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111strokes1114/30 17:30置き場。男女カプの全年齢。こう言うしょうもない話を書くのは好きなんですが同じくらいもう一人の自分が「起伏がない上に何が言いたいのかよく分かんねえんだよ!くず!」って責めてきます。学生時代が終われば男も女も大人扱いをされる。クロードにしても三つ編みを切って装いを改めたしヒルダだって装いが改まるのは当たり前だ。五年ぶりに会った女子の同級生たちは皆それぞれに美しくなっている。エドマンド辺境伯にするために彼の手元に引き取られたマリアンヌは例外だが皆胸元が大きく開いた服を着るようになった。フォドラの親たちは娘が大人としての責任を果たせるようになったと判断すれば胸元が大きく開いた服を着ることを許すし結婚すればまた服の胸元は閉じられる。夫の意向なのだろうか。

「いくらなんでも露骨すぎないか?」
「まあ分かりやすくてよろしいんじゃないですかね」

 パルミラ兵が国境を通過出来るように準備している家宰のナルデールが打ち合わせにやってきたのでクロードは母国との文化の違いについて聞いてもらおうとしたのだが彼はクロードが書いたホルスト卿への手紙の中身を確認しているので全ては生返事だ。生返事であることに視線で反論していると耳飾りがついていない方の耳を引っ張られた。

「いたたたた!もう子供じゃないんだからやめてくれ!」

 ナルデールことナデルは大柄で逞しい体つきをしている。細かった学生時代よりは逞しくなった自覚はあるがそれでも彼と比べればクロードはまだ子供のようだ。

「子供扱いされたくないなら大人の男らしく振る舞うことですな」

 解放してもらえた耳を涙目で撫でる。後に血の同窓会と呼ばれるようになるグロンダーズの戦いに勝利しても子供の頃から世話になっている彼には敵わない。

 季節は竪琴の節を迎え自然は人間の営みとは関係なく春を迎えていた。花が咲き乱れるのは花冠の節だが竪琴の節にも花は咲く。ガルグ=マクには温室もある。

「壮行会?」
「うん、次はメリセウス要塞に行くんでしょ?その前にちょっとだけね」

 三つ巴の戦いになんとか勝利したこともあり諸侯からの覚えもめでたく勝ち馬に乗りたい者たちからの援助物資が届いている。少し多めに飲み食いしても問題はない。

「何か思いついたのか?ヒルダ」
「女子は皆、髪に花を飾るの」
「足りるか?」

 花が咲き乱れるような平原は遠いし温室に咲いている花だけで賄えるのだろうかとクロードが考え込んでいるとヒルダが言葉をつづけた。

「今すごくいい感じに花が咲いてる紫丁香花の木があるの知ってる?」
「それなら金もかからないし、ってことか」

 ヒルダに指摘されてクロードも思い出したが確かに紫色の花が咲いている木がある。香水の原料になるほど香りも良いので確かに良いかもしれない。

「うん、私とリシテアちゃんで仕切ろうかなって」

 断る理由もないので勿論クロードは承諾した。

 食卓に置かれているものは代わり映えしないし皆が身につけているのも普段着だ。それでも細やかな工夫だけで随分と印象が変わる。紫色の小さな花の塊は皆の髪によく似合っていた。

 今日は昼に中庭で集まって飲んでいる。パルミラの者は気候の良い時期は外で飲み食いするのが好きなのでヒルダが今日は外で、と提案されて本当に嬉しかった。クロードは騒ぎの中心になっているベレトから少し距離をとって杯を傾けている。皆がはしゃぐ姿を眺めるのが好きだし誰が誰と話し誰を避けているのかを知るのにもちょうどいい。それに近寄ってしまえばクロードの視線がどう動くのか把握されてしまう。

 どうしても緑の瞳はヒルダを追ってしまう。桃色の髪に紫色の小さな花の塊がよく似合っていた。紫丁香花は良い香りがするのできっと今日は香水もつけていないのだろう。フォドラ人は肌の色が真っ白なので酒に酔っているかどうかもすぐに分かる。頭のてっぺんから爪先まで眺めるつもりだったがクロードの視線はある一点で止まった。

 当たり前だが生花の花びらは糊付が出来ない。風が吹きこぼれ落ちた紫丁香花の小さな花がヒルダの胸の谷間に挟まっている。大きく胸元が開いた服を着て髪に生花を飾っていれば自然なことなのかもしれないがクロードは杯を卓に置いて目を逸らした。なんだか見ていられない。ヒルダのすぐ向かいで呑んでいるレオニーは何故ヒルダに教えてやらないのか。

「ヒルダ、花が挟まってるぞ」
「あれっ!気がつかなかった!」

 レオニーがヒルダのほんのり赤く染まった胸元にくっついた小さな紫丁香花をそっと摘んだ。

「ありがとね、レオニーちゃん」

 当たり前だが邪な心が全くないレオニーは平然としている。もし自分があの立ち場になったらきっと激しく動揺するはずだ。

 -花冠の節-
 ガルグ=マク修道院は自然豊かな山の中にある。山の恵みは豊かで蜂蜜を採ったり狩りをすることもできるがそれと引き換えに虫も多い。天気が良いので中庭で書類を眺めているとヒルダの金切り声がクロードの鼓膜を叩いた。

「いやぁー!!蜘蛛!!レオニーちゃん!早く払って!!」
「ええっ!蜘蛛!!蜘蛛は触れないんだよ!!」

 先日は全く躊躇することなくヒルダの胸元に手をやったレオニーだが蜘蛛は苦手なようで払ってやることができないらしい。

「クロード!頼む!」

 急にレオニーが腕を引っ張ったのでクロードは書類を辺りに撒き散らしてしまった。

「ヒルダ、取ってやるから動くなよ!」

 ヒルダは涙目で身動きするのを我慢している。もう自分がどんな顔をしているのかよくわからない。騒ぎを起こした蜘蛛は小さくて残念ながら手袋をしたままでは上手く払えなかった。

「クロードくん!!なんでも良いから早く取ってよ!!」
「あー!もう!!俺がこのことでホルスト卿やゴネリル公から殺されそうになったらきちんと証言してくれよ!!」

 そう叫んでからクロードは黒い手袋を外した。その後のことは細かく覚えていると命の危険があるような気がしたからかよく覚えていない。もったいない気もするが命より価値のあるものはないので仕方がない。

 ヒルダも息を荒げながら礼を言ってくれたしレオニーも涙目でよく頑張ったとクロードを労ってくれたのでどうやら女性目線で見ても不手際はなかったようだ。きっと怒り狂ったホルスト卿たちを前にしても二人はクロードを庇ってくれるだろう。散乱した書類を拾い集めたマリアンヌが腫れ上がって痛む褐色の指にライブをかけてくれたあたりからクロードの記憶は戻っている。

 クロード、いやカリードはフォドラに住んでもう何年も経つがある一定の期間だけ女性の胸元が開くのはやはりおかしな慣習だと思う。

 とりあえずヒルダは蜘蛛に咬まれなかった。
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