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#異世界転移
もちむぎえだまめ1年前ゲーム世界への異世界転移&親友×TS娘(全年齢)
執事キャラを演じている凄腕プレイヤーのイオリ/カルヴァとその親友の五十鈴/スズ(異世界転移でプレイヤーキャラ姿にTS)のやりとり
「カルヴァさん、スズさん――シフト交代に来ました。お二人とも無理せず、しっかりご休息を」
「ありがとうございます。そちらもご無理なさらず」
カルヴァの柔らかな笑み! 『効果は抜群』とばかりに後続プレイヤーを赤面させる。……普段ほとんど無表情に近いこと、この人に言っても信じないだろうな。
「スズ様、行きましょうか」
「だから手――……もう、仕方無いなあ」
エスコートのつもりなのか、それともやはり子供扱いなのか。……真相不明な手を取って、冒険者ギルド内に用意された休憩部屋へと歩みを進める。
「……まさか転移者の誘導ボランティアで冒険者ギルドからの緊急要請が掛かるとはな」
「こんな状況ですからね。そもそもこの世界での私たちは|騎士たる夢魔《ナイトメア》、人助けはむしろ本分とするところでしょう?」
「まあ設定準拠といえばそうだし、異世界転移して早々にでっかい魔物を討伐してくれーとか言われるよりはやりやすいけども……っと」
「……『休憩部屋はこちら→』。この先ですね」
案内表示の貼り紙に従い、廊下を右折。それぞれのドアの前に吊るされた紙には『使用可』『使用中』と日本語でしたためられている。ひっくり返すと表記が変わるのかな? ……にしてもなんかトイレみたいだな。もう少しどうにかならなかったのか。
「では、私たちはこの部屋を使わせてもらいましょうか」
『使用可』の一室をノックし、返事がしないことを確認。カルヴァが扉をそっと開く。
「スズ様、どうぞ」
「……うん、手を離してからな」
あ、と言いたげな|イオリ《・・・》の顔。苦笑しながら片手をほどいて、オットマンスツールに腰掛ける。
「……|五十鈴《・・・》、ソファ座らないの?」
「こっちでいいよ。今のオレには十分な大きさだし――それにイオリ、今すぐ寝転びたいんじゃないか?」
――それまですらっと立っていたカルヴァが、ふにゃふにゃと重力に負けていく。
「ん……ありがとう」
やや脚をはみ出しながら、ソファに全身を預けるイオリ。……どことなく安心した様子に見えるのは、一時的にとはいえようやくカルヴァモードのスイッチを切ることができたからだろう。
「お疲れ様。……それにしても、なんていうか……すごいな。ゲーム以上にイオリがイオリじゃないみたいだった。魔法みたいに変身して」
――普段のぼんやりした様子は鳴りを潜め。
背筋を伸ばし、にこやかに微笑みながら応対し、必要とあらば混乱に陥ったプレイヤーを温かい言葉や抱擁で励まし……。
さすが元演劇部……と言いたいところだけど、止めておく。あんまり良い思い出無いみたいだしな。
「なにか食べる? お菓子と飲み物、自由にとって良いみたいだけど」
「ん、今いい……」
いつにも増して眠そうな声。……交代の連絡が来るまでは、しばらく仮眠させておくかな。
「……本当にお疲れ様。みんなイオリのおかげで、少し安心できたと思う」
労りの気持ちを込めて、イオリの髪をそっと撫でる。あの『カルヴァ』が言うのなら――というのもあるだろうけど、みんなが落ち着きを取り戻せたとしたらそれはきっとイオリの真摯さのおかげだ。イオリ、演技はしても嘘はつかないしな。
「イオリは本当にすごいな。オレはお菓子と案内ペーパー配るので精いっぱいだったよ」
「五十鈴もがんばってた……」
「ふふ、ありがとう。……ほら、今は寝とけ。呼ばれたらまたカルヴァに戻るんだろ」
「ん……」
イオリの瞼がゆっくり降りる。
程なくして聞こえる寝息。穏やかな心地で、再びイオリの髪を撫でた。
頑張って!