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フォローする みりん😅 TRPGの自キャラとか喋らせてぇなという場だけど、ネタバレは含まれないと思う。
男と少年の話冷たい礎の上で男は寝かされていた。
まるで調理されようとして台に乗せられたままコックが消えたみたいに。

「力が……入らない……」

全身の力が抜けているというより、長い間身体を動かしていなかったせいで骨がギシギシと潤滑油を必要とする機械の音を立てている気がした。

台上から何とか転がり落ちたと思ったが、そこで何かにぶつかった。

「ったい!」

声を上げる地面、よく見ると少年が礎にもたれかかっていたようだ。

「な、なんだお前……?」
「あ、起きたんだ!」

あのね、とその後も話を続ける。

「吸血鬼さん、俺を殺してくれる?」

少し間があったが、吸血鬼は答える。深紅の瞳が虚空を映しながらこう言った。

「血は嫌いなんだ。だからノーだ」
「えぇ!?ち、血が嫌いなの?吸血鬼は血が好きなんじゃないの?」
「ハンバーガーの方が好きだ」
「吸血鬼ってハンバーガー食べるの?」
「あぁ、食うよ。美味いもん。残念だが、血は吸ってもマズイ、あと汚れるし、イイ事なしだろ?だから嫌いなんだよ」
「えー、変な吸血鬼だな。殺してくれればいいからさぁ」
「大体、なんで俺がお前を殺すんだよ。理由がない。お前だけの勝手な都合で殺せだ何だ相手にせがむもんじゃないぜ……」

そこまで言うと少年も男が自分を殺してくれる気がないと分かったらしく、黙り込んでしまった。

「さて、なんで俺はこんな陰気臭い場所で寝てたんだ……」

男に記憶はない。あるとすれば自分が吸血鬼で、シズカという名前だということ。きっと長い間寝ていたお陰で脳みそが腐っているんだろう、と冗談を考えるくらいの頭は残っているらしいが、正直腹が減っているので、考え事も上手くいかない。

「どうしたの?難しい顔してるよ」
「考え事をしてるからな、そりゃ難しい顔もするさ」
「吸血鬼も考え事するんだね」
「あのな、吸血鬼、吸血鬼っていちいち偏見並べんなよな。化け物に違いないと自覚はあるが、人間とそんなに変わらないんだよ」
「ふーん」

難しい話は分からないという風に台上に腰をかけている。男も立って考え事をしていたが、疲れたと言って座った。

「しょうがない。考えても分からないならやめだ」
「じゃあ俺が質問してあげようか?」
「えー?質問?答えなくてもいい?」
「なんでよ!吸血鬼さんのお名前くらい聞いてもいいでしょ?俺はキコ」
「シズカ」
「へぇー、確かにシズカってカンジだよね吸血鬼さん」
「そう?」
「いくつなの?俺はね、今年で12なんだ」
「俺は――、忘れた。最後に記憶してるのは23」
「23かぁ、若いね」
「おいおい、最後の記憶だぞ?もしかしたら何十年も経ってて、爺と変わらない歳かもしれねぇんだぜ」
「うーん、でも見た目も若いから23って言っても誰も疑わないよ」
「まぁな」
「じゃあ――、」

キコがそこまで口にすると同時に洞窟内に爆発音が響き渡った。音は近い、炸裂による発火も煙も、目視できるほどの距離で起こっていた。

「村の人たちだ……」
「は、村?」

「いたぞ、鬼子のやつまだ生きてらァ」

煙の中からゾロゾロと人影が姿を現す。キコは困惑した様子でシズカのことを見ているが、それ以上にシズカのほうが困惑していた。

「そいつ……伝説は本当だったのか?吸血鬼が眠る洞窟ってのはよ」
「おい鬼子、なんでまだ生きてやがる。お前は祭事で死ぬはずだったろ。なのに逃げ出しやがって。自刃用のナイフだって持ってるはずだろ!」

キコは何も言わない。先程までのお喋り坊主はどこへ行ったとシズカは呆れていたが、そう余裕を持っていられる状況ではなくなってきた。

「それよか、吸血鬼の首なんて落しゃ、勇者でっせ」
「あぁ、村にいい評判が舞い込んでくるだろうよ!」

「……どうやら連中、俺を神輿かなにかと勘違いしてるらしいな」
「シズカ、どうしよう。俺が死ななかったからシズカに迷惑かかっちゃった」
「あのな、お互い様だ。今更嘆いたってしょうがないんだ。ここから逃げる方法を考えろ、キコ」

『連中は洞窟をぶち破って中に入ってきた。つまりキコは入口からちゃんとセオリー通り入ってきたハズだ』

「キコ、お前どこからここへ入ってきた?」
「あそこ」

キコが指をさす。

「あぁ、最高だよキコ。さ、掴まれっ!」
「なにゴチャゴチャ話してやがる!かか…れ……」

「空が、綺麗……」

洞窟はどうして明るかった。そう、顔が見えるくらいに明るかった。最初から出口は合図していた。

――そう、上だ。

久しぶりに拝んだ青空は雲ひとつない快晴で、と贅沢なことを言いたいが、実際はぶちぶち千切れた不格好な雲が点々としており、まあこんなものかと男は鼻で笑う。がっしりとしがみついた少年はこの空に見惚れているらしい。
だが、そんな空の旅も滞空時間に等しく終わる。

「凄いジャンプ」
「まぁ、これくらいならできるような気がしてな」
「そういえば吸血鬼は陽の光がダメなんじゃないの?」
「ばーか、誰が灰になるんだよ。見てみろ、五体満足だろ」
「おとぎ話って嘘ばっかなんだね」
「その本質に気づいたお前は十分賢いよ。さぁ、キコ。俺とお前はどうやら連中にとってあまりよろしくない存在らしいな」
「俺、本当はお祭りの夜に死ぬはずだったんだ。それまでは外に出たこともなくて、お祭りの日初めて外に出た。そしたら、とっても楽しそうで、逃げたくなったんだ。でもね、途中で俺が死ななかったことで村のみんなにヤクサイってのが降りかかるらしくて、怖くなった。みんなきっと怒ってるってわかってた、でも――」
「いい……お前は生きようとしただけだ。なにも悪くない、誰も、悪くない」
「……」

キコは泣いている。悲しいから泣いているのか、悔しいから泣いているのか、はたまた怒り狂って泣いているのか、生きているということに嬉しいから泣いているのか。

『わかった気になるな。コイツの痛みはコイツにしかわからないんだ』

「シズカ、逃げよう。俺はもっと外を見てみたいんだ……」
「どうしてお前の頼みを聞く義理がある?」
「ないよ、ないけど。これは俺の勝手なお願いだよ」
「いいよ、暇だし。旅は道連れ、世は情けってヤツだ」
「なにそれ?」
「どうせならお世話する相手は面白いやつにしなってコト」
「あはは、わかんないよー」
「いいさ別に。俺がわかってりゃそれで」

ふたりはどこかへ歩き始めた。