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たんたかたん
6/21 2:23
dnsn
今更ハマって出しづらいし、誰かの解釈違いを起こすんじゃないかと思うと作品として完成させづらい
はしりがき
6/21 2:23
誰もオレには追いつけない。
傲慢にも、本当に、ただ純粋にそう信じていたんだ。
その独白に、ソニアはたしかに、と納得した。それは幼なじみであり、かつてのライバルである目の前の男が傲慢であったこともそうだけど。でも、それ以上に、彼がそう思ってしまうことも納得がいくのだ。
テーブルに置かれたグラスの縁を、ゆっくりとなぞる。ガラル生まれのトニックウォーターで割ったジンが、半端な量で残っている。ほんの少しの苦味と、まろやかな口当たり。全体に広がる仄かな甘さ。どれにおいても、ソニア好みのトニックウォーターで、ジン・トニックを頼む時は必ずこれをオーダーするのだ。
「ダンデくんは悪くないよ」
心の中で何度も唱えてきた台詞を、ソニアはその日初めて口にした。それを聞いたダンデは、ただ困ったような微笑みを浮かべている。ソニアはそれ以上、何も言わなかった。
ダンデではなく、かつて少年だったダンデの周りにいた大人たちが悪かった。そして、ソニアも悪かった。そう続けたい気持ちがないと言ったら嘘だけど、ダンデが最も望まない言葉であることは分かっていたので。ダンデはため息をついた。
「ホップには悪いことをした、気がする」
「言いきらないんだね」
グラスを傾けて、琥珀色の酒を流し込む様子を、ソニアはぼんやりと眺めた。ウイスキーをトワイアップで、だなんて。ソニアとライバルだった頃は、ミックスジュースやモーモーミルクくらいしか知らなかったくせに。背も、今のホップより少し高いかな、くらいだった。声だってもっと、アルトに近いテノールで、あの声で生き生きとポケモンに指示をだすのがソニアは好きだった。
すっかり男の顔をしたかつての幼なじみであり、ライバルだったダンデ。オレが決めていいことじゃないからな、と苦笑していた。そういうところまで、彼は大人になってしまっていた。
「そーだね。ダンデくんがチャンピオンだったからホップはジムチャレンジを受けたんだろうし、ポケモン博士になるっていう目標が見えたんだろうし。
悪いことをしたって言い切ってたら、あたしとワンパチが殴ってたかな」
「それは……怖いな」
「でしょ?」
クスクスと笑うダンデに、ソニアも同じように笑い返した。ソニアだって、大人になってしまった。かつてのソニアはジン・トニックなんて飲まなかったし、キャハハとソプラノの声で笑っていたはずだ。
沈黙に耳を傾けながら、二人はグラスを傾けた。きっとかつての二人に戻ることは、もう二度とない。でも、かつての二人の延長線上にある二人も悪くないし、その寂しさにすら愛しさを感じる。
「……ソニアは、もうポケモン勝負をしないのか?」
「しないよ」
どれほどの時間、無言で語り合ったのだろうか。ダンデの問いかけに、ソニアは一拍も間を開けることなく言い切った。
もちろん、広義の意味では今後もポケモン勝負をするのだろう。これまでのように。でも、それはダンデの言うポケモン勝負じゃない。コートの上で、相棒と心を通わせて、命を燃やすような興奮と、コンピューターのように冷静な戦略でライバルに臨む。
そういうポケモン勝負を、ソニアはもうしないと決めている。
それはポケモントレーナーたちの仕事であって、ポケモン博士の仕事ではない。ソニアのやるべきことは、バトルで感動を呼ぶことではない。ガラル地方の歴史を読み解き、未来へ繋げる。そういうことを、ソニアはしていかなければならないのだ。
ソニアのそういった覚悟や、信念と呼んでも差し支えない気持ちを咀嚼して、ダンデはなんとかそれを飲み込んだ。それくらいの良識は持っているつもりだった。そうか、と返した言葉は、思いのほか軽かった。
「わたしはね、ダンデくん」
おもむろにソニアは頬杖をついて、ダンデに微笑みかけた。ワンパチやモルペコの可愛らしい笑顔ではない。それよりもっと――そう、チョロネコの笑い方に近い。いたずらを思いついた、にんまりとした、あの笑みに近いのだ。
「チャンピオンじゃなくなって、実は人並みにショックを受けて、でも前を向いて真っ直ぐ歩く、不器用なんだか器用なんだかよくわかんないきみが好きだよ」
ぽかん、と口を半開きにしたダンデが面白くて、ソニアはいつかのように「キャハハ」と笑った。ただ、その声は大人の女のもので、非常にミスマッチな印象を抱かせる。
今夜のソニアは、初めて口にすることが多い。ダンデが好きだなんて、冗談でも絶対に言わなかった。冗談で言うには気持ちが重すぎて、でも本気で言うには勇気が足りなくて。
ダンデくんに勝てたら、チャンピオンになれたら、強くなれたら、博士になれたら。そうやって、ずっとずっと先延ばしにしてきた。ついに博士号を取って、愛する祖母であり、尊敬する博士でもあるマグノリアにも認めてもらえたのに、未だに言えていなくて。
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