です。来年我々は三年生に進級し、いよいよ高校受験に向かって本格的な準備をしなくてはならない。その基盤になるのは、これから三年生に上がるまでの学習や生活習慣です」
 先までクスクス笑っていた連中が、「始まったよ」とばかりに溜め息を吐いた。誰も突然始まったあいつのスピーチを止められなかった。
「この一年間正しい学校生活を送らずして、人生の成功は有り得ない! 清く、正しく。秩序を重んじて、かけがえの無い思い出を共に作ろうではありませんか」
 今度は拍手の代わりに学級中の苦笑が送られたが、草薙は満足げに椅子に座った。
 次の女の子の自己紹介には、「あんなやつの次になるなんて可哀想に」という同情の拍手が送られた。

 始業式に大変な衝撃を学級にもたらした草薙だったが、俺はその頃、まだあいつのことを悪く思ったりはしていなかった。確かにちょっと変わっているけど、真面目そうだし、ああいう人が一人いたほうが学級は上手くゆくだろう、と呑気に考えていた。
 しかしその考えは一ヶ月と保たず、俺は卒業するまでの二年間をかけて「草薙理解」の異質さを理解していくことになった。
 草薙は毎朝誰よりも早く学校に来ていた。俺の通っていた中学には先生による頭髪検査も荷物検査も無かったのに、俺たちは毎日髪の毛をしっかり整え、無駄な物は決して持ち込まないようにし、制服をキッチリ着こなさなければならなかった。草薙が毎朝校門の前で仁王立ちをしていたからだった。
 男なら必ず前髪は眉毛にかからないようにし、女なら前髪は目にかからぬよう、更に髪の長い子はキッチリ耳より下の位置で結って垂れてくる髪の毛はピンで留めなければならなかった。学ランのボタンは一番上まで留め、セーラー服のスカーフは曲がらぬようにしなければならなかった。さもなければあの鼓膜によく響く声で、「☓組出席番号☓番、☓☓さん! 前髪が目にかかっています。ピンで留めるか切るかしてください!」だの「君は確か一年の☓☓君ですね。ボタンをしっかり最後まで留めてください」だのと口煩く注意される。(草薙は全校生徒の氏名と所属学級とをほとんど覚えていた。全校生徒は少なくとも合わせて五百人以上はいた)
 俺は毎日登校時間ギリギリに校門に滑り込んでいたので草薙の頭髪検査を受けたことは無いが、教室に入ると必ず「遅い!」と怒られた。
 一番恐ろしいのは草薙がこれを自主的に行っていたということで、というのも草薙はどの委員会にも所属していなかったのだ。可哀想に、どこの委員会に立候補しても草薙理解に手を挙げるやつはほとんどいなかった。学級委員を決めるとき、最初は立候補者が草薙しかおらず学級内に不穏な雰囲気が流れ始め、結局その後ほとんどの男子が「草薙に決まるくらいなら」と次々に挙手をし、結果当たり障りの無いような男子が学級委員と相成った。
 人望が無いというより、あいつに役職を与えて更に増長させる訳にはいかないというある種の生存本能的なものが皆に働いてしまっていたのだ。
 そういう訳で草薙はずっと書記係か植物係辺りに落ち着いて、しかし毎日元気良く皆を統制しようと声を張り上げていた。良い迷惑だった。
 どの委員会にも入れなかった草薙だが、一つだけ、誰もあいつの加入を阻止できなかった組織があった。
 応援団だ。
 応援団は体育祭等での応援の他、全校集会等の際に生徒会執行部と連携して指示を出す。草薙の立候補を知ったとき、誰もがやめてくれと心から願ったが、その必死の思い虚しくあいつは応援団に入団した。
 俺たちの敗因は、団員の選出方法が多数決でなかったことにある。応援団の担当の先生が、オーディションによって誰を入団させるか決めるのだ。
 あの声の大きさ、口の達者さ、役職に対する暑苦しいほどの熱意に関して草薙の右に出る者はいなかった。
 俺たちは体育祭の開会式や閉会式、全校集会で草薙が喋るたびに、変なことは言ってくれるなよと切に祈りながら神妙な顔をしてあいつの話を聞く羽目になった。
 一つ助かったこととすれば、応援団長に関しては団員たちの話し合いによる決定だったということだ。草薙は団長にはなれなかった。

 俺は三年生になっても草薙と同級だった。進級し、新しい教室に入ってあの赤い瞳を見たとき、俺は心から絶望した。
 進級後間も無く、俺たちのクラスに転入生がやってきた。確か名前はマエダといったはずだ。
 隣県の中学校から転校してきたマエダは、明朗快活でいつでも笑顔を振りまいている愛想の良いやつで、運動ができて、気の利いた面白いことが言えて、絵に描いたような「人気者」だった。成績は余り良い方では無かったようだが、誰にでも分け隔てなく接し、学級の中心となって皆を引っ張り、面白おかしく皆を一つに纏めていた。マエダは、立候補した草薙を除く全会一致で学級委員となった。
 草薙は三年生になっても相変わらずだった。しかし、俺たちはそれほど草薙の行動に困らせられることは無かった。
 マエダという新たな指導者が生まれたことで、草薙の指示や注意は以前ほど威力を持たなくなったのだ。草薙が声を張り上げるより前にマエダが優しく諭すように皆を宥める。草薙が長々と話す意味の分からない話を、マエダが上手く無視して雰囲気を明るくする。マエダの評価が上がるほど、皆は草薙のことを段々と気にしなくなった。
 二学期が始まったばかりのある日、国語担当の先生が急遽学校を休むことになり、二時限目の国語の授業が丸ごと自習時間となった。唐突のことなので代わりの先生は付かず、何かあったら隣の学級まで来いということになり、つまりほとんど何をしても構わないという時間になった。
 何人か真面目な、または受験勉強を始めているような連中は教材を机に広げていたが、後は各々談笑に興じたり勉強に関係の無いような物を机に広げたりしていた。学級中がガヤガヤとうるさく、最初の方に静かにするよう軽く呼びかけていたマエダも、前の席の男子と喋ってアハハと笑い合ったりしていた。
 誰もあの状況を咎めるようなやつはいなかった。せっかくの先生のいない空間で、互いに「先生が来たときには上手く誤魔化そう」という暗黙の了解の下、やりたいことを好きなようにやっていた。
 開始の鐘が鳴ってから二十分ほど経ったそのとき、当時一番左側の最後列の席だった草薙が、ドン! と机を叩いて立ち上がった。
「うるさい!」
 学級内がシンと静まり返った。
 そして誰もが、ああまた始まったよ……と心中で溜め息を吐いた。お前がうるせえよ、と苦笑いを浮かべるやつもいた。そして皆すぐに興味を無くし、各々の作業や話に戻ろうとした。
 しかし。
「ああ! 愚かだ。実に愚かだ。黙って見ていれば何の益にもならないことをペチャクチャペチャクチャまあよく喋る。ああ、ハハ。さながらここは動物園の猿山だな、一年生たちの校外学習には我らが教室が相応しいかも知らん。言ってる意味が諸君に分かるかい。何も考えずにキーキー鳴いて喚く猿のようだと言うんだよ、僕は」
 草薙は止まらなかった。いつもと様子が違っていた。あいつは自分の席から教壇に向かってゆっくり歩きながら、ニコニコ笑ってあの脳に響くような大声で話し続けた。
「賢い君たちにはよく分かるはずだ。『授業中に騒いではいけない』。たとえそれが先生方不在の教室で行われる自習の時間であってもね。なぜか? 学級の、学校の風紀が乱れてしまうからだ。風紀の乱れ、それ即ち先の諸君の態度だ。」
頑張って!
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いつもありがとう!
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一緒に頑張ろう!
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