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フォローする 蛙井ソーダ @soooda_kawai
遅筆が泣いているアカウント
進捗状況管理用に使ってみる
自分が読みたいがために書いているはずなのに、遅筆で出力が追い付かないのは正直バグだと思う
わかる、わかるよ……
今度こそ草鈴の鈴芽がピタゴラ○イッチみたいに戸締まりに巻き込まれる話が出来上がるまでの記録です!わかる、わかるよ……ぐうすや寝てたり夢の中の話だったりする草鈴の掌編を書きたい
ある程度書き溜めたらまとめたいなって思ったり思わなかったり
『砂の上の足跡』という印象深い詩のことを今日思い出したので。
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 夢を見た。

 夢の中で草太は、三本足の子供用椅子になっていた。
 要石の呪いは解けて元の人間の身になったのに、何故また椅子になっているのかと一瞬疑問に思いはしたが、これは夢の中なのだから椅子の姿に戻ることもあるだろうと勝手に納得した。
 そしてそれよりも、草太には今とても重要なことがあった。――泣きじゃくる幼い鈴芽を、椅子に乗せているのだ。

 そこはいつかの辺土のような、白い砂浜の波打ち際だった。
 幼い鈴芽と草太以外に人もなく物もなく、どこまでも続く砂の上を幼い鈴芽を乗せて椅子姿の草太は歩いていた。
 ルミの子供たち以外に椅子に乗せて歩いた覚えはなく、ましてや幼い鈴芽を乗せることなどあり得ないことなのだ。それでも、そんなことなど草太にとっては些細なことだった。幼い鈴芽を乗せて、この道を進まなければならない。何故進まなければならないのかも分からない。しかし、進まなければならないという使命感だけが、今の草太の心を占めていた。

 椅子の上に完全に座り込んでしまっている幼い鈴芽を落とさないように、慎重にバランスを保ちながら歩を進める。砂の上には、椅子姿の草太が残した三本足の椅子の足跡がどこまでも長く続いていた。

 *

 次に気が付いた時、草太は人間の身体に戻っていた。
 先ほどまでと同じ波打ち際で、草太は一人、立ち尽くしていた。後ろを振り向けば、先ほどまで伸びていたはずの小さな椅子の足跡はどこにもなくて、大人になった草太の一人分の足跡だけがそこにあった。
 一人きりで先に進む気になれず、小さく息をついて海を見る。穏やかに寄せては返すさざ波を見ているうちに、草太は今が鈴芽と夫婦になって初めて迎えた夜であることを思い出した。なぜ自分は、初夜にこんな夢を見ているのだろうか。疑問は尽きないが、夢から覚める気配もなかった。
 そうしている内に、草太の後方からさくさくと砂を踏みしめる音が聞こえ、追いついた誰かが腕を軽く二度叩く。

「おまたせ、草太さん」
「――鈴芽さん」

 誰か、が誰なのか、草太は振り向く前から分かっていた。そこにいたのは高校二年生の時の鈴芽だった。
 今はもう立派な大人の女性になった鈴芽が、草太と出会った少女時代の風貌で、笑って草太を見上げていた。そこで草太は、自分はこの場所で鈴芽が追いかけてくるのを待っていたのだと気づいた。

「いこ、草太さん」
「ああ」

 そして、当然のように二人で波打ち際をゆっくりと歩く。
 大きな草太の足跡と、小さな鈴芽の足跡と。二人分の足跡をどこまでも長く伸ばしながら、草太は鈴芽と初めて出会った日のことを思い返していた。

 *

 次に意識がはっきりした時、草太はまた三本足の子供用椅子になっていた。
 まだ草太は夢の中にいて、しかし今度は自分が鈴芽に抱えられたまま波打ち際を歩いていた。

「あ、草太さん起きた?」
「――寝てたのか、俺」

 あの旅の中で千果から貰った洋服姿の鈴芽が、椅子姿の草太を抱えて歩いていた。鈴芽の腕の中で軽く身を捻って後方を振り向けば、そこには鈴芽一人分の小さな足跡が長く続いていた。
 そこで草太は、椅子に身を変えられた時の恐怖や心細さを思い出した。人の姿から離れ異形になってしまった自分、要石の役割まで移されてしまった自分。――生きたいと願いながらも一度は要石になってしまった、あの瞬間を。
 物言わずじっと黙り込む草太に、鈴芽はそっと椅子の座面を擦った。

「大丈夫だよ、草太さん。草太さんの心は、ここにちゃんとあるよ」
「……ありがとう、鈴芽さん」

 果ての見えない波打ち際、椅子姿の草太を抱えたまま、砂の上に一人分の足跡を残してどこまでも鈴芽が歩いてゆく。
 不意に鈴芽が草太に顔を近づけて、椅子の背面、後頭部の辺りに小さく口づけを落とした気配がした。

 *

 後頭部の辺りに口づけをされたと思った瞬間、草太は人の身に戻っていることに気が付いた。
 相変わらず夢の中の波打ち際で、目の前には瞳を閉じた鈴芽の姿があった。――唇に感じる柔らかい感触を、草太は知っている。いつもの鈴芽との口づけの感覚だった。

「――ん」

 緩く離してしまった唇の感触を追いかけて、もう一度鈴芽に口づけを落とす。
 小さく声を上げて受け止めた鈴芽は、草太の知っている通り、大人の女性の姿に戻っていた。

「鈴芽さん」
「ん?」
「俺たちは今日、夫婦になったんだよな?」
「そうだよ。やだ、もう忘れちゃったの?」
「忘れるわけがないだろ」

 くすくすと口に手を当てて笑う鈴芽の左手の薬指に輝く白金を見て、草太は自分の左手を掲げて同じ色が薬指に光るのを確かめた。
 そうして一つ頷いて、草太は後ろを振り返った。

 砂の上には、これまで草太が歩んできた全ての足跡が見えた。
 時に三本足の椅子の足跡だけが残り、時に二人分の足跡が並び、時に鈴芽一人の足跡が続き、そして今、また二人分の足跡が伸びている。
 草太と鈴芽、一人分だけの足跡が続く場所がちらほらと見えるが、それが本当に一人で歩いている訳ではないのだということを、今の草太はよくわかっていた。――互いが互いを抱え合いながら、今日この時まで歩んできたのだ。

「――行こうか、鈴芽さん」
「うん」

 そして今、目前に広がるまっさらな砂の上を、鈴芽と手を繋いで二人で歩いていく。
 どこまでも、どこまでも真っ直ぐに――そして、ようやくそこで目が覚めた。

 *

 窓から入る陽の光の眩しさに、目が覚める。
 二人で並んで眠ったベッドの上、鈴芽が少しだけ身を乗り出してベッドの頭上にあるカーテンを開けているのを、草太はぼんやりと目だけで追う。
 草太の視線に気づいた鈴芽が草太に微笑みかけた。

「おはよう、草太さん」
「――――」
「――草太さん、泣いてるの?」

 身を起こした鈴芽を無言で見上げる草太に、鈴芽が心配そうな表情で草太の目元を拭う。
 そうされて初めて、草太は自分が泣いていることに気が付いた。

「鈴芽さん、あのね」
「うん」
「夢を、見たんだ」
「夢?」
「そう、とても良い夢。――これまでも、これからも。君とずっと一緒に人生を歩いていく夢だった」

(砂上のあしあと)

M.F.P.,Footprints in the Sand,1964.
これ好き! 好きすぎる!
草鈴が東京デート(仮)したり鈴芽がピタゴラ○イッチみたいに戸締まりに巻き込まれる話が出来上がるまでの闘いの記録になる筈書けたーーーやったーーー!
ピタゴラ戸締まりは持ち越したので、次も頑張ります
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19454400
おめでとう!