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wL2dgzqjEPiOMF77/27 20:12ゲ千♀ まだアウトライン。

・コハク関東平野着

「知恵と力で自ら食料を創るのだ……!!」

コハクちゃんが持ち込んだ麦は、復活者たちにとって特別な高揚感をもたらした。しかし麦だけあっても畑がない。その日一日は畑の場所を決め、障害物を退かせ、畑らしい見た目を作る段階で日が落ちた。その日コハクちゃんは関東平野に泊まりで、色々な場所から空の話題を請われるままに話していた。俺はそれを横目で見ながら、問題の声がないか、不平不満の声がないか、人間関係の変化がないか、調子の悪い人はいないか、風に乗って聞こえてくる全ての情報に耳を傾けつつスープが入ったお椀を傾ける。

千空ちゃんは全然口うるさいリーダーじゃあないけれど、衛生だけは誰より厳しい。真水は飲むな。食器は清潔にしろ。食材は速攻で加工しろ。オマケで天然の毒消し、薬味を多用しろ。どれだけ神経質にやっても当たる時は当たる! それまでも復活者には口酸っぱく言っていたが、むしろそれだけ言われて関東平野に放り出されたのはドイヒーすぎる。いや適材適所ってのは分かっちゃいるけどさ。

酢、塩、酒、魚醤、パクチー、ライム。それに最近発見された葉生姜。正直馴染みがあるとは言いづらいラインナップだけど、新しい味は好評だ。暑いとアジアン料理が美味しいよね〜。お腹のお守り、生姜をカケラまで食べきると、スルリと隣が埋まった。

・ゲンとコハクの話。コハクの疑問
・気球(千空、コハク、龍水チーム)のとき、千空がこぼした謎。『女性・資本・穀物』とは何か?
・ゲが謎にモヤモヤしているとフランソワ復活。
・知識持ってそうな謎をフランソワに尋ねる。
・答え方は立場によるとのヒントをもらう。
・石神村着。パンうめえ。
・夜、龍水にも尋ねる。あっさりと答えをもらってしまう。
・千空が一瞬憂いたのは、文明復興と共に科学界の女性差別がまた復活することだった。
・ゲはどうしていいか分からなかったが、ひとり居る千空を見てしまう。
・ゲはやっと千空の元へ向かう。隣を埋めて離れていた間のことを話す。
・久しぶりの千空はご機嫌で、ゲをラボか長の家に連れ出す。
・羽京&クロムが稲のオマケで見つけてきた指輪を見せる。
・稲があった海岸沿いは昔弥生時代の登呂遺跡があった。弥生時代の銅の指輪の可能性有り。
・弥生時代、稲作&貿易(銅の渡来)が開始したのと同じ
以下文字数。
wL2dgzqjEPiOMF7さんのやる気に変化が起きました!wL2dgzqjEPiOMF7さんのやる気に変化が起きました!アバンにコハち一人称からの、ゲ一人称への移行をすることにする。

アバン(気球)

「あ゛ーなんせ農耕始めりゃ食料市場の爆誕で、テメェの金が火を吹くからな!」

 グッと胸が熱くなった瞬間、ガクリと首が折れる。男どもというのはいつどの時代の者であっても、こういう言い方を好むものだ。

「単純に何一つ諦めたかねえんだろうよ。自分のことも人のこともな――」

高度とボンベと低気圧、とやらのせいで、まるで嵐の前かのように風が舞う。鳥しかいないというのに空はうるさく、轟々という音すらおもしろかった。
千空は地上に目を移して口を動かした。科学の独り言かと思ったが、その表情に何かが引っかかる。聞かせようと思わなければ聞き取れないというのに、風の流れで聞き取ってしまった。確かにそう言ったのだ。

「…………女・資本・穀物、ってやつか」

(書きかけ)



本編(関東平野)

「知恵と力で自ら食料を創るのだ……!!」

 コハクちゃんが持ち込んだ麦は、復活者たちにとって特別な高揚感をもたらした。しかし麦だけあっても畑がない。その日一日は畑の場所を決め、障害物を退かせ、畑らしい見た目を作る段階で日が落ちた。その日コハクちゃんは関東平野に泊まりで、色々な場所から空の話題を請われるままに話していた。俺はそれを横目で見ながら、問題の声がないか、不平不満の声がないか、人間関係の変化がないか、調子の悪い人はいないか、風に乗って聞こえてくる全ての情報に耳を傾けつつスープが入ったお椀を傾ける。

 千空ちゃんは全然口うるさいリーダーじゃあないけれど、衛生だけは誰より厳しい。真水は飲むな。食器は清潔にしろ。食材は速攻で加工しろ。オマケで天然の毒消し、薬味を多用しろ。どれだけ神経質にやっても当たる時は当たる! それまでも復活者には口酸っぱく言っていたが、むしろそれだけ言われて関東平野に放り出されたのはドイヒーすぎる。いや適材適所ってのは分かっちゃいるけどさ。

 酢、塩、酒、魚醤、パクチー、ライム。それに最近発見された葉生姜。正直馴染みがあるとは言いづらいラインナップだけど、新しい味は好評だ。暑いとアジアン料理が美味しいよね〜。お腹のお守り、生姜をカケラまで食べきると、スルリと隣が埋まった。

「おっつ〜。コハクちゃん」

「それは君の方だろう? 一日力仕事だった」

「コハクちゃんが今日泊まりの予定でよかった。ジーマーで助かっちゃったよ」

 器を端に寄せて竹を切りっぱなしにしただけのポットから、ドクダミやらヨモギやら野生ミントが混ざったお茶代わりのハーブティーを二人分入れる。またしても竹の切りっぱなしという名のお湯のみで手渡すと、コハクにちゃんは一気に飲み干してしまった。二杯目は自分で汲み始めたので、俺もお茶に口を付ける。最初は飲み慣れなかったハーブティーにも、もうすっかり慣れてしまった。お茶当番によって毎度味が違うけれど、今日は柿の葉が多目だからかあんましクセが強くない。今日は多分ヨーちゃんだな。

「……なあ、ゲン。『女性・資本・穀物』とは何か知っているか?」

「…………はい?」

 コハクにちゃんの口から出るには全く似つかわしくない言葉に、ポカンと口を開けてしまった。頭の中で反復して、すぐに口は閉じたけれど疑問は消えない。真っ直ぐ俺を射抜くコハクちゃんの視線に、俺は言葉を探した。

「『女性・資本・穀物』だ。君なら知っているか?」

「なあに、それ。何かのクイズ?」

「……分からない。ただ……」

 コハクちゃんの目が夜空の向こうの山々を仰いだ。その先に何があるのか、俺はよくよく知っていた。

「千空が。……君らがたまにする、昔を思い出す顔でそう言った。ただ……」

「うん」

「……独り言、というやつだった。聞き流せばよかったんだが」

 コハクちゃんの心がここに戻って、視線が営みの炎に移った。俺は相槌を打って、先を促す。コハクちゃんが気に留めているならば、それには理由があると知っていた。

「いつの話?」

「気球に乗っていた時だ」
「あ゛ーなんせ農耕始めりゃ食料市場の爆誕で、テメェの金が火を吹くからな!」

グッと胸が熱くなった瞬間、ガクリと首が折れる。男というのはいつどの時代であっても、こういう言い方を好むものなんだろうか。

「単純に何一つ諦めたかねえんだろうよ。自分のことも人のこともな――」

高度とボンベと低気圧、とやらのせいで、空は嵐の前かのように風が舞っている。鳥しかいないというのに空はうるさく、轟々という音すらおもしろかった。

千空は龍水から地上に目線を移した。その表情に何かが引っかかって、横目で盗み見る。唇がかすかに動いて、耳をそばだてた。聞き取れなければ諦めも付いたのに、非科学的にも風が私の味方をした。

千空の無表情が消えて、ザクロの目が私を捉える。私は慌てて視界を空に向けると、目の端に緑を割り開くような金色が映った。

「! ……金色? の、何かがあるぞ!」

「!! あ゛〜、そいつは草みてえか? 猫じゃらしみてえな?」

「それだ! 『金色に輝く猫じゃらし!』」

千空は何が見つかったのか知っているようだった。満足そうに口元を歪めると、龍水に気球を下ろすよう言っている。あの金色をどう食べるのかは、相も変わらず分からない。どんな食べ物なのかわくわくしながら、それでも先程の千空が頭から離れなかった。

「…………女・資本・穀物、ってやつか」

私には意味も理由も分からない。それでも思わずこぼれたそのつぶやきを、何故か忘れることはできなかった。


「科学者に指輪は似合わない」


「知恵と力で自ら食料を創るのだ……!!」

コハクちゃんが持ち込んだ麦は、復活者たちにとって特別な高揚感をもたらした。しかし麦だけあっても畑がない。その日一日は畑の場所を決め、障害物を退かせ、畑らしい見た目を作る段階で日が落ちた。その日コハクちゃんは関東平野に泊まりで、色々な場所から空の話題を請われるままに話していた。俺はそれを横目で見ながら、問題の声がないか、不平不満の声がないか、人間関係の変化がないか、調子の悪い人はいないか、風に乗って聞こえてくる全ての情報に耳を傾けつつスープが入ったお椀を傾ける。

千空ちゃんは全然口うるさいリーダーじゃあないけれど、衛生だけは誰より厳しい。真水は飲むな。食器は清潔にしろ。食材は速攻で加工しろ。オマケで天然の毒消し、薬味を多用しろ。どれだけ神経質にやっても当たる時は当たる! それまでも復活者には口酸っぱく言っていたが、むしろそれだけ言われて関東平野に放り出されたのはドイヒーすぎる。いや適材適所ってのは分かっちゃいるけどさ。

酢、塩、酒、魚醤、パクチー、ライム。それに最近発見された葉生姜。正直馴染みがあるとは言いづらいラインナップだけど、新しい味は好評だ。暑いとアジアン料理が美味しいよね〜。お腹のお守り、生姜をカケラまで食べきると、スルリと隣が埋まった。

「おっつ〜。コハクちゃん」

「それは君の方だろう? 一日力仕事だった」

「コハクちゃんが今日泊まりの予定でよかった。ジーマーで助かっちゃったよ」

器を端に寄せて竹を切りっぱなしにしただけのポットから、ドクダミやらヨモギやら野生ミントが混ざったお茶代わりのハーブティーを二人分入れる。またしても竹の切りっぱなしという名のお湯のみで手渡すと、コハクにちゃんは一気に飲み干してしまった。二杯目は自分で汲み始めたので、俺もお茶に口を付ける。最初は飲み慣れなかったハーブティーにも、もうすっかり慣れてしまった。お茶当番によって毎度味が違うけれど、今日は柿の葉が多目だからかあんましクセが強くない。今日は多分ヨーちゃんが茶坊主だ。

「……なあ、ゲン。『女性・資本・穀物』とは何か知っているか?」

「…………へ?」

コハクにちゃんの口から出るには全く似つかわしくない言葉に、ポカンと口を開けてしまった。頭の中で反復して、すぐに口は閉じたけれど疑問は消えない。真っ直ぐ俺を射抜くコハクちゃんの視線に、俺は言葉を探した。

「『女性・資本・穀物』だ。君なら知っているか?」

「なあに、それ。何かのクイズ?」

「……分からない。ただ……」

コハクちゃんの目が夜空の向こうの山々を仰いだ。その先に何があるのか、俺はよくよく知っていた。

「千空が。……君らがたまにする、昔を思い出す顔でそう言った。ただ……」

「うん」

「……独り言、というやつだった。聞き流せばよかったんだが」

コハクちゃんの心がここに戻って、視線が営みの炎に移った。俺は相槌を打って、先を促す。彼女の直感は、この世界で生き抜くために研ぎ澄まされたものだ。コハクちゃんが気に留めている感覚には、意味も理由もあると知っていた。

「いつの話?」

ちらほらと人影がまばらになる頃合いだった。ひとりふたりと居住区に消えていく広場で、コハクちゃんは重い口を開いてくれた。俺はコハクちゃんのつぶやきに、ただ静かに相槌を打って受け取る。

彼女にペラペラの薄っぺらいフォローなんてしたって仕方がない。何より文化面担当のメンタリストのクセに、俺には情けなくも『女性・資本・穀物』の意味が全く検討が付かなかった。


「心より御礼申し上げます。助かります!!」

 あれから農耕が始まってパン作りが上手くいかない忙殺の怒涛の展開を、俺はありがたいと思っていた。農業は想像以上に手間と時間とマンパワーが必要で、自分の考え事どころじゃあなかったから。
 小柄なのにとんでもなく足が速いフランソワちゃんを追いかけながら、俺は思考に暇ができたことを悟った。何度も行き来している石神村までの道のりに頭は使わない。

 勿論これまで何度も丸投げされてきた復活者向けの状況説明はちょこちょこ挟むけれど、フランソワちゃんはとんでもなく飲み込みが早かった。イチを話せば百理解されて、俺の仕事は早々に終わってしまった。
 流石あの龍水ちゃんの執事が務まるだけあるわと、感服する。こりゃジーマーで頼りにはなるだろうけど、油断できない子が来ちゃったなと疲労の下で苦笑した。

 案の定日が暮れても歩みを止める気はなさそうだったから、水分補給を名目に待ったをかけた。復活者が水汲みという仕事を、生活の中に組み込むのは時間がかかる。それはフランソワちゃんでも例外ではなさそうだった。これ復活者あるあるね。
頼む、続きが読みたい!「単純に何一つ諦めたかねえんだろうよ。自分のことも人のこともな――」

 グッと胸が熱くなった瞬間、ガクリと首が折れる。龍水という男には、千空やゲンとはまた違う方向で驚嘆させられた。呆れ果てる強欲さを持ち、同時に胸がすく貪欲さを持つ。まったく復活者というものは、誰も彼もが一筋縄ではいかない。

 高度とボンベと低気圧、とやらのせいで、空は嵐の前かのように風が舞っている。鳥しかいないというのに空はうるさく、轟々という音すらおもしろかった。千空は龍水から地上に目線を移した。その表情に何かが引っかかって、横目で盗み見る。唇がかすかに動いて、耳をそばだてた。

「……んな、……しほ……くも……つ……か」

 聞き取れなければ諦めも付いたのに、非科学的にも風が私の味方をした。千空の無表情が消えて、ザクロの目が私を捉えた。私は慌てて視界を空に向けると、目の端に緑を割り開くような金色が映る。

「! ……金色? の、何かがあるぞ!」

「!! あ゛〜、そいつは草みてえか? 猫じゃらしみてえな?」

「それだ! 『金色に輝く猫じゃらし!』」

 何が見つかったのか、千空は知っているようだった。満足そうに口元を歪めると、龍水に気球を下ろすよう指示を出す。あの金色をどう食べるのかは、私にはいつものようにさっぱり分からない。どんな食べ物なのかわくわくしながら、それでも先程の千空が頭から離れなかった。

「…………女・資本・穀物……?」

 意味はなにひとつ分からない。しかし千空が思わずこぼしたそのつぶやきを、何故か忘れることはできなかった。



少女に指輪は似合わない




「知恵と力で自ら食料を創るのだ……!!」

 コハクちゃんが持ち込んだ麦は、復活者たちにとって特別な高揚感をもたらした。しかし麦だけあっても畑がない。その日一日は畑の場所を決め、障害物を退かせ、畑らしい見た目を作る段階で日が落ちた。

 その日コハクちゃんは関東平野に泊まりで、色々な場所から空の話題を請われるままに話していた。俺はそれを横目で見ながら、問題の声がないか、不平不満の声がないか、人間関係の変化がないか、調子の悪い人はいないか、風に乗って聞こえてくる全ての情報に耳を傾けつつスープが入ったお椀を傾ける。

 千空ちゃんは全然口うるさいリーダーじゃあないけれど、衛生だけは誰より厳しい。真水は飲むな。食器は清潔にしろ。食材は速攻で加工しろ。オマケで天然の毒消し、薬味を多用しろ。どれだけ神経質にやっても当たる時は当たる! そんときゃそん時、可及的速やかに申告しろ云々。それまでも復活者には口酸っぱく言っていたが、むしろそれだけ言われて、関東平野に放り出されたのはドイヒーすぎる。いや適材適所ってのは分かっちゃいるけどさ。

 酢、塩、酒、魚醤、パクチー、ライム。それに最近発見された葉生姜。正直日本人に馴染みがあるとは言いづらいラインナップだけど、新しい味は好評だ。暑いとアジアン料理が美味しいよね〜。お腹のお守り、生姜をカケラまで食べきると、スルリと隣が埋まった。

「おっつ〜。コハクちゃん」

「それは君の方だろう? 一日中、力仕事だった」

「コハクちゃんが今日泊まりの予定でよかった。ジーマーで助かっちゃったよ」

 器を端に寄せて竹を切りっぱなしにしただけのポットから、ドクダミやらヨモギやら野生ミントが混ざったお茶代わりのハーブティーを二人分入れる。またしても竹の切りっぱなしという名のお湯のみで手渡すと、コハクにちゃんは一気に飲み干してしまった。二杯目は自分で汲み始めたので、俺もお茶に口を付ける。

 最初は飲み慣れなかったハーブティーにも、もうすっかり慣れてしまった。お茶当番によって毎度味が違うけれど、今日は柿の葉が多目だからかあんましクセが強くない。多分ヨーちゃんが茶坊主だ。

「……なあ、ゲン。『女性・資本・穀物』とは何か知っているか?」

「…………へぁ?」

 コハクにちゃんの口から出るには全く似つかわしくない言葉に、俺はポカンと口を開けてしまった。頭の中で反復して、すぐに口は閉じたけれど疑問は消えない。真っ直ぐ俺を射抜くコハクちゃんの視線に、俺は言葉を探した。

「『女性・資本・穀物』だ。君ならどういう意味か分かるか?」

「……なあに、それ。何かのクイズ?」

「…………分からない。ただ……」

 コハクちゃんの目が夜空の向こうの山々を仰いだ。その先に何があるのか、俺はよくよく知っている。

「千空が。……君らがたまにする、昔を思い出す顔でそう言った。ただ……」

「うん……」

「……独り言、というやつだった。聞き流せばよかったんだが」

 コハクちゃんの心がここに戻って、視線が営みの炎に移った。俺は相槌を打って、先を促す。彼女の直感は、この世界で生き抜くために研ぎ澄まされたものだ。コハクちゃんが気に留めているなら、意味も理由もなくたって聞き逃すべきじゃない。

「いつの話?」

 ちらほらと人影がまばらになる頃合いだった。ひとりふたりと居住区に消えていく広場で、コハクちゃんは重い口を開いた。俺はコハクちゃんのつぶやきに、ただ静かに相槌を打って受け取る。彼女にペラペラの薄っぺらいフォローなんてしたって仕方がない。何より文化面担当のメンタリストのクセに、俺には情けなくも『女性・資本・穀物』の意味に全く検討が付かなかった。

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「心より御礼申し上げます。助かります!!」
 
 農耕という名の忙殺を、俺はありがたいと思っていた。農業は想像以上に手間と時間とマンパワーが必要で、自分の考え事どころじゃあなかったから。小柄なのにとんでもなく足が速いフランソワちゃんを追いかけながら、俺は思考に暇ができたことを悟った。何度も行き来している石神村までの道のりに頭は使わない。

 勿論これまで何度も丸投げされてきた復活者向けの状況説明はちょこちょこ挟むけれど、イチを話せば百理解されて、俺の仕事は早々に終わってしまった。話が早すぎる。流石あの龍水ちゃんの執事が務まるだけあるわと、感服する。ジーマーで頼りにはなるだろうけど、龍水ちゃんにデッカイ塩を送ってしまった訳でもあるね〜。疲労の下で苦笑しながら、フランソワちゃんに声をかけ続けた。

 案の定日が暮れても歩みを止める気はなさそうだったから、水分補給を名目に待ったをかけた。水汲みという仕事を、復活者が生活の中に組み込むのは時間がかかる。それはフランソワちゃんでも例外ではなさそうだった。これ復活者あるあるね。

 生水は濾過してから加熱、復活者は最低どちらかは厳守。寄生虫に内蔵荒らされて死にたくないだろと、散々脅されて会得した俺の手際を一度見ただけで、フランソワちゃんは腑に落ちたように腰を落ち着けた。

「……エキノコックス対策ですか?」

「うん、生水には寄生虫がウヨウヨいるらしいからねー。火、見てもらってていい?」

 夏は行きあたりばったりでも、何かしら食べ物が見つかるから本当に助かる。フランソワちゃんがじっとしていてくれるのは、恐らく飲料水確保まで。アケビの木から熟れたものを四つだけもいで、急いで引き返した。

 暗器で竹を切って、白湯を入れて水筒を作る。今飲む用にコップをふたつこしらえている間に、葉っぱのお皿を差し出された。お湯を沸かしたガラス瓶に入れていた非常食のジャーキーと、アケビが盛り付けられている。それだけなのに、何故かおしゃれだった。

「わーありがと〜! あ、アケビの食べ方分かる?」

「こちらこそありがとうございます。存じておりますのでお構いなく」

 フランソワちゃんはアケビの皮を一気に割ると、いつの間にか洗ってあったいい感じの枝で、一口サイズに切って口に含んだ。俺もアケビの大量の種をそっと避けながら、さっさと食事を始めた。


 とっぷりと日が落ちて白湯が充分に冷めた頃、俺達はのっそりと歩き始めた。本当は夜歩きは効率がいいとは言えない。そりゃ強行軍のときは四の五の言ってはいられないけれど、灯りひとつない山道だ。いくら俺が慣れているといっても、夜動くときはいつも細心の注意を払わなければいけない。

「夜が明けるまでは俺が先ね」

 ひまわり油を注いだガラス瓶にアケビの蔓で持ち手を作った即席行灯は、ほぼ手元しか照らさない。夜行性の獣の声しか響かない静寂の夜を、一歩一歩確実に進む。足元さえ視認できない暗闇を前に、流石のフランソワちゃんも黙って俺の後を付いてきてくれた。

 芯が燃え尽きかけると、後ろをぴったりくっついてきているフランソワちゃんに一声かける。木や植物の蔓で作った芯は、千空ちゃんに言わせれば綿や麻よりも持ちが悪いそうだ。そのおかげで約一時間に一度、強制的に休憩が取れるのは効率的じゃないかと返した俺に、千空ちゃんは唇を尖らせてそっぽを向いたっけ。

「……どうかされましたか?」

 新しい芯の灯りで、俺の表情がゆるまったのが見えたんだろう。フランソワちゃんが白湯を差し出しながら、話題を振ってくれた。俺はありがたく小休止を取ろうというその誘いに乗る。

「こういうのね。油ランプとか、飲料水の作り方とか……他にも色々、全部千空ちゃんが、教えてくれたんだけど」

「ありがたいことです。龍水さまの分も御礼申し上げます」

「あはは、その分働いてもらうから気にすんな〜って言うと思うよ! ……ねえ、抽象的な質問で悪いんだけどさあ。フランソワちゃんって、文化面詳しい?」

「……家政・料理が専門ですが、一般常識と教養は七海の執事としてそれなりに」

「『女性・資本・穀物』って、何か分かる?」

暗闇で開いていたフランソワちゃんの瞳孔が、暗闇とは関係なく細くなった。俺はギョッとして、頭を回転させる。やっと見つけた手がかりではあるけれど、それよりも暗闇の山の中でふたりきりしかいないのに、警戒させてしまうのは本意じゃない。

「…………その、質問は」

「メンゴ!! 経緯すっ飛ばしちゃったら、何のことだか分かんないよねえ〜! 実はさあ〜……」

 俺は笑顔を貼り付けて、ペラペラと話し始める。答えを知ることよりも、フランソワちゃんに警戒される方が問題だ。俺は休憩の度に吟遊詩人よろしく、これまでの話や経緯、千空ちゃんの人となり、科学王国の歴史を物語った。


――二日目の夜空に陽の光が一筋差し込まれた頃、体力も話も尽きた俺をフランソワちゃんは一瞥した。相変わらず表情は読めないけれど、身体に緊張は見えない。下手だけは打たなかったようだと、笑顔の下で胸を撫で下ろす。

「非常に詳細なこれまでのお話、感謝申し上げます。」

「復活者への説明は、俺の仕事になってるから気にしないで〜。それより村に着いたらソッコーお仕事が待ってると思うけど、これからよろしくね。フランソワちゃん」

「……お礼に、一言だけお答え致します。『女性・資本・穀物』とは『Patriarchy』の仕組みです」

「へ。えっ、まっ……」

「申し訳ありません。私の立場で申し上げられるのは、ここまででございます」

 フランソワちゃんは前を向き、もう一言も話さずに陽の光へ向かって歩き出した。俺は開いた口を何とか閉じて、置いていかれないようにその小さな背中を追った。


「バイヤ〜〜……ほぼ二日、ノンストップ〜」

 最後の最後、シュタシュタと距離を離され唖然と座り込む。あの小柄な身体のどこに、こんなスタミナがあるのかジーマーで謎だ。でももうそれどころじゃなかった。フランソワちゃんの登場でトントン拍子に話が進むのを横目に、俺は足を引きずりながら最後の力を振り絞って天文台に登る。野外で行き倒れにならなかったなら、もう何でもいい。

「……千空ちゃん、げんき、そうだったな……」

 ゴチャゴチャ考えていたことも、千空ちゃんの顔をひと目見れたことで吹っ飛んでしまう。俺の意識は、天文台の床に崩れ落ちた所までだった。

 ✦

「……おい、メンタリスト」

 肩をゆらされて、意識が浮上した。ぼんやりと重いまぶたを開くと、夢すら見ずに気絶していたことに気づく。呆れ顔の千空ちゃんに見下されて、俺の意識はどんどん開いていった。身体中がべとべとする。タネも仕掛けもぐちゃぐちゃだ。この暑いのに、二日間着たままの服でそのままで寝てしまって……。

「……めんご。ちょっと、離れて……」

「ご苦労さん。水と着替え、持ってきた」

「…………ありがと」

「外はフランソワ先生の楽しい楽しいパン教室……の前の、フルーツのアルコール漬け教室になってるぜ」

 そのおこぼれなんだろう、フルーツが山盛りになったボウルを差し出される。千空ちゃんは俺の周りに物資を整わせると、さっさと踵を返した。

「あっ、ねえ」

「あ゛? ああ、コーラは後でな」

「あ、や。えと、違くて」

「何だ?」

 何だと言われたら、何もない。頭はまだ回らない、早く着替えたい、でも、もう少しだけ顔を見ていたいなんて、馬鹿みたいだ。

「……も、うちょっと、休んでて、もだいじょうぶ?」

「……テメーが天文台で行き倒れてから、一時間も経ってねえ。熱中症対策に起こしただけだ」

 思っていたよりも、俺の欲望は弱々しく響いた。しまったと気づいても、それを見逃してくれる千空ちゃんではない。ずかずかと距離を縮められ、胸ぐらをひっつかまれた。

「んぎゃッ!」

「服を脱げ! 水を飲め! テメー自分で思ってるより血が回ってねえぞ」

「ひィっ! じぶ、んでやる、よ」

「チンタラしてたら日が暮れるわ」

 抵抗もできないままに、馬乗りになられた。羽織を剥がされ、首元をくつろがされる。確かに千空ちゃんの言う通り、ミジンコにされるがまま抵抗一つできやしなかった。あ、ジーマーで呼吸ちょっと楽。
 
 涼しさに気を取られていると、手に湯呑を握らされる。いつの間にか馬乗りではなくなっていて、心の底から安堵した。ほんとこの子は、いくらいつもより弱ってるとはいえ、コウモリ男を前に警戒ひとつしやしないんだから。

「めんご……」

 鋭い眼光に屈して、さっさと水分補給をする。このまま物思いにふけっていたら、水分補給にまで手を出されかねない。しかも千空ちゃんなので、とろみを付けられて老人介護の方向に行くだろうことは想像に難くなかった。自力で飲む水! ジーマーで美味しい〜!

「美味いか?」

「うん。これスポドリ的な?」

「いや、経口補水液だ。これが美味いってことは、ガチの脱水症状だな」

「……じ、ジーマーで?」

 無言で経口補水液のおかわりが入っている竹筒と、果物を差し出される。今度こそ貪るように受け取った。失敗した。やらかした。千空ちゃんの前でこれ以上、弱った姿でいる訳にはいかない。……俺が一番分かっていたのに。帝国併合以降、医療従事者の居ないストーンワールドで、この子がどれだけ復活者の健康状況に心を砕いているか。

「ククク……がっつくんじゃねえよ」

ハイ、嘘。千空ちゃんは俺ががっついて自力で器をカラにしていくのを、ほっとしながら眺めてる。もう目を離しても大丈夫だよ。けどもうちょーっとだけ、一緒にいたいな。同時に湧き上がった真反対の感情を、経口補水液と共に腹の奥に流し込む。

 そのまま千空ちゃんの望むままに、寝具に横になって目をつむった。ジーマーでバイヤーすぎる感情は気合でねじ伏せて、起きたら全てが上手く解決してくれていることを願って。


――まあ当然、分かってはいた。やっかいな感情が、ぐっすり寝た程度でスパッと解決する訳はない。むしろこんがらがっていた糸がほどかれて、よりまっすぐに自覚するだけだ。
 
 メンタリストの威信にかけて、千空ちゃんの居ぬ間に100億パー不毛な感情を説き伏せようとしたのに。いさめてなだめてなあなあにして、風化させるべきだった感情は、しかして起きた瞬間に報酬を得てしまった。

「起きた瞬間にため息とは、どういう了見だ? メンタリスト」

「…………それはね、目の前にドイヒーな科学仕事が山積みだからだよ。せんくーちゃん」

 千空ちゃんは楽しそうにクククと笑って、俺の前に湯呑を滑らした。色々を諦めてゆっくり身体を起こす。さっきと同じように口に含むと、寝起きの頭を甘さと塩辛さが同居した強烈な味が横殴りした。

「!! ……うえぇ、あにこえ……」

「経口補水液。不味いならもう飲まなくていいぞ」

 千空ちゃんは俺から湯呑を取り上げると、手元の石積み作業を簡単にまとめて端に追いやり立ち上がった。伸びをしているその姿を見ると、身体が習慣的に動いてお腹にかけられていた掛け布を畳み始める。

「立てるか」

「うん、ご飯行きたい。あ、でも」

 千空ちゃんは満足そうに目を細めたと思ったら、ひらりと手を降って行ってしまった。千空ちゃんの貴重なデリカシーが機能してるのは、俺がまだ弱ってるからなんだろう。満足感で満ち満ちていた、浮ついた感情が急激にしぼんでいく。俺はノロノロ服を脱ぎながら、ボケた頭を回し始めた。まずは順番にひとつずつ、問題に向き合わないと。

 ✦

「Hei,Ryusuiちゃん。『女性・資本・穀物』って何?」

「利子・を産むもの、だな」

 は〜い、秒で解決! Thanks, Good Bye〜!……とは残念ながらいかない。龍水ちゃんはご親切なA・Iみたいに Sure thing! で、終わりにはしてくれないからだ。しかも更に悪いことに、龍水ちゃんはいきなりこんな質問をした俺に疑問のひとつもしやしなかった。

「……まさか龍水ちゃんも、聞いてたって訳?」

 龍水ちゃんは黙ったまま、隣の切り株をトントンと叩いた。先に広場に行っていた千空ちゃんに目ざとく目視されたけれど、手を降るだけに留める。千空ちゃんは夜でも分かるくらいに片眉を上げて、大げさに肩をすくめた。そしておざなりに手を降ったと思うと、クロムちゃんとコハクちゃんの所に行ってしまった。

 俺はそれを見届けてから龍水ちゃんの隣に収まった。グラスを差し出されたのでおありがたく受け取る。ハーブが香る果実水を一口飲んで、逸る心を落ち着けた。フランソワちゃんが主に報告したって線もあるけど、恐らく違う。龍水ちゃんが皆の輪にも入らず、フランソワちゃんも側に置いていない理由はきっとある。

「資本主義は何故利益を産むのか? というマルクス主義者たちの問いに、フランスのクロード・メイヤスーは人類学者としてこう答えた。家族制共同体の理論が、ひいては『patriarchy』と『capitalism』が、利子を産むものを支配しているからだ、と」

「…………へ〜、なるほどね〜。日本語、上手いこと言ってる〜」

 軽口を言いながら、俺は足りなかったピースを埋めていく。小麦の発見と栽培で、ストーンワールドに利子を産むものが揃った。それは近代に完成され、人類を爆発的に繁栄させた強固な国家システム。……デメリット部分はあるにしても、科学の発展には必須の発展で――。

「……科学文明には、積み上げてきた歴史がある。それは決してメリットだけではない。それならば、かの獅子王司の言う通り、原始の世界の方がやりやすいことも存在するだろう。違うか?」

「…………は。あ……う、あ゛……つッ」

 横から強制的に最終ピースをはめられて、俺は文字通り頭を抱えた。自分のあまりの鈍感さに、歯を食いしばる。

 たった二人の科学使いが、若い男女二人。どれだけ息がしやすかったんだろう? 科学は男の世界って固定観念がない世界は、どれだけやりやすかったんだろう? アジア人差別しかされたことのない俺には、想像も付かない。

 科学を信じてるコハクちゃんに何て言えばいい? 千空ちゃんは人類を選別しない道を選んで、司ちゃんと戦った。でも文明や科学の発展が進むにつれて、千空ちゃんは選別される側に戻ることになる。何故なら科学の世界はオールド・ボーイズ・クラブで、千空ちゃんは女の子だから。それが物思いの原因なんだよ〜! って??

「……質問はひとつ貸しだが、フランソワの案内に免じて相殺しておこう。……ゲン」

「…………なに」

「あえて言っておく。俺は、利子を産むものを支配しない。更に、他人の支配に対しても、抗い戦う。何故なら!」

 龍水ちゃんは、はっきりと俺の目を射抜いた。道は違ってもその在り方や眼光は、我らが科学王にびっくりするほど酷似してる。いや訂正。似てる、こともある。俺は意識して息を吐く。意地だけで、無理やり笑顔を作った。

「合理的じゃあないから。……違うか?」

 龍水ちゃんは指を鳴らしてひと笑いしたと思うと、俺の背中を物理的に押した。


「おっつおつ〜」

「おう、ゲン! ダッスイショージョーだと、ケーコウホスイエキが美味いってマジかよ?」

「じ〜ま〜だよ〜! ゴイスーびっくりだよねえ〜、って……コハクちゃん。ジーマーでおありがたいんだけど、今俺、肉はちょっと」

「食べねば回復せんぞ!」

「胃がびっくりしちゃうからね〜。魚のお汁もらうよ〜」

「い?」

 立て板に水を流しまくりながら、俺は千空ちゃんに笑顔を向けた。今は満足なタネも仕掛けもないけれど、不安や弱気だけは隠し通す。千空ちゃんは何故かおもしろくなさそうに、そっぽを向いて唇を尖らせていた。

「……龍水との悪巧みはもういいのか?」

「ねえ、ふたりとも! ちょーっと千空ちゃん借りていい?」

「あ゛?」 

「千空ちゃんと、お・か・ね・の・は・な・し、したいなぁ♡」

「気ッ持ちワリー言い方すんじゃねえ!」

 騒いで茶化して混ぜっ返す。千空ちゃんは文句を言いながらも、立ち上がってくれた。そのままノシノシ大股で歩き出して、俺が後を付いてくると疑いもしない。何故かこういう時のお約束、天文台ルートとは反対側、長と巫女の家に向かっているけれど、俺は質問もせずにその後を追っかけた。


 ジャスパーちゃんとターコイズちゃんに、一声かけてその階段を登る。階段の先の神聖の間は、ほんの少しだけ昔と様子が違っていた。

「こないだクロム大先生が世紀の大発見してなァ」

「……へ? 何これ、ガラスケース……?」

「そっちじゃねえ。あ゛〜細工は流々、中身を御覧じろ、っと」

 千空ちゃんは腕のサポーターを外して、美術館や博物館然としたガラスケースをそっと持ち上げた。中に収められていたのは、天然の綿毛の中に埋もれている、細めの鉄クズを丸めたもの?……いや待った。千空ちゃんは今、何て言った? クロム大センセイの…………世紀の大発見?

「……ウソ、これ、もしかして指輪? 三千七百年前の?」

「と、思うだろ?」

 千空ちゃんが、瞳をきらめかせて皮越しに指輪をつまんだ。

「小麦が発見されたのは、静岡の登呂遺跡のあった辺りでな。クロムが同時にこれも拾ってきたって訳だ」

「トロ? 分かんない分かんない! もったいぶらずに教えてよ!」

「ククク、登呂遺跡ってのはなぁ……弥生時代の集落の遺跡だ」

 千空ちゃんのドヤ顔と、弥生時代。俺は全く話についていけなかった。千空ちゃんは呆けている俺の顔を見ると、更にご機嫌になって目尻を下げる。

「ま、まって?」

「富士山の噴火のせいで、あの辺の地形は変わりに変わりまくってる。遺跡の中にあった登呂博物館の所蔵品が、約二キロ先の海岸近くまで流されたって可能性は、ありえねえとは言い切れねえ。まあ鑑定なんてできねえから、登呂博物館に一辺行ったことがあるっつー、俺の記憶頼りの推測の域は出ねえ訳だが」

「マ?」

「まあ科学ってより考古学だし、フランソワと美味いメシの話題と比べりゃ地味だし、博物館が爆誕するまでは何のお役にも立たねえ! けどだからって、溶かして科学仕事の足しにでもしてみろ。復興後学芸員連中から叩かれて、科学の発展の為なら何をしてもいいんですかあ? とか言われそうなことくらい、俺にだって想像付くからな。ルリに保管を頼んだってわけだ」

「まっ」

「んだよ、テメー文化人枠だろ。ロマンあふれる小粋なコメントくらいしろや」

「無茶振りがドイヒーすぎない!?!?」

 千空ちゃんは俺のリアクションに大笑いして、サポーターごと指輪を俺の手に握らせた。

「落とすなよ」

「ヒッ! ちょっとぉ!?」

「教科書じゃ弥生時代ってのはさっさと終わっちまうがな、穀物の栽培が始まっただけじゃなく、日本の銅の歴史の始まりでもある重要な時代だ。コイツが本物なら、中国大陸から持ち込まれてる」

「えッ、そんな前から貿易ってやってたの!?」

「クク、津島・釜山間はたったの49.5kmしかねえんだぞ? ペルセウスじゃなくてもソッコー行けるわ」

「……ってつまり、産業革命の後に弥生時代が来たってことぉ!? 文明復興順序ガバガバじゃん!」

「あ゛〜うるせえうるせえ」

 俺が突っ込むと、千空ちゃんがそっぽを向きながら耳に指を突っ込んだ。一瞬後、二人してどっと笑って、千空ちゃんが俺をここに連れてきた理由を噛みしめる。原始の生活の中で、歴史的ロマンはお役には立たない。学問的おもしろさを共有できるヒトは、多くは居ない。

「学芸員ちゃんを起こすときは俺にまっかせて〜。驚かせてやる気出させちゃう!」

「あ゛〜? んなのあったりまえだろ。テメーのペラペラ話芸の物語が、一番理解されやすいからな」

 湧き上がる衝動のまま、指輪の中から千空ちゃんをのぞいた。心地いい距離感に、当たり前の信頼。心の底からの喜びを、コントロールする必要なんて微塵もなかった。

 今だけ俺は、科学王国のメンタリストでもマジシャンでもない。タダの俺になった途端に、吹き出す臆病風にはご退場いただく。千空ちゃんに笑ってほしくて、俺は意地を張り格好を付けて芝居がかった。

『……私の獲物は、悪い魔法使いが高〜い塔のてっぺんに仕舞い込んだ宝物』

 千空ちゃんがまばたき一つしたところで、努力と根性のお手々をすくい上げる。左手の中指にはめたのは、価値と伝統の指輪じゃない。野に生えるカタバミの茎を、丸めて結わえただけのもの。

「……あ゛?」

『……忘れ物ですよ』

 千空ちゃんが俺の顔を見上げた所で、カラの両手をヒラヒラ振ってみせる。右手を順に握り込んでから開いて、銅の指輪を出現させた。呆気にとられている千空ちゃんの、手のひらの上に指輪を返す。離れがたく純情科学少女の手のひらを離すと、科学王国旗がツーっと俺と指輪の間に伸びた。

 コウモリ男にできる最大の感謝と尊敬、そして愛情を込めてにっこり笑った。俺には、これが精一杯。千空ちゃんは指輪と旗と俺を順に視界に収めたと思うと、眉根を寄せてデッカイため息を吐いた。爆笑か気持ち悪いの二択と思っていた俺は、背中に嫌な汗をかく。

「……テメー、誰にでもこゆことやってんのか」

「あれっ!? 滑った? お気に召さなかった? それとも元ネタ知らない!?」

「テメーは俺に、おじさまって言ってほしいのか?」

「ウ゛っ!! ……ま、まって……ゴイスードイヒーなダメージ……」

「言われたくなきゃ封印しとけ。つーか遺物でマジックすんじゃねえ!」

――ごめんね、千空ちゃん。俺には『女性・資本・穀物』を、解決することはできない。せいぜいが、露払いか太鼓持ちくらい。言えることだってペラペラで、やれることは気休めだ。

「いや〜つい興が乗っちゃって! 指輪といえばこのネタでしょ〜! 皆には内緒にしててよ〜」

「ったく……テメーは油断も隙もねえな」

 千空ちゃんは本物の指輪をガラスケースの中にしまうと、科学王国旗を両手でつまんだ。目の前にぶら下げたベタなそれを、笑いを隠しきれていない表情で一瞥する。そして念を押す様に俺を睨み上げた。

「メンゴ! もう二度としません!」

「……俺らももう寝るぞ。明日は朝からシュトーレンの焼きだ」

「はぁい! ……ん?? いや待って? 前にも言ったでしょ!? 戦時中じゃないんだし、流石にもう同じ部屋はバイヤーだって! 衝立は壁の代わりにはなんないのよ⁉」

「今日の内に共有しときてえことが、お互い山程あるだろーが。観念しやがれ」

「ヒー!! 明日にしようよぉ〜〜!」

 首根っこをひっつかまれると、合理の名の下の同室に強く否は言えなくなってしまう。大人からさりげなーく言ってもらえないか画策したこともあったけれど、ことごとく失敗している。いや何でよ? おかしいでしょ?? 何で誰も何も言ってくんないの!?

 千空ちゃんは諦めの境地になっている俺を一瞥すると、喉を鳴らす。夏の夜空の下、右手のカタバミが中指を飾ったまま、千空ちゃんはご機嫌な猫みたいに笑った。

 ✦

「……今を、超える、条件?」

「そ! 穀物は未来を、資本は今日を、出産は明日を超える。だからこのみっつは、ゴイスー時間をかけてしっっかり計画建てなきゃいけないってことらしいのよ! つまりほら、千空ちゃん的にはさあ〜」

「……科学仕事以外の、考え事が増えるということか」

 ゲンは私の答えに、若干の困り顔で頷いた。千空が困るなら単純にすればいい。しかしおそらく科学と同様、私には及びもつかない仕組みがあるのだろう。難儀なものだ。

「千空ちゃんは科学仕事だけで、充分オーバーワークなのにねえ〜」

「……なに。君があれこれ引き受けるのだから、問題あるまい」

「蝙蝠男には荷が重いです〜。それにいい加減、同室なのも問題です〜」

 ゲンのため息交じりの愚痴に、私はひとつまばたきをした。――女が長役をやっているんだから、巫女役が男でもいいだろ。戦後すぐ風紀を気にする父上、ジャスパーとターコイズに、千空がこぼした非合理的な言い訳を思い出す。

 しかし千空とゲンは、長と巫女でもなければ夫婦でも番でもない。友というには偽悪が過ぎるし、仲間というには根が深すぎる。他の復活者たちから見ても、千空とゲンはうんともすんとも付かないようだ。

 私も彼らの関係を、何かに例えようとしたことはある。しかし支配でも従属でも、崇拝でも心酔でもない関係に、私はいつしか匙を投げた。彼らがいうように数え切れない程の人間がいるならば、名前の付かぬ関係があってもきっとよいのだ。文明とやらの風通しの良さには、いつも感嘆させられる。

「そういえば、科学は入っていないのだな?」

「そうね〜俺も龍水ちゃんから聞いただけだけど……科学は何にでも、出産にも資本にも穀物にも必須だからじゃない?」

 なるほどと納得した視線の先に、嬉しそうな千空が映った。大方フランソワと科学と料理の話で、盛り上がっているのだろう。頭上が静かになったので見上げると、ゲンも千空の様子を見つめている。その視線は幾度かみた、過去の文明に思いを馳せるそれではなかった。――むしろ。

「千空ちゃんゴイス〜楽しそう〜」

 ゲンの言葉は、今の千空を彩った。かのペラペラ嘘つきコウモリ男にこんなことを指摘すれば、きっと誰にも分からぬよう隠してしまうだろう。私は肯定して、喉の奥だけで笑う。

 今を越える条件、とやらが千空の失意になる日が来なければいい。しかしこの男の口先三寸が、千空の道を作らなかったことはないのだ。いつか破滅が目の前に迫る未来があったとしても、暖炉の無かった冬のように絶望を覚えることはきっとない。

「ゲン、シュトーレンをもっと食べに行くぞ!」

 背中を押すと躓きかけたので、羽織を引っ掴む。この男にはもっと食べさせなければならない。ゲンは咳き込んだが、昨日ほどの線の細さはなくほっとする。

「おい、メンタリスト! テメー食えてんのか?」

「はいはい! 食べれてるし、今行くよ〜」

久しぶりの彼らのやり取りに、胸が暖かくなるのを自覚する。科学王国はやはりこうでなくては。私は嬉しくなって、ゲンを引っ張り駆け出した。

 彼らの間にほんの少しだけ色彩が増えたのは、今はまだ私だけの秘密にしておくとしよう。

(〔純情科学〕少女に〔束縛の〕指輪は似合わない / “あなたと共に” )
こっちにUPしてなかったので。見てくれた方、ありがとうございました。https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15975034
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どんな道も正解だから
負けないで!
一緒に頑張ろう!
後悔させてやろうよ!
明日はきっとよくなるよ
のんびり行こう!
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