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#ギャグ難しいねー
111strokes1112年前気軽に読めるギャグって本当に難しいから殆ど書いたことがない……。これは三年くらい前に書いたやつです。

そういや講評タグってどうなりましたっけ?
対偶
ー『性行為しないと出られない部屋』という命題について、論理的に真になるものを以下から全て選べー

1.性行為すれば出られる
2.出られていない人は性行為していない
3.出られた人は性行為をした
4.性行為をしなくても出られる人もいる

 ローレンツは壁に書かれたとんでもない文を見て控えめに言って動揺していた。彼が閉じ込められた部屋は一見しただけではなんの変哲もない学生寮の一室で、扉を開ければすぐに出られそうな風情をしている。しかし目の前の扉は外に向けて固く閉ざされていた。なんらかの魔法がかかっている様でそもそも扉の取手が微動だにしない。

「悪趣味すぎる!なんなのだこれは!」
「それを同じく困ってる俺に聞くのかね…」

 同じく閉じ込められているクロードが鬱陶しそうに呟いた。だが!とローレンツが食い下がる。

「下品さをなじっても問題は解決しないからとりあえず壁の設問について考えるぞ。まず前提が"性交しない"ならば"出られない"」

 ローレンツが黙って頷いたのでクロードはなんの変哲もないベッドの端に座った。サイドチェストの上に乗っている怪しい青い瓶から目を逸らし彼は更に言葉を続けた。

「1:"性行為をする"ならば"出られる"
2:"出られなかった"人ならば"性行為をしなかった"人」

 こう言ったらなんだが単に設問について考えているだけなのにテーマのせいでクロードは恥ずかしくてたまらない。壁面の文章が目に入ってからずっと性行為という単語が脳裏を駆け巡るし初歩的な論理学の設問になっているせいで結論から逃れようがないのだ、と理解させられてしまう。生まれつき日焼けした様な色をしている肌のおかげで赤面しても目立たない方だが絶対に今の自分の顔は真っ赤なはずだ。

「3:"出られた"人ならば"性行為をした"人
4:ある"性行為をしなかった"人は"出られた"人を含む」

 落ち着きなく室内をうろうろしていたローレンツがクロードの証明を聞いて白い手で真っ赤になった顔を覆った。

「何故適当な文字、例えばpとqなどに置き換えないでそのまま続けるんだ君は…」
「悪い、なんだか動揺して頭が動かなかった」

 確かに悪趣味な設定をした側に合わせてやる必要はなかった。何故思いつかなかったのだろう。ローレンツの言う通りだった。しかし顔を手で覆ったままクロードの問いに答え始めたローレンツも完全に引きずられている。

「前提の対偶は"出られた"ならば"性行為をした"で、3が真だな。
1は前提の裏なので真とは限らない
2は前提の逆なので真とは限らない
4は前提から外れているので偽だ」

 2人は同時に呻き声を上げた。

 同じ結論に達したからだ。

「でもローレンツすぐにこの部屋から出ないと。どんな事をしてでも外に出ないと」
「見張っている何者かに僕たちが何をしたのか見られるのか」
「条件が変化して例えばどちらか片方を殺せ、になったらどうする気だ。ローレンツ、俺はお前を殺したくないよ。お前はどうだか知らないが」

 だから妥協してくれ、と言外にプレッシャーをかける。条件が変化したら、と言うクロードの言葉を受けて覚悟を決めたのかローレンツがクロードの隣に座った。座高も少しだけ彼の方が高いので見上げる様な形で白い横顔を眺める。

「ねぇやがいたんだ」

 ローレンツの言葉が過去形である事にクロードはすぐに気付いた。

「優しくて美しかったせいだろうか。とにかく悲劇が起きた。僕にとっては悲劇が起きる前も起きた後もねぇやの優しさと美しさ、尊さに変わりはなかったが彼女は絶望して死んだ」

 褐色の頬を緊張して冷えた白い両手が包んだ。紫水晶の様な彼の瞳にクロードの顔が映る。

「生き延びるためとはいえ人生が変わる様な、容易く絶望につながる様な行為だぞ。そこを分かっているのか?クロード」

 ローレンツの瞳に映った自分を見て、欲望に負けそうな顔をしているな、と他人事の様にクロードは思った。火が出そうなくらい熱い自分の頬から冷えたローレンツの白い左手をそっと外し手の甲に口付けをした。

「ローレンツ、例えここで俺たちの間に何かがあったとしてもそれは俺たちの価値を揺るがさない」

 ならば異存はない、とでも言うようにローレンツは制服の襟元のホックに手をかけた。