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掛内翔9/25 19:51都市伝説とクトゥルフをかけ合わせた一次創作です。カクヨムで不定期に更新してますが、載せる分量じゃないけど自分を追い込むために書けたところまで載せてこうと思います。プロローグ
*
*
*

 おれは昔から怪異や都市伝説といったものが大好きだ。
 いつかそういうモノに遭遇してみたいと思っているが、現実にはそんなモノはない。
 でももし本当にそういった――怪異に遭遇したとしたらどうするか。
 怪異好きとして観察するか、手で触れてみるか、もしくは話しかけてみるか。
 たぶん、違う。

 おれは間違いなく――逃げるだろう。

   *

『逃げるなんて、同じ怪異を愛する者として嘆かわしいですね。せめてそこは正体を見極めるとか言わないんですか』
 スマホが短く震え、画面にメッセージが表示される。送り主は古ぼけた本のアイコンに、アイネという名前。
 アイネは中学時代SNSで知り合った友達だ。といっても顔を見たこともなければ声も聞いたこともない。でも同じ怪異話が好きな者として、リアルも含めた中で一番仲の良い知り合いだ。
 今みたいな学校の休み時間のように、空いてる時間があればアイネとはよく話している。
『こっちは異能とか持ってる高校生じゃないんだぞ。怪異になんか遭遇したら、殺される一択なんだから、逃げる以外にないだろ』
『イチロは怪異同好会メンバーとしての自覚がありませんね。怪異まとめのあ行から全部見直して来て下さい』
 イチロとはおれの名前だ。本名は真渡一郎(まわたりいちろ)。「いちろう」ではなく、「いちろ」と読む。どうして「いちろう」ではなく「いちろ」なのかと親に聞いてみたが、差別化だという本当なのかどうかわからない答えが返ってきたのを憶えている。その差別化のおかげで、ありがたいこと初対面で読み方を当てられた人は今までいない。知らない人にはそれが本名だと思われないため、SNSのアカウントでも「イチロ」と名乗っている。
 おれと違ってさすがにアイネは本名じゃないだろうけど。
「よ、イチロ。今日もせっせと都市伝説の収集か?」
 アイネに返事をしようとしたところで、近くでグループを作っていたクラスメイトが話しかけてくる。おれとは普段交わらない、陽気で活動的なグループだ。おれは顔も上げずに適当に返事をする。
「実はさ、今度女の子何人かと廃墟探索? ってのに行こうって話になってさ。イチロならちょうど良い感じのところ知ってるだろ。お勧め教えてくれよ」
「廃墟探索が好きなんて、良い趣味してる女の子だな」
「変な趣味だろ、でも可愛いから許す。あ、でもお前は数に入ってないからな、お勧めだけ教えてくれれば良いからよ」
 滅茶苦茶危険な場所を教えてやろうかという考えが一瞬よぎったが、何か事故があっても困る。怪異探索系動画で良さそうなところでも送ってやれば良いか。
「後で送っておいてやるよ」
「うい、サンキュ……」
 すっと影が差し、おれは顔を上げた。
「ごめん、そこどいて」
 濃い紅茶色の髪をした少女がそこに立っていた。氷を切り出したような白い頬に、物憂げに少し閉じられた瞳、ほのかに筆で桜色を走らせたような小さな唇。顔立ちは整っているが、どこか存在感の薄い人形のような女の子。
 おれの隣の席の、比良守祈里だった。
「席、座りたいから」
 感情の読めない瞳が、おれたちをじっと見つめる。
「ああ……、そうだ、今イチロと話してたんだけど、比良守さん廃墟探索とか興味ない?」
「ごめん、興味ないから」
 抑揚のない声で祈里がそう答えると、誘ったクラスメイトは乾いた笑いを浮かべた。
「そ……そうだよね、ごめんごめん。はは……今どくよ」
 祈里が無言で椅子を引いて席に着くと、さっきまで話していたクラスメイトたちも顔を見合わせて離れていった。
 人目を惹く顔立ちのため、祈里は去年高校に入ったときから三年生まで含めて数多くの男子から告白されたらしいが、そのすべてをあっさりと断ったということで有名だった。親しい女子生徒の友達もいないようで、ときどき遊びに誘われているのを見かけるがそれも断っているようだった。
 おれも二年生になって同じクラスになり、隣の席になって三週間経つが朝の挨拶以外で言葉を交わしたことがなかった。休み時間もひとりでいるところしか見たことがない。
 おれが見ていることに気がつくと、祈里が少し顔を傾ける。眠たそうに少しまぶたを閉じた目が、見ていたことがバレたと慌てるおれを捉えた。
「ねえ、イチロ君もさっきの廃墟探索に行くの?」
 それは意外な言葉だった。祈里が他人に自分から話題を振っている姿を見たことがなかったのもあるが、廃墟探索に興味を持っているというところも予想外だった。
「い、いや、行かないけど。良い場所があるかって聞かれてただけで、誘われたわけじゃなかったから……」
 正直に答えると、祈里は小さく頷いた。
「そうなんだ。うん、行かない方が良いよ」
「え?」
「そういうの、やめた方が良いから」
 それってどういう、と聞きかけたところで祈里はこれ以上話すことはないとでも言うようにおれから視線を外した。会話のはしごを急に外されたおれは、問いかけた言葉を無理矢理飲み込んで視線をスマホに戻した。
 話している間にアイネからのメッセージが大量に届いていた。半分以上が無視するなというものだったが。
 指を上に弾きつつログを流し読みしていく。そのうちの一通で、指が止まった。
『そういえばイチロが住んでる街で、最近怪異の目撃談が何件か上がってるみたいですよ』
 そのメッセージに、おれはぴくっと眉を上げた。アイネはとにかく情報通で、最新の怪異の目撃情報や新しくできあがりつつある都市伝説などをほかのどの怪異系SNSよりも早く教えてくれる。
 祈里から言われた言葉を忘れ、おれは一も二もなくアイネに場所を尋ねた。

   *

 見上げた白い月を背に、赤黒い長身の影が伸びている。
 服の袖から覗く病的なほど白い手には、身長を超えるほど長い棒を手にしている。
 腰に届くほど長い髪の隙間から見える女性的な顔つき。
 しかしその片足は、影を切り抜いたかのように失われている。
 さらにその口は――

「ねえ、わたしきれい?」

 ――耳元まで大きく裂けている。
 裂けて赤く爛れた口の肉を震わせて、その人影が再び「わたしきれい?」と尋ねてくる。

 ――おれはこの日、怪異を知った。
掛内翔さんのやる気に変化が起きました!1-1 正気の終わり
*
*
*
 水音が小さく響く。
 二人分の荒い息が、四月の肌寒い空気の中に白く帳を作る。
 唇が押し当てられ、歯の隙間を舌がこじ開けて入り込んでくる。ぬるっとした粘膜同士が触れ合い、生暖かい唾液が喉奥に流し込まれる。
 呼吸をするために唇が離れると、つぅっと透明な糸が伝う。
 おれは視界の中で肩を揺らして息を整える祈里を、呆然と見ていた。
 いつもの感情のない瞳とは違う、熱っぽく潤んだ双眸がおれを映している。
 冷たい氷のような頬は上気し、燃えるように朱色に染まっている。
 鼻先にかかる祈里の吐息が、甘く蠱惑的な匂いを鼻腔に運んでくる。
 意識を失いそうになるほどの心地よさに抗って、おれは祈里に声をかけようとする。
「もう少しだけ……我慢っ……して……」
 開きかけたおれの口を、祈里が再び自分のそれで塞ぐ。祈里の舌がおれを味わうように口の中を丹念になめる。
 重ねた祈里の口から小さく声が漏れるたびに、ゾクゾクと全身に甘美なしびれが走った。
 強く唇を押しつけられるたびに頭がアスファルトの地面をこすったが、そんな痛みもまるで気にならなかった。
 上から身体をかぶせられているため、否応なく祈里の凹凸をわからされる。じんわり伝わってくる体温と早鐘のような鼓動が、状況が飲み込めずに混乱する頭とは裏腹に身体を昂ぶらせていく。
 どうしてこんなことになったのか、とぼんやりする頭でおれは考えた。
 おれはアイネから情報を聞いて怪異を探しに来て――怪異に遭遇した。

 見上げた空には満月。
 蒼ざめた光が祈里に影を落とし、その瞳に浮かぶ正気を失った光を鮮やかに映し出した。

   *

 朝からずっと、身体がふわふわしたように感覚がなかった。
 起きたときから頭は熱帯びているようで、自分を一歩後ろから見ているような非現実感。
 学校に来て自分の席に座り、いつも通り授業を聞いている今もまだ夢の中にいるようだった。
 ちらっと隣の席に目をやると、そこには普段と変わらない祈里の姿があった。表情の読めない瞳を黒板に向け、頬杖をついている。
 本当に昨日、祈里は――

「おい、真渡。この問題の答えは? ん? なんだ口元ばっかり触って、腹でも減ってるのか?」

 先生に当てられて、おれはびくっと跳ねる。気がつくと、指で唇をなぞっていた。
 慌てて立ち上がり先生に言われた教科書のページを開くが、普段なら答えられそうなぐらいの問題だったにもかかわらず頭の中は真っ白になってて答えは出てこなかった。
「す、すいません。わかりません」
 正直に答えると、先生はため息をついて座って良いと手で促す。座ろうとしたとき、何人かよく話す友達がにやにやと笑っているのが見えた。うるさいと手を振って、おとなしく席に着く。
 もう一度祈里を見たが、眉一つ視線一つ動かさず、微動だにしていなかった。おれのことなんか興味がない、というより眼中にないというように。
 やっぱり昨日のは夢か何かだったんだろう。多くの男子生徒の視線を釘付けにしながらも、恋愛事に一切興味関心を持たない祈里がおれに迫ってくるはずがない。
「そうだな……じゃあ隣の比良守、答えてみろ」
 先生が祈里を指したが、それに対して何の反応も返ってこなかった。
「ん、聞こえてなかったか? 比良守、この問題を答えられるか?」
 首を傾げつつ先生がもう一度声を上げると、祈里は目を瞬かせて慌てて立ち上がった。そのらしくない姿に、何人かがどうしたんだろうとささやき合う。
「え……っと、すいません。わかりません」
 祈里の答えに、先生は驚いたように目を見開き、ささやき声はさらに大きくなった。祈里はおれよりも成績が良く、普段のおれなら答えられそうな問題が答えられないなんてことはないはずだった。
「そ、そうか。わかった、座って良い。ちゃんと授業を聞くようにな。しかし真渡はともかく、成績優秀な比良守も答えられないなんて、お前たち何かあったのか?」
 からかうように先生が言うと、はははっとみんなから苦笑が漏れる。当然だ、祈里がおれなんかと何かあるはずがない。
 はずがない、んだけれども――

「な、何も……ない、です……」

 声をわずかにうわずらせて答える祈里に、クラス中がシンとなった。
 それ、絶対に何かあったやつが言う台詞じゃないか。
 全員の視線を受け止めながら、祈里が椅子に座り直す。そのとき、一瞬だが祈里の視線がおれと合ったような気がした。
 先生が一拍遅れ、気を取り直して次の生徒を当てるが、クラスのそこかしこで聞こえるほど大きなささやき声が上がりはじめる。中身は当然祈里とおれについての話題だ。
 しかしおれはそんなことは気にならなかった。頭の中を占めているのはたったひとつのことだけだ。
 昨日のことは……本当にあったことなのか?

   *

『噂を総合すると、目撃証言のあった怪異はカシマレイコです』
 日付が変わる少し前、おれは家を出てアイネから聞いた場所に向かって歩いていた。
 カシマレイコはかなりポピュラーな怪異だ。カシマさまと呼ばれたり、話そのものもバリエーションが多くある。多くの場合で共通しているはカシマレイコ自身が身体の一部が欠損もしくは火傷等の傷を負っていること、問いかけを受けた場合適切な答えをしないとこちらの身体の一部を奪われるというものだ。
『イチロなら対処方法はわかってますよね。わざわざ教える必要はないですよね?』
 こちらを試すようなことを言いながら、対処法を次のメッセージで送ってくるのがアイネの良いところだった。
 でも素直にありがとうというのは負けな気がしたので、『このツンデレ』というスタンプだけ送っておく。
 アイネから送ってもらった対処方法を眺めつつ、おれはふと疑問が浮かんだ。
 怪異にも出現条件というものがある。それは特定の場所だったり、モノだったり様々だが、カシマレイコの場合は『カシマレイコの話を聞く』ことが条件になっている。しかしアイネがおれに伝えてきたのは出現場所だ。
 その出現場所はこの街でもあまり人が住んでいない地域で、小さな廃工場や廃屋も点在しており、ホームレスなどが寄りつくため夜間は近づかないようにと言われているところだ。それゆえにいろんな怪異の噂があるところだが、今までカシマレイコが出たなんて話は聞いたことがない。
 思ったことをアイネに言うと、すぐに返信が来た。
『だから、今伝えたじゃないですか』
 アイネのその言葉に、おれは足を止めた。
『だから、カシマレイコの話ですよ。今イチロは聞いたじゃないですか、わたしから』
 ちょっと待て、なんだかその言い方は……。
 おれは周囲から音が消えていることに気がついた。
 アイネと話しながら歩いてきたからあまり注意していなかったが、大通りから外れてすでに教えられてた出現地域に入っていた。街灯もあまりなく、細くなった路地のあちこちに暗闇で見えない場所ができている。
 家を出るときは気にならなかったが、四月の半ばを過ぎて暖かくなってきたはずの夜気がやけに肌寒く感じた。
 今までに何度か夜にこの地域に来たこともあったし、ほかにも心霊スポットをひとりで回ったことはある。一度も途中で帰りたいと思ったことはなかったが、今日は何故かそう思った。
 アイネに一言言ってから帰ろうかと思い、スマホに目を落としたところで、

「ねえ、わたしきれい?」

 そばの暗がりから、そんな声が聞こえてきた。  
「はい?」
 反射的におれが聞き返すと、影が動いた。
 一歩、人ひとり分の黒い塊がおれに近づいてくる。つられるようにおれは一報しろ似下がった。
 さらに一歩、距離を詰めてくる。暗がりから抜けて、人影が薄い月の光に照らされる。
 赤いコートに身を包んだ何かがそこにはいた。
 服の袖から覗く病的なほど白い手には、身長を超えるほど長い棒を手にしている。
 腰に届くほど長い髪の隙間から見える女性的な顔つき。
 しかしその片足は、影を切り抜いたかのように失われている。
 さらに――

「これでも、きれい?」

 ――マスクを外したその下。その口は耳元まで大きく裂けている。
 裂けて赤く爛れた口の肉を震わせて、その人影が再び「わたしきれい?」と尋ねてくる。
 口裂け女。
 身体は動かなかったが、やけに冷静な頭はその名前をはじき出していた。
 間違いなく目の前にいるのは、口裂け女だ。何度も何度もそれについての話は読んだし、耳にしたこともある。
 一番初めの問いかけに対して、おれは適当に、はいと答えてしまった。それは口裂け女に対して一番してはならない答え。そのせいで口裂け女がマスクを取り、その醜く裂けた口を開いて「これでもきれい?」と続け、次の段階に入ってしまった。
 口裂け女を退散させるためのキーワードは確か――

「その足、いる?」

 次の言葉に、おれは思考すら停止した。
 その台詞は口裂け女のものではない。その台詞を言うのは、

 振り下ろされた何かが、おれの足を通過していく――

 いつの間にかおれは後ろに倒れ込んでいた。それから、足に走った熱、じわじわとズボンを濡らしている何かに気がつく。
 口裂け女が持っていた棒の先端、鎌のような刃がついたそれからも黒い滴がこぼれ落ちていた。
 切られたのだとわかったのは、遅れてやってきた痛みに顔をしかめてからだった。
 足、おれの足はどうなった?
 どっと汗が噴き出す。口からは自分のものとは思えない奇妙な叫び声が漏れ出す。
 見たところ足はくっついているようだったが、どれだけ深く切られたのかはわからなかった。
 逃げなきゃ。逃げなきゃ。
 頭の中ではうるさいほど逃げろと自分が言っていたが、身体は震えるばかりで動こうとしない。
 口裂け女が再び鎌を振り上げながら近づいてくる。次は間違いなく、足が切断される。
 ドクドクと心臓が痛いほど鳴り響く。指先の感覚がなくなり、生暖かい汗が首筋を流れ落ちる。自分の呼吸音がやけに大きく聞こえた。

 後ろから転がってきた小石が手に当たった。

「え?」
 おれのそばに影が伸びる。
 顔を上げると、口裂け女の顔がおれに向いていないことに気がついた。
 砂利を踏みしめる音ともに、誰かがおれのそばを横切る。
 弱い月光の中で、濃い紅茶色をしたセミロングの髪が踊る。
「……ひらか……み……?」
 普段の感情のない表情とは違う、張り詰めた緊張感と強い意志を感じさせる瞳で祈里が口裂け女と対峙した。
 鈍色の光が閃く。それが口裂け女が鎌を祈里に向かって振り下ろしたものだとわかったのは――

「少し待ってて、イチロ君」

 ――祈里の両の手がその凶刃を挟み込んで止めた後だった。
 おれは逃げろ、という言葉を飲み込んで祈里の背中を見た。普段教室で見るどこか存在感のないそれとは違い、この非現実的な世界の中で唯一現実を感じられる強さを持っていた。
「あなた、カシマレイコさんなんでしょ?」
 祈里が手を震わせて鎌を受け止めながら、鋭く息を吸う。
「カシマレイコさんお帰り下さい。カシマレイコさんお帰り下さい」
 それはカシマレイコを退散させるための言葉だった。
 ぴたりと鎌の動きが止まる。耳元まで裂けた口が、苦しげにゆがんだように見えた。
「……その足、いる?」
 その質問に、祈里は素早く答えた。
「今必要です」
 それがカシマレイコの問いかけに対する正解。相手がカシマレイコならそれで終わりだ。

 鎌に再び力が込められ、祈里が目を細めた。

 相手が、カシマレイコなら。
 祈里がどうして、と疑問を口にする。どれだけの力が込められているのかわからなかったが、鎌は徐々に祈里に近づいていた。
「逃げて、イチロ君」
 祈里が苦しげに顔をしかめながら、おれに振り返ってそう言った。
「逃げて」
 鎌を挟み込む両手はぶるぶると震え、白くなっている。祈里が限界なのは明らかだった。
 だけれども、祈里のおかげでおれは落ち着きを取り戻していた。
 震える喉は息を吸おうとして一度咳き込んだが、二度目はかろうじて空気を肺に通すことができた。
 退散のキーワードは、もうひとつある。
「ポマード、ポマード、ポマード!」
 それは口裂け女の弱点である言葉。
 最初の時点でおれは気がついておくべきだった。
 口裂け女とカシマレイコは別々の名称、エピソードで語られることが多い。しかし同一存在であると言われることもある。口裂け女の証である赤いコートとマスク、耳元まで裂けた口。そしてカシマレイコを示す身体の一部分の欠損と鎌。
 つまり目の前にいるのは、口裂け女『カシマレイコ』だ。
 おれの叫び声と共に、口裂け女カシマレイコは鎌から手を離し、声のない悲鳴を上げながら崩れ落ちた。ざわざわと身体の表面が波打ち、色彩を失って黒い影へと変わっていく。
 生きているように蠢くそれを見ながら、おれは震える膝で立ち上がった。
 これで終わったのか?
 その考えを否定するように影は不規則に動くのをやめると、ゆっくりと鎌首をもたげた。
 口裂け女のような爛れた口もなく、カシマレイコのような凶刃も持たないそれは、暗闇の中でもさらに黒く、見ているだけでどこまでも落ちていく深淵が覗いているようだった。おれは背筋に氷を押し当てられたように全身を震わせ、後ずさった。
 祈里が影とおれの間に立ちはだかった。
 目の前の影にも動じた様子のない祈里は、そこから表紙がぼろぼろになった小さな手帳を取り出した。片手で器用に手帳を開くと、びっしりと文字が書き込まれたページが露わになる。何かの言語が手書きの文字で書かれているようだったが、その内容はわからなかった。
 ただその文字を見ただけで、頭がぎりぎりと締め付けられたように痛んだ。
 静かに、祈里が息を吸った。

「×××××××××××」

 祈里の口からが何かが紡がれた。
 リズムが狂った歌詞のような、意味のある言葉とは思えない音が頭をぐらぐらと揺らす。聞いているだけで世界が歪み、体内さえもひっくり返っていくような気持ち悪さに身体がよろめく。
 緑色の燐光が祈里の身体から生じ、渦となって影を取り囲む。表情を浮かべる顔さえなかったが、影は緑の渦の中で悲鳴を上げるように身をよじった。
 それがどれくらい続いたのかわからなかった。ほんの数秒だったのかもしれないし、数時間だったのかもしれない。ただ気がつくと、周囲には慣れ親しんだ夜の平穏が戻っていた。
 そこには影はなく、手帳を片手にした祈里が立っていただけだった。
 どう声をかければいいのかわからなかったが、おれは何か言おうと口を開きかけた。
 それが音を成す前に、祈里が膝から崩れ落ちる。
「――っ、はぁ――、はぁ――」
 胸を押さえて、祈里が痛みをこらえるように大きく呼吸を繰り返す。
「だ、大丈夫か」
 駆け寄って顔を覗き込むと、祈里は額に大粒の脂汗を浮かべてもだえていた。
「い、イチロ君……」
 祈里が上目遣いにおれを見る。その瞳には、感情とは異なる光が瞬いていた。必死に何かをこらえようとするように、肩を大きく揺らして荒く息を吐き出す。
 どこか怪我をしたのかと思ったが、何も見当たらない。
「もう駄目……限界みたい……」
 限界って何が、という言葉は空に消えた。
 ものすごい力でおれは地面に押し倒され、祈里がおれに馬乗りになる。
「――ごめんね」
 何がと訊く前に、おれの唇は祈里に塞がれた。
1-2 狂気の幕開け 
*
*
*
 昼休み、祈里に手を引かれて校舎裏に連れてこられたおれは物陰に入った瞬間に壁に身体を叩きつけられた。
 文句を言う隙もなく、昨晩と同じように唐突に口を塞がれる。
「――んっ」
 祈里が小さく声を上げる。
 暖かくて柔らかい唇が押しつけられ、ぬるぬるした舌が絡み、ごくりと唾液を飲み込まさせる。息をしようと空気を吸い込むと、鼻腔をくすぐる祈里の甘い匂いで頭がクラクラする。思わず意識を失いそうになるほどの気持ちよさに全身がしびれるが、気を失うことは許さないというように祈里が身体を押し当ててその感触を無理矢理にでも感じさせてくる。
 昨日の夜と同じ――いや、あのときは立て続けに起こった現実とは思えないような空気の中だった。でも今は校庭や教室から聞こえてくる人の声、鳥や風のささやき、遠くから響く車の音がこれが現実であることを伝えてくる。それが一層、今祈里にされていることの非現実感と生々しい祈里の感触という相反する感覚を高めていた。
「――はぁっ――はぁっ」
 これ以上されると祈里に溺れて窒息する――そんなふうに感じたところで息を荒げながら祈里が身を離した。おれも同じよう肩を揺らしながら呼吸を整える。
 鼻先が触れるほどの近さで、お互いの視線が絡まる。
 おれはそこで、祈里の瞳の中にこれまで見たこともない昏い光が灯っていることに気がついた。何かの感情とも意思とも異なる、底の見えない孔を覗き込んでいるような感覚に肌が粟立つ。
 祈里が短く息を吸い、おれが何か口にしようとしたところへ、

「祈里。また〈発狂〉したみたいですけど、そのまま続けてたら昼休みが終わってしまいますよ」

 横合いから声がかかり、おれたちは振り向いた。
 肩口のところで切りそろえた青みがかった髪、眠たそうに半分閉じた目の下には深いクマ、幼さを感じる顔立ちだが不機嫌そうに眉根を寄せているせいで少し近寄りがたい印象の少女が、ポケットに手を入れておれたちを呆れたように見ていた。肩口からは01の青い燐光が舞っている。
「アイネ……?」
「ええ、昨日ぶりですね。イチロ」
 昨夜アイネと名乗った少女は親しげにおれに声をかけた。

   *

「大丈夫ですか、祈里」
「……うん、今は落ち着いた」
 おれから祈里を引っぺがすと、アイネは今はもう何も植えられていない花壇に座らせる。自分もその隣に座り、おれを手招きする。
「聞きたいことはたくさんあると思いますから、まずは腰を落ち着けてから話しましょうか」
 アイネが祈里を落ち着かせるように背中を撫でる。祈里の目から先ほどあった得体の知れない光は消えて、いつもの感情の読めない瞳に戻っていた。たださっきまでの名残か、頬は少し紅潮し、白い首筋には汗が浮かんでいた。
 おれが見ていることに気がついたのか、祈里が顔を上げる。わずかに濡れた唇に、ついさっきまでの感触が生々しくよみがえって――
「イチロ?」
 アイネの声にはっとなって慌てて視線をそらす。
「続きをしたいのなら、わたしは外しましょうか?」
 ジト目のアイネに、おれは全力で首を振った。
「話! 話をしよう。そう、わからないことだらけだから」
 ふっとアイネは鼻で笑い、座れと指を下ろす。え、地面に?
 何故か正座をしなければいけないような気がして、おれは小石を払いながら膝をつけた。
「さて、何から聞きたいですか、イチロ」
 正直なところ何から聞けば良いのか、頭が整理できてなかった。一度にいろんなことがありすぎて、全部自分の妄想だったんじゃないかとも疑えてくる。
 でもそれよりも何よりもまず先に確認しなきゃいけないのは――
「……何ですか?」

 ――しれっと現れたこいつのことだ

 おれの視線に、アイネが訝しげに目を細める。
「本当にアイネ、なのか?」
 毎日SNSで怪異談義に花を咲かせていた人物が目の前の女の子だと言われても、まったく飲み込めなかった。
「わたしがアイネだと信じられないってことですか?」
 昨日の夜、祈里の襲われるおれの前に突然現れてアイネだと名乗っただけで信じてもらえると思う方がどうかしてる。
 おれにアイネという知り合いがいるということは誰にも話したことがない。つまりおれをイチロと呼び、自分をアイネだと名乗ってる時点で信じる以外にないのだが。
「自他共に認めるオカルトオタのせいで、都合の良いときだけ声をかけられて、でも遊びには誘ってもらえずにひとり寂しい高校生活を送っているイチロをただひとりだけ相手にしてくれてるアイネちゃんだと信じられないってことですか?」
「オカルトオタじゃない、怪異系オタクだ。ってかなんでそんなこと知ってるんだよ」
 アイネは何ででしょうねというわざとらしい表情を作りながら、祈里を見る。
「祈里とも知り合いだったのか……」
 祈里に友達がいるという話を見たことも聞いたこともなかったが、まさかアイネと知り合いだとは思わなかった。
「安心して下さい。イチロに友達がいなくても、わたしがイチロのことを唯一相手にしてくれる女の子だということは変わりませんから。わたしにはたくさん知り合いがいて、イチロはその大勢の中のひとりだとしても」
「その悪意のある慰めはやめろ。あと、友達はいるわ」
 たぶん。
「ああでも、わたしが唯一相手にしてくれる女の子だからといって勘違いしないで下さいね。わたしは誰にでも優しいのであって、イチロに対してだけ特別優しいわけじゃないんで」
「さっきから優しさの欠片も感じられないのに、どうやって勘違いしろっていうんだよ」
「べ、別に勘違いしないで下さいね。あなたにだけ特別優しいわけじゃないんだから」
「セリフの問題じゃない。あと、言うならせめて感情を込めろ」
 おれは額に手を当ててため息をついた。今のやり取りで、なんとなくこいつがアイネだと実感できてしまった。
 毎日チャットしてた相手が同い年ぐらいの女の子だったなんて、どんな怪異譚よりも現実離れしてる。
 しかし相手がアイネだと言うことがわかると、自然と疑問が口をついて出た。
「昨日のアレ……何だったんだ?」
 赤いコート。耳元まで裂けた口。欠損した片足。振り上げられた鎌。得体の知れない影。現実感のないそれらが、脳裏にまざまざと蘇ってくる。
「怪異です。イチロも知っているとおりの」
 アイネのあっさりした答えに、おれは身を乗り出した。
「怪異って……そんなのあるわけないだろ。だいたい昨日アイネはおれにカシマレイコって言ったくせに、出てきたのは口裂け女とカシマレイコの特徴が合わさったものだったじゃないか。確かにつながりはあるっていう説はあるけど、口裂け女カシマレイコとして出現した話なんて聞いたことないぞ。第一、撃退ワードを言った後に残った影は何だよ。比良守が唱えた呪文みたいなのも、あんなの聞いたことがないぞ」
「はいはい、どうどう、イチロ。落ち着いて下さい。順番に答えますから」
 勢い込むおれを抑えるように、アイネが両手を突き出す。
「まず最初に怪異ですが、目撃例のほとんどが特徴の一致する人物や事件が偶然あったというものやただの創作でしかありません。でも、昨日イチロが実際に遭遇したように本物も極まれにあります。イチロだって、本当の怪異を見てみたいって常々言ってたじゃないですか」
「そりゃ……まあそうだけど……」
 それは実際に遭ってみる前の話だ。
「怪異とは人の強い想念により引き起こされる事象です。怪異が発生する条件はいくつかあります。多くの人たちの思念が集まり、よどんで溜まった場合。まあだいたいが負の感情ですから、人に危害を加える怪異ばかりですね。それ以外に人間が怪異になってしまう場合。恨みなどの強い感情を溜め込むことで存在自体が変わってしまいます」
 アイネが指を一本一本指を立てて見せる。
「まあ、怪異系で定番の設定だよな」
「ほかには、怪異を発生させる要因がある場合です」
 三本目の指を立てるアイネに、おれは首を傾げる。
「発生させる要因って?」
「怪異を発生させるような負の力を持つものですね。例えば曰く付きの品物とか、過去に悲惨な事件があった史跡とか」
「ああ、殺生石とかそういうやつか。でもこの街でそんなの聞いたことがないぞ」
 それに殺人事件とか自殺、一家心中とかも聞いた憶えがない。
「……まあ、原因についてはわたしもまだ調査中です。ですが事実として今この街では怪異が発生して、昨日イチロが襲われたような事件が起こっているんです」
「でも最近事件が起きているなんて聞いたことがないぞ」
 地元のニュースを毎日眺めてるわけじゃないけど、さすがに噂ぐらいにはなっていそうなものだ。
「それを説明する前に、イチロに確認しておきたいことがあります。イチロは、昨日あった出来事を全部憶えていますか?」
 それまで眠そうに半分閉じられていたアイネの瞳がわずかに開かれた。それまでゆるかったアイネの周囲の空気が、少し重くなる。
「憶えてるかって……そりゃ憶えてるけど。てか忘れろってほうが無理だろ」
 いろいろと。本当にいろいろと、忘れられるわけない。
「本当ですか? 憶えてることを話して下さい。全部」
「ぜ、全部って……」
「全部、正確に。ことの始まりから終わりまで、一部始終を詳細に」
「しょ、詳細にって……」 
 助け船を求めて祈里に視線を送るが、本人は退屈そうに頬杖をついて明後日の方向を見ていた。
「イチロ、大事なことなんです」
 身を乗り出してきたアイネが、おれの頬を両手で掴んで無理矢理視線を合わせる。鼻先が触れそうになるその距離におれは再び心臓が早くなるのを感じた。
「さあ、答えて下さい。昨日何があったか、イチロがどこまで憶えているかを」
 抑揚のない、事務的とも言える口調だったが、ささやくように耳元で言われて産毛が逆立つ。反射的に離れようとするがアイネの掴む力は思った以上に強く、逆にさらに近くに引き寄せられる。
「はら早く、全部吐き出して下さい。イチロの中に溜まってるものを、全部」
 アイネの吐息がゾクゾクと耳の内側を撫でる。
「あー、わかった! わかったから離れろ!」
 何かが爆発する前に、おれは降参することにした。
「ご協力感謝します、イチロ」
 アイネはあっさり手を離しておれを解放する。その表情は相変わらず眠そうだったが、口元がかすかに笑みを残していた。
「話せばいいんだろ、話せば」
 からかうアイネから顔をそらして、昨日のことを思い出せる限りに話した。アイネから聞いた場所に行き、口裂け女に襲われ、祈里に助けられて襲われたこと。さすがに祈里にされたことはぼかして話したが、アイネは問い詰めるようなことはしなかった。
「なるほど、わかりました。確かにイチロはちゃんと全部憶えてるみたいですね」
 話を聞き終わって、アイネは頷いた。
「だから忘れられるわけないって言っただろ。初めて怪異に出遭ったんだぞ」
「いいえ、それは違います。普通の人なら、怪異に遭って記憶を保つのは難しいんです」
 首を振るアイネに、おれは首を傾げる。あんな衝撃的な体験をして、憶えていられないってどういうことだ。
「怪異が現れるとき、その周囲には瘴気のようなものが同時に発生します。目には見えませんし、匂いがするわけでもないですから、自分がそれに触れているということに気がつくことはできません」
 アイネが空気を掴むようにゆっくりと手を動かしてみせる。
「ですがそれに触れると、人間の精神に影響及ぼします。それによって、普通の人間は記憶の混濁や喪失が起こります。ひどい場合は精神錯乱を起こします。だから怪異と遭遇して起こった事件はたいていが本人が憶えておらず事故として処理されたり、異常者の信憑性のない証言として処理されます」
「だからおれに憶えてるかどうかを確認したのか。でもアイネの言うことが正しいとしたら、なんでおれは憶えてるんだ?」
「瘴気への耐性は個人差があります。イチロは普通の人よりも耐性が高いんでしょう」
 怪異好きとして適性は高かったのかと感動していると、アイネが指を突きつけてきた。
「でも耐性が高いからと言って、瘴気の影響を受けないわけじゃないですから気をつけて下さい。というより耐性が低かろうが高かろうが確実に影響は受けています。表に出ていないだけで」
「そのうちおれも記憶を失うのか?」
 自分で言って、その言葉の意味にぞくりと背筋を震わせた。
「今のままならそういうことにはならないでしょうが、今後怪異との遭遇を重ねていけば間違いなくそれ以上の影響が出ます。わたしはそれを正気度と呼んでいますが、怪異と接触することでそれが徐々に削られていくのです」
「削られると、どうなるんだ?」
「さっきも言ったとおり、記憶喪失や精神錯乱に陥ります。ですがあまりにも多く正気度が削られた場合……」
 アイネは一度言葉を切って、おれを正面から見つめた。

「発狂します」

 おれはその意味が飲み込めず、鸚鵡返しに呟いた。
「発狂……って?」
「言葉の通り、精神に異常をきたします。突然暴力衝動に駆られたり、大声で叫び続けたり、幼児退行したりなど、発狂したことによる狂気症状は様々です」
「おい、それってもしかして……」
 アイネが現れたときに言った、発狂っていうの、
「もうわかったみたいですね。祈里は、発狂してるんですよ」
 おれは弾かれたように祈里を見た。
「……」
 いつも隣の席でそうしているように、祈里は感情の読めない瞳をおれに向けている。発狂しているような様子はない。
 それでも昨日の夜や、さっきおれにしてきたことは……、
「偏愛。祈里の狂気を表すならそれが一番適切ですね。ある特定のものや人を異常に愛する衝動。突然イチロを襲ったのもそれが原因です」
 おれを襲ったときに祈里の目の中にあった異様な光の正体はそれだったのだ。
「でも……なんでおれなんだ?」
 自信を持って言えるが、好かれるようなことをした覚えがない。隣の席だというのに今までまとも会話したこともない。
 アイネは眉根を寄せて、口元に指を当てた。
「発狂したときにそばにいたのがたまたまイチロだったから、かもしれません。瘴気によって引き起こされる狂気は個人差が大きく、偏愛というのもその表現が近いからというだけです」
「そっか……」
 なんか安心したような残念なような。
「でもたまたま近くにいたおれが対象になったってことは、もしかして祈里は今までにも発狂して他の人に対して同じようなことを……?」
 それを想像して胃が落ち込むのを感じた。別に祈里は彼女でも何でもないんだから、勝手にそんなことを感じること自体失礼なのに。
 アイネはおれの考えてることなんかお見通しというように、わざわざ大きくため息をついて見せた。
「恋人でもないのに勝手に祈里の低層を気にする気持ち悪いイチロにとっては朗報だと思いますが、祈里が発狂したのは昨日が初めてですよ。付け加えるなら、初めての相手もイチロだそうです。良かったですね」
「うん」
 恥じらいもためらいも一切なく、アイネの言葉に祈里が頷いてみせる。嬉しいような、まったく相手にされてないことがわかって悲しいような。
「誤解されるようなことを言うな! 口だから! 口しかされてないからなっ!」
 言ってから、アイネのじとっとした視線と祈里の何の感情もない瞳に気がついて全力でこの場から逃げたくなった。
「って、それよりもその狂気は治らないのかよ」
 ふたりの視線に耐えきれず、おれは急いで話題を変えた。アイネは呆れたように首を振ったが、追い詰めてこなかった。
「一度発狂してしまえばそう簡単には治りません。長い時間をかけて正気度を回復する方法はあります。ですが今この街は怪異が顕れるようになっているため、瘴気による汚染は続きます。今のままでは治ることはないでしょうね」
「じゃあどうすればいいんだ?」
「簡単です。瘴気をなくすために、怪異を消せば良いんですよ。昨日祈里がやっていたように」
 おれは昨日のことを思い出して、引っかかっていたことを口にした。
「おれたちは口裂け女とカシマレイコを撃退するための言葉を言ったはずなのに、あの怪異は消えなかったぞ。正確には黒い影みたいなのが残って、それを比良守が呪文を唱えたらそれも消えたけど、あれは何だったんだ。都市伝説で言われてるとおりなら、撃退ワードを言った時点で消えてなきゃおかしいだろ」
「それが今この街で起こっている怪異をややこしくしている点です。あの影は怪異を発生させている力の源が消えずに残ったものです」
 アイネが困ったように眉根を寄せて、額に手のひらをつける。
「消えずに残ったって、どういうことだ?」
「言葉の通りです。この街で起こっている怪異の裏にある力が強すぎて、都市伝説などで語られている通りの対処法では完全に消滅させることができないんです。だから残った力を消すための魔術が必要になるんです。祈里が唱えた呪文、あれがその魔術です」
「魔術って、怪異からはずいぶんかけ離れた単語が出てきたな」
「何言ってるんですか、イチロ。怪異同好会にあるまじき発言ですね、それは」
 アイネが小馬鹿にするように指を振ってみせる。
「怪異は昔から人の歴史と共に続いてきたものです。時代を重ねる毎に怪異を調伏するための方法は研究されてきたんですよ。陰陽術など様々な呼び名で呼ばれていますが、今ではそれらを総じて魔術と呼んでいるんです。ですから、怪異に対処する歴とした方法なんですよ」
「確かに目の前で見たわけだから、否定はできないけど。でもそれがあれば怪異は何とかなるってことなんだな」
「それはそうなんですが、問題なのは魔術を使う際にも正気度が削られるという点です。だから魔術を使えば怪異に対抗できるというのはその通りなんですが、それにも限度があります」
「使い続ければ発狂するってことか」
「発狂は、正気度が削れたことによる症状のひとつでしかありません。正気度をすべて失ってしまえば、よくて精神崩壊を起こして廃人、最悪の場合は死に至ります」
「死ぬ……って……」
 祈里を見る。そこには恐怖も何の感情も見えず、ただアイネの言うことをそのまま受け止めている女の子がいた。
「何で祈里は自分が死ぬ危険を冒してまで、怪異と戦ってるんだ?」
「それは祈里の家が関係しています。わたしが話すことでもないので、詳しくは本人から聞いて下さい」
「退魔士の家系とか、そういうものってことか……」
 一度にたくさんのことを聞かされて痛み出した頭を押さえた。説明してもらったとはいえ、昨日からこっちの出来事をすべて消化するのは時間がかかりそうだ。
「さて、ここからが本題です」
「え、今のが本題じゃないのか?」
「イチロの疑問にただ答えるだけなら、チャットで済ませます」
 アイネがぞんざいに手を振る。チャットで説明されて納得いくわけないだろ。
「祈里が発狂してしまったので、これ以上の魔術使用はできません。しかしこの街の怪異は消えたわけではなくまだまだ強く残っています。ですから、祈里の代わりに怪異と戦う代わりの人材が必要になります」
「代わりの人材って……それこそ警察とかに頼るとかできないのか?」
「イチロは口裂け女に襲われたって、警察に言えますか? それで助けてくれると思いますか?」
 良くて無視、悪くて病院行きだ。
「それにさっきも言ったとおり、耐性の高い人間は滅多にいません。警察が協力してくれたとしても、瘴気に触れてあっさりと発狂して終わりでしょう。だから瘴気への耐性が高く、怪異に対する知識や理解があり、足手まといにならない程度に役に立つ人物が必要です」
 アイネの言いたいことを察して、おれは後ずさった。
「飲み込みが早いですね、イチロ。あなたに、祈里の代わりに怪異と戦ってもらいます」
「い、いや無理だろそんなの。第一おれは普通の家の出だぞ。魔術なんて使えないぞ」
「それについてはわたしがサポートするから安心して下さい。イチロは無駄に蓄えた怪異知識を使って、正気度を減らしてくれるだけで良いですから」
「それのどこに安心しろって言うんだよ。昨日だって、おれは全然動けなかったんだぞ」
 口裂け女と対峙したときのことはまだぼんやりとした実感しかないが、同じ状況になって祈里のように戦えるとは思えなかった。
「それに、戦い続けるとおれも発狂するんだろ、そんなの――」

「あなたを助けて祈里は狂気に陥ったんですよ、イチロ」

 見開いたアイネの双眸がおれを捉えた。そこにはさっきまでのからかいや小馬鹿にするような色はなく、混じりけのない真剣な光がたたえられていた。
「あなたは祈里が発狂した責任を取るべきなんですよ」
 その言葉は、すとんと抵抗なく腹の中に落ちた。
 祈里が何のために戦ってるのかとかそんなことは関係ない。 
 そうだ、おれは何よりも一番最初にこれを祈里に言わなきゃいけなかったんだ。
「祈里」
 おれはまっすぐに祈里を見る。いつも見ているのと同じ、感情の読めない瞳がおれを見返してくる。
「助けてくれて、ありがとう」
 そして、
「今度はおれが助けるから」
 頭を下げるおれを、祈里はわずかに眉尻を下げた表情で見た。
「うん、お願い」
 それから、いつもとは違う何かの感情をにじませて言った。

「イチロ君、わたしを助けて」
1-3(作成中)
*
*
*
「さて、話もまとまったところでわたしは帰ります」
 アイネは立ち上がると、ぱんぱんとスカートをはたいて埃を落とした。
「怪異退治は今夜から始めますので、イチロもそのつもりで」
「え、今夜から?」
 急な話におれは思わず声を上げた。
「何ですか、自分で祈里を助けるって言ったそばから撤回するつもりですか」
「い、いや。もうちょっとこう、心の準備とかいろいろあるだろ」
 アイネはぐいっと顔を近づけて、少し怒るように眉間にしわを寄せた。
「さっきの話を聞いてなかったんですか? 祈里はすでに狂気に陥ってるんですよ。このまま時間をかければ、いずれ瘴気による汚染で取り返しのつかないことになるかもしれないんです」
「そ、それは……」
「もしかしてイチロ、もう少し祈里の狂気が長引いてくれればキスだけじゃなくてもっといろいろしてもらえるかもしれない、なんて期待してるわけじゃないですよね?」
 軽蔑するようなアイネの目に、おれは慌てて首を振った。
「そんなこと考えてるわけないだろ。わ、わかった、完璧に理解した。今夜から早速始めよう」
 物問いたげな祈里の視線から顔をそらしつつ、おれは頷いた。
「結構です。それじゃまた夜に。それと、祈里のことはちゃんと見ていてあげて下さいね。もしまた発狂したら、適度に発散させてあげて下さい」
「は、発散?」
「さっきもしていたでしょう」
 言われて、祈里の唇の感触を思い出してかっと体温が上昇した。
「言っておきますが、あくまで祈里が発狂したらですからね。自分から迫ったりしないように。偏愛の狂気のせいで祈里が仕方なくしてるということは忘れないで下さいよ」
「わ、わかってるって」
 おれに詰め寄るアイネの横から、祈里が顔を覗かせる。
「巻き込んでごめんね、イチロ君」
「い、いや、こっちこそごめんというかなんというか」
 祈里から謝られると、狂気のせいでキスをしただけでおれを好きなわけじゃないからとはっきり言われたようで心に来る。いや、わかってる。全部おれの勝手な願望で祈里は最初からおれのことなんか興味がないってことぐらい。
「アイネ、ご飯」
 祈里がアイネの服を引っ張る。
「ああ、忘れるところでした。はい、頼まれてた物です」
 アイネが少し大きめの紙袋を祈里に渡す。ふわっとパンの香ばしさが鼻をつく。
「イチロ君、一緒に食べよ。お詫びの意味もかねてだから、遠慮しなくて良いよ」
 祈里が綺麗にラッピングされたサンドイッチを取り出して、手渡してくる。そういえば今は昼休みだったと思い出し、急に空腹感が襲ってきた。
「ここのお店の好きなんだ」
 渡されたサンドイッチからマスタードのツンとした香りと甘辛のソースの匂いが広がり、忘れていた食欲が勢いよく鎌首をもたげる。
「しっかり食べておいて下さいね。怪異退治には体力も必要ですから」
 背中を向けるアイネから、01の青い燐光が舞う。それは昨日初めて会ったときも、そしてさっき現れたときも見えたものだ。
「アイネ、それ何なんだ?」
 肩越しに振り返ったアイネが、おれが指さしているものに目を向けて頷いた。
「これですか。あー、エフェクトです」
「エフェクト!? エフェクトかかってる人間なんていないだろ」
 アイネがおれをからかうために冗談を言っているのだと思ったが、その表情は真面目なものだった。
 あごに指を当てて、少し思案した後アイネが呟いた。
「そうですね、わたしについてもどうせ後で言うつもりでしたし」
 アイネは一度向けた背を戻すと、おれに向き直った。
「先ほど魔術の話をしましたが、怪異に対する知識やそれに対抗する方法はどのように蓄積されて、伝えられると思いますか?」
「え、っと……都市伝説みたいに噂とかでじゃないのか?」
「確かに口伝もそのひとつではあります。ですがそれはあいまいで正確性には欠けますね」
「じゃあ、書物とかか。怪異ものでよくある古文書とか、魔道書みたいな」
「イチロにしては察しが良いですね。そうです、魔術の知識は基本的には魔道書に書き記され、伝えられてきました」
 ぴんと指を立てるアイネに、おれは首を傾げた。
「それがアイネと何の関係があるんだ? アイネが怪異とか魔術に詳しいのは、その魔道書を読んでるからって言いたいのか?」
「いいえ、そうじゃありません」 
 アイネは半分閉じていたまぶたを開き、意外と女の子らしいくりっとした瞳をおれに向けた。
「一応言っておきますけど驚かないで下さいね、イチロ」
 それはどういうことだと聞こうとして、おれはアイネの瞳の奥に煌めく蒼い光に気がついた。おれは反射的にその光を目で追い、吸い込まれるようにアイネの双眸を覗き込んだ。

 そこには、蒼い煌めきに満ちた夜空が広がっていた。

 0と1の無数の羅列によって星々が形成され、それらが無限の暗闇の中に点在している。ひとつひとつに目をこらせば、それは文字列となっていることがわかった。それらの意味していることはほとんどわからなかったが、直感的に理解できるものもあった。それは今までアイネに教えられてきた怪異の知識だった。
 さらに身を乗り出してほかの文字を見ようとしたが、アイネがおれの胸を押しとどめた。
「それ以上はイチロにはまだ早いです」
 我に返って、おれは頭を振った。
「今のは……?」
 アイネはそれについて直接答えずに、再び半分目を閉じた。
「魔道書は時代によって形を変えてきました。大昔は石版に刻まれ、木簡、羊皮紙、紙などの様々な歴史を経て、イチロもよく知る本の形にたどり着きました。ですが、現代ではインターネットを通じて都市伝説の情報交換が行われるようにさらにその形を変えたのです。つまりは、データとして」
 アイネの指先がほどけ、蒼い燐光へと変わっていく。それらひとつひとつが無数の0と1の螺旋により形成され、文字でとなり、知識を形作っていた。

「わたしは電子魔道書アイネ。怪異と戦うために現代で造られた存在です」

   *

 アイネが立ち去った後、おれは祈里と昼食を済ませて教室に戻っていた。祈里は食事中にほとんど何もしゃべらなかったので普段なら気まずく感じていたが、一度にいろいろと説明されて頭がぐちゃぐちゃになっていたおれにかえってその沈黙がありがたかった。
「ねえ、イチロ君」
 ぐでっと机に倒れたおれに、祈里が声をかけてくる。
「さっきのご飯おいしかった?」
「え、ああ、うん。おいしかったよ、ありがとな」
 正直考えるのに忙しくて味なんかわからなかったけど。
「ああいう味、好き?」
 用がない限り口を開かない祈里にしては珍しく重ねて訊いてくる。おれは不思議に思いつつ、どんな味だったっけと必死に思い出して頷いた。
「そっか。うん、わかった」
 何がわかったのかがわからなかったが、祈里は満足したのか話を終えて席を立った。心なしかその歩調が弾んでいるような気もするけど、さすがに気のせいだろう。
「今晩から怪異退治か……」
 口にしてみてその非現実さに笑いがこみ上げてくる。昨日実際に自分で経験したにもかかわらず、まだその実感がわいていなかった。
「ねえねえ、イチロ君。ちょっといい?」
 顔を上げると、数人の女子がおれの席を取り囲んでいた。
「比良守さんと何かあったの? っていうかあったんだよね、普段一人で食べてる比良守さんとお昼も一緒だったみたいだし」
「二人って付き合ってるの? 何があって付き合うことになったの? 昨日からいきなり変わってるから、昨日何かあったんだよね?」
「比良守さんって二人だとどんなこと話すの? 二人でどんなところ行くの?」
 何事かと身体を上げるおれに、女の子たちは一斉に質問を浴びせてきた。
「い、いや……別におれは……」
「どっちから告白したの? やっぱりイチロ君? それともまさか比良守さんから?」
 襲ってきたのは向こうから、なんて答えたらとんでもない騒ぎになりそうだ。
「わたしたち比良守さんと話してみたいと思ってたんだけど全然機会がなくてさ。でもイチロ君と仲良くなればしゃべれるかもしれないから、よかったらーー」

「ごめん、そこどいてくれる」

 おれを囲んでいた女の子たちがばっと振り返る。女の子たちの後ろに立っていた祈里は開いた隙間を通っておれの隣の席に座る。いつもは静かに椅子を引く祈里が珍しく音を立てていた。
「あ、えっと……お邪魔だよね、わたしたち」
 無言の祈里のプレッシャーに負けて、はははと笑いながら潮が引くように女の子たちが去って行く
「比良守さん、怒ってた?」
「わかんないけど、なんか不機嫌そう……」
 横を通り過ぎていく女の子たちのつぶやきに、おれは祈里の横顔に目を向ける。いつもと変わらない、感情の読めない表情に見えるけど。
 そんなことを考えていると、くるっと祈里がこちらを振り返り目が合う。
「ねえ、イチロ君」
 別にやましいことをしていたわけじゃないのに見ていたことがバレたかと内心焦りながら返事をする。
「えっと……何かあるのか、比良守?」
 おれの言葉に祈里は少し目を細める。
「それ」
「え? それって?」
「名前」
「名前?」
 何を言われているのかわからずに首をひねる。そうしている間にも、さらに祈里の目が細くなっていく。何かまずいことをしたのかと思い、冷や汗が流れ出す。
「祈里」
「え?」
「比良守、じゃなくて、祈里でいいよ」
 その言葉の意味がよくわからずおれは何度か瞬きをした。そして意味がわかった後で、ぽかんと口を開けた。
「わたしはイチロ君って呼んでるから。それに名字で呼ばれるのあんまり好きじゃないから」
 何かを期待するように祈里がおれをじっと見る。
 いやいや誤解するな。さっきおれのことは別に好きでもないんでもないってわかったじゃないか。ここで調子に乗ったら気持ち悪いって思われるはずだ。冷静に、冷静になれ。
「い、祈里……」
 平静を装ってなるべく自然になるような声を作ったつもりだったが、残念ながら震えまくっていた。
「うん」
 それでも祈里は満足そうに頷くと、用は済んだとばかりにスマホを取り出してそちらに視線を落とした。
 女の子の名前を呼ぶという今までの人生でほとんどない体験に、無駄に緊張した心臓がずきずきと痛んだ。
 祈里のことを助けるって言ったけど、これからも好きでもないのにキスされたりしたら身体が持たない。早く怪異退治を終わらせないと。
 決意を新たにしたおれに、アイネからメッセージが届いた。
『今夜のターゲットの情報を送っておきます。目を通しておいて下さいね』
 おれはそこに書かれた名前を見て、思わず声を上げた。
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