こそフォロ タイムライン フォローリスト ジャンル すべて 男性向け 女性向け その他一般
111strokes11110/5 15:07マルチタスクが出来ないのに
1.全年齢百合本残り2000文字
2.12/18合わせの新刊書き下ろしその2(R18)手付かず
3.11/6ピクスクイベント合わせの新作ネタ出しのみ
4.まだ11月と言うことしか決まっていないウェブイベント用の現パロ新作ネタ出しのみ

という有様でひとつひとつ片付けていくしかない……。でもね、1は残り8000文字だったのをここ半月で残り2000文字まで積み上げたんすよ!3と4は刷らないから気楽だな。本気出すのは下旬からでいいか……。
おお〜😲エライ!1と2は終わった!3と4を頑張りたい!!やったぜ!頑張って!応援してる!応援してる!3を4000文字書いた!多分6000文字×2かな?(2組のカップルの話なので)

4は来月の私に任せたい。気軽な現パロR18だからなんとかなる!なんとかなるって!なんとかなる……。
応援してる!応援してる!いや、初志貫徹だ!というわけで逃げずに3をまず8000文字書きました。もう一組のカップルの話も逃げずに8000文字書くぞ!11/3クロヒル
1.執務室
 自分宛の荷物が届いたから、とのことでしばらく実家に帰っていたヒルダが要塞にいるホルストの元に戻ってきた。五年に及ぶ大乱のあとヒルダと共に戦った戦友たちはそれぞれに人生という双六の駒をひとつ進めていたがヒルダはホルストの補佐をするにとどまっている。
 相談がある、とのことでホルストは時間を作り執務室にヒルダを迎えていた。毎日食堂や訓練場で顔を合わせるもののヒルダは最近、捕虜の面倒を熱心にみているので滅多に執務室に顔を出してくれない。

「私クロードくんのところに一度行ってみようと思うの」

 クロードくん、こと隣国パルミラの王子が寄越してきた使節に最初に対応したのはホルストだ。外交官として何度も国境を越えパルミラの官吏たちと折衝を重ねたのはローレンツだ。今も交渉は続いており首飾りを越えていく彼をホルストはいつも励ましている。そうして他人が踏み固めた道を悠々と歩いていくのは実にヒルダらしい、と言えるのかもしれない。

「招かれたのか?」

 ヒルダが首を縦に振ったのでひとまとめにしてある薄紅色の髪が軽やかにゆれた。

「うん。兄さん、わたしね、ずっと悩んでたことがあるの。クロードくん見るに見かねたらしくてそんなに悩んでるなら一度こっちに来ないかって」
「招いてくれたのだな。父上と母上が許可を出したのなら私も異論はない」
「うーん、父さんと母さんは兄さんが良いって言うなら行っても構わないって」

 ローレンツとその部下たちの血の滲むような努力の結果、和平条約が締結され互いの国の旅券は有効になっている。ヒルダも腕っぷしは強い方だ。しかし護衛なしでかつての敵国へ行かせるのは心許ない。

「それならバルタザールを連れて行くと良い。彼の路銀は私が出そう」
「路銀のことはともかくバル兄を貸してくれてありがとう!」

 バル兄と色々相談しなきゃ、と言ってヒルダはホルストの執務室から去った。ホルストはヒルダが生まれた日のことも検査の結果ゴネリルの紋章を持っていると判明した日のことも覚えている。今日のことも忘れないだろう。
 ヒルダは小さな頃から宝飾品が好きな娘で自作したり買い集めている。毎日のように身につけるものを変えていた。しかし戦争が終わってこちらに戻ってきてからは首飾りだけはずっと同じものをしている。三日月と鹿の顔が組み合わさったものでかつてゴドフロア卿が身に付けていたものだ。今回は戻ってくるだろうが上手くいけば近いうちにヒルダはフォドラを出ていく。

 クロードから譲り受けたという白い飛竜に跨ったヒルダとバルタザールは二節ほどでホルストの元に戻ってきた。二人とも日に焼けてバルタザールはともかくヒルダは長旅で流石に疲れた顔をしている。

「ただいま、兄さん」
「戻ったぜ!ホルスト!」
「お帰り、ヒルダ!父上と母上が顔を見たがっている。少し休んだら日が暮れる前に本宅へ行きなさい」
「確かにこのままゆっくり休んだら根が生えて動けなくなるぜ?」

 ヒルダも自分の傾向に心当たりがあるらしく素直に本宅へと戻っていった。これで聞かせたくない話が出来る。まだ日は高かったがバルタザールはパルミラで買ってきたと言う蒸留酒の蓋ををホルストの執務室で開けた。

「良い香りだ……ホルストが気にしてるようなことはヒルダも自力で確かめてたぜ」

 パルミラは政治的な問題を解決するために王が結婚を繰り返す国だ。その結果クロードは大量の異母兄弟と共に育ち彼の苦労や苦悩はそこから始まっている。クロードはその慣習を破るつもりがあるのかどうか。

「ヒルダには久しぶりの逢瀬を楽しんで欲しかったからバルタザールに付き添ってもらったのだがな」
「たとえ別れるとしても、か?」
「本人同士がどんなに好き合っていてもヒルダは私の妹だからな……」

 ヒルダはパルミラにもその勇名が届くホルストの妹だ。愛を貫くとしたら敵国出身の女と言われ辛い思いをするかもしれない。

「頼まれた通り色々調べてきてやったぜ」

 ホルストが首肯するとバルタザールは酒瓶の蓋を閉め行李の中から地図を取り出し机の上に広げた。街の地図などではなくパルミラ全土をおさめたものだ。バルタザールの指がパルミラの国境線をなぞっていく。パルミラと国境を接している国はフォドラを含めて九だ。

「フォドラとの一番でかい違いはこれだな。慣習に従うならクロードの奴はヒルダの他にあと八人は妻を娶る羽目になる」

 例外はあるものの基本的には一夫一妻制のフォドラで育ったヒルダには耐え難いのではないだろうか。

「国境線を安定させるためか?」
「そうだ。だからヒルダとクロードの結婚自体は歓迎する奴も多いと思うぜ」

 バルタザールがため息をついた。ご結婚おめでとうございます、どうか早く他の国出身の妃もお迎えくださいと言う家臣はある意味最もたちが悪い。

「慣習の違いというやつだな……」
「だからヒルダはクロードを振るのは簡単だしクロードの奴もそれは覚悟してたはずだ」

 だがヒルダはそうしなかった。そして実家から出奔するような他人から見てわかりやすいこともしていない。

「でもな、ヒルダはどんな答えを出すとしても一度も向こうに行かずに決めるなんて無礼だと思ったのさ」
「バルタザール、本当に世話になった」
「おう、俺は身軽だから何かあればすぐヒルダのために飛んでいってやるよ!」

 持つべきものは身軽で腕っぷしが強く欲しい言葉をくれる友だ。バルタザールのような良き友がいてホルストは幸せ者だ。

2.客間
 クロードは今回、両親とヒルダを引き合わせるために彼女をパルミラに招いたのだがそこにとんでもない異分子が紛れ込んでいた。バルタザールだ。少し考えてみればホルストと親しいのだから護衛としてヒルダについてきても不思議ではない。慎重にことを進めたかったというのによりによってヒルダの護衛がバルタザールなのだ。クロードが気付いてほしくないことに気付いてホルストに報告するに決まっている。

「クロード!お前やっぱり俺のことずっと誤魔化してやがったな!!」

 バルタザールが元気に吠えているのはクロードがヒルダのために用意させた部屋だ。この部屋は一人で出歩くことのない賓客用のもので客人が泊まる主寝室は応接間を介して客人の護衛や召使が寝泊まりする小さな寝室と連結している。何かあれば扉を開けて簡単に行き来ができるようになっているのだ。クロードの予想ではレオニーがそこで寝泊まりする筈だった。レオニーなら気を利かせて二人の時間に乱入するようなこともなかっただろう。

「えー、バル兄やっぱりティアナさまとお会いしたい感じ?」
「そりゃ勿論そうよ!」

 ヒルダと両親の顔合わせはうまくいった。和やかに顔合わせの食事は終わりその後、ヒルダとティアナは浴場で鉢合わせして何やら女同士の話も出来たようだ。パルミラの西進を阻み続けてきたゴネリル家の娘であることがどう転ぶか不安ではあったが父はヒルダのことを悪くない、と思ったらしい。武勇もだがホルストが高潔であることにもクロードは感謝せねばならない。一方でティアナはヒルダの父やホルストのことも知っているので話が早かった。
 
 気を紛らわすためクロードは召使に用意させておいた紅茶に口をつけた。フォドラと違いパルミラでは硝子製の小さな茶器に注ぐ。持ち手はなく縁を持って飲むので慣れないうちは火傷に注意する必要がある。三人は客室の応接間に敷かれた繊細な幾何学模様の巨大な絨毯の上で三者三様の格好でくつろいでいる。椅子も一応あるのだがクロードは絨毯の上で胡座をかきバルタザールは寝転んでいた。ヒルダは大きな座布団の上にちょこんと座り込んでいる。すぐ近くに大男がいるせいかその華奢さが目立つ。

「俺みたいに頬髭が生えたようなでかい息子がいる人妻に今更どんな用事があるんだ?!」
「ティアナさまを困らせるようなことはしねえよ!」
「こう言ってるし会わせてあげられないかなあ、クロードくん」

 バルタザールがヒルダの言葉を聞いて勢いよく身体を起こした。流石ホルストの妹、人情がわかってるだのなんだの言いたい放題だ。建前で言えば客人の護衛如きが王妃の顔を直接見ることなどあり得ない。

「ねえ、バル兄。もしお会いできたらクロードくんにお礼しなきゃ」
「そうだな!おい、クロード!何が良い?なんでもひてやるから!」
「クロードくんと兄さんが喧嘩したらバル兄はクロードくんに加勢してあげてよ」

 クロードには元から聡明なヒルダなら絶対にこちらでも上手くやっていける、という願望にも近い思いがあった。そしてそれは今証明されたと言っても過言ではない。

「おい、ヒルダそれは勘弁してくれよぉ……」

 バルタザールの視線が彷徨い声が震える。屈強な大男が形無しだった。自分の失言に気づいて顔が青ざめている。

「よし!それで決まりだ!頼んだぜバルタザール!」
「言っとくけど二人きりで会わせて貰えたら、の話だからな!もういい!俺は明日に備えて寝るぞ!」

 油断してヒルダに言質を取られたのが恥ずかしいのかバルタザールは扉から自分に与えられた小さな寝室へ下がっていった。

「あれはさ、目の下に隈が出来た寝不足の醜い顔を初恋の人に見られたくない、とかだと思うよ」

 ようやく二人きりになれたのでクロードは座っているヒルダの膝に頭を乗せて横たわった。バルタザールの前向きさには本当に感心させられてしまう。彼のような前向きさがあればクロードも異母兄弟とうまくやっていけたのかもしれない。

「さっきヒルダは喧嘩って言ったけどな、俺のことをいきなり殴っても構わない奴がこの世に五人だけいるんだ」

 クロードの物騒な発言を耳にしたヒルダは指を折って数え始めたが小指が真っ直ぐなままだ。

「父さんでしょー?兄さんでしょー?それに立場を押し付けた先生と残務を押し付けたローレンツくんと……あと一人は誰?」
「ヒルダだよ。ごめんな、戦争を言い訳にしてゴネリル家への挨拶も説明も省いちまった」

 白い指が耳飾りがついている方の耳たぶを軽く引っ張る。

「いてッ……!!」
「兄さんに殴られたらもっと痛いわよ!頼りない王子様、この私に隣にいて欲しいならしっかりしてね。もう言い訳はなしなんだから」

 ヒルダはフォドラに戻ったら家中の者に宣言するつもりなのだ。支度に時間がかかりそうだがかつての敵国に嫁ぐつもりだ、と。

3.中庭
 建前では王妃が客人の護衛如きと二人きりになるわけがない。だが王妃が自らの腹を痛めて産んだ、七年近く失踪していた王子の様子が気になって部屋を訪ねて行くことはあり得る。
 王子は淡い花のような色の髪と瞳をした客人を色とりどりの花が咲き誇る自室前の庭へ招き入れていた。客人は昨夜王妃から賜った面紗を肩に掛けている。この庭は王子が自ら手入れをしている小さな薬草園でもあった。外からの視線や風を遮るため半円状の植え込みで覆われていて緑の壁のようになっている。壁の向こうには客人が連れてきた護衛が控えていた。

「この辺は全部毒が取れるやつだ。そこの彩りがいい茸も絶対に素手で触るなよ」
「そういえばローレンツくんが怒ってたよ」
「どの件でだ?」
「部屋を片付けなかった件で」

 クロードはヒルダ以外には誰にも何も告げずフォドラを後にした。どこへ行ったのかいつ戻ってくるのか、一体何を考えてのことなのか、そもそもいつまでもクロードの荷物に部屋を占有させておくわけにいかない、と言う理由でローレンツとマリアンヌはクロードの部屋を漁ったことがある。警戒したローレンツは革手袋をはめマリアンヌには物を触らせなかった。密偵対策に何を仕込んでいるか分からないと考えたのだろう。フォドラを去る、と気取られないようにクロードは毒薬や毒薬の材料もそのままにしていったのでローレンツの判断は正しい。

「あいつどの瓶に触ったのかな……」

 ローレンツが仕込んであった薬品で火傷をしたことに驚いたマリアンヌが床の上にあったガラクタに躓いて転びお互いに回復魔法を掛け合っていた姿をヒルダはまだ覚えている。自分たちと違って一緒にいられて羨ましいと思ったからだ。
 
「二人ともここに居たのね。ああ、ヒルダさん。今日は風が強いから面紗は頭から被ったほうがいいわ。髪に砂が付いてしまうのよ」

 クロードの部屋を通って庭に面紗をかぶったティアナが現れた。お付きの侍女はクロードの部屋の入り口で控えているのだろう。植え込みの向こうにはバルタザールがいる。

「わかりました。ティアナさま」
「母さん、ちょっと相談に乗ってくれ。そこが空いてるだろ?何か植えようと思うんだ」
「カリードの庭で咲いているとどんなに美しくても毒草に見えてしまうわね」

 ヒルダはティアナの視線が逸れた隙に肩にかけていた面紗を植え込みの向こうに放り投げた。会話は筒抜けなのでバルタザールは絶対に察している。

「やだ、風で飛んで行っちゃった!ねえ!取ってきて!」
「おう!任せとけ!」

 バルタザールは飛び上がってヒルダの面紗を掴むと植え込みの隙間から庭に入り込んだ。侵入の言い訳となった面紗をそそくさとヒルダに渡し即座に身体をティアナの方を向けて片膝をつく。胸元に手を当て顔を下げる仕草を見ると日頃どんなに無頼を気取っていても元の育ちの良さが分かる。

「お久しぶりです。俺のこと、覚えておいででしょうか?」
「まあ、なんてこと!当ててみせるからまだ名乗らないで!」

 クロードが唇に手を当ててヒルダを手招きした。ティアナの気が逸れている今しかない。二人はバルタザールが素直に首を垂れている隙にそっと物音を立てずに部屋の中に戻った。

「うまくいったね!クロードくん!」

 ヒルダが握り拳を振り上げるとクロードが何故かまた唇に指を当て手招きをしている。どういうことか、とそっと束ねた窓掛の近くにいるクロードの元へ近寄ると背中越しに抱きしめられた。

「ここなら庭から見えない」

 窓掛を閉めてやりたい気持ちもあるが他人の目がある状態も保たねばならない。ヒルダも二人の会話が気になるが急にクロードに抱きしめられたせいか耳が自分の鼓動や彼の息遣いを拾ってしまう。ヒルダは二人を見張るどころではなかった。クロードはどうだか分からないが。
 バルタザールとティアナの邂逅は小さな砂時計の砂が半分も落ち切らないうちに終わった。膝をつき手の甲への接吻を許されてそれでおしまい、という流れが長引くはずもない。何事もなかったかのようにクロードは庭への扉を開いた。バルタザールはもう植え込みの向こうに戻っている。身分も用事もないのに王妃と同じ場所にはいられないからだ。

「何か思いついたか?母さん」
「そうねえ、今はここでは育たない故郷の花ばかり思いつくわ」
「じゃあ午後のお茶の時に皆で話し合ってみるか。ヒルダも考えておいてくれよな」

 ティアナは何があったのかおくびにも出さず入り口で控えていた侍女と共にクロードの部屋を去った。クロードは扉が閉まった途端に大きな安堵のため息をつきヒルダも緊張してかいた額の汗を手の甲で拭った。それでもクロードがヒルダをお人好しと呼ばないのがありがたい。
 庭に面した扉が開きバルタザールが入ってきた。先程ティアナの前だけでまとっていた柔らかな雰囲気は消え失せいつもの彼に戻っている。その後は態度が崩れることがなかった。
 そして昨晩よりもかなり早い時間に今日は疲れたから、と言ってバルタザールはさっさと与えられた小さな寝室に引っ込んでしまった。昼の件に関する彼なりの礼なのかもしれない。

4.寝室
 フォドラにいる時はガルグ=マク、デアドラ、首飾りの何処にいても互いの気を散らすものがたくさんあってまともに話し合いをするために環境を調整するのが大変だった。どうやらパルミラでもそれは変わらないらしい。
 だが今晩もバルタザールが寝室に引っ込んでくれたのでクロードはさっそくヒルダの寝室に入り込んだ。昼間とは異なり窓掛をきちんと閉め燭台の蝋燭を灯す。ファイアが使えるローレンツなら寝台に寝転がったまま蝋燭を灯すことができるのだろうが残念ながらクロードにはウインドしか使えない。寝台にいながらにして灯りを消すことはできるが灯りを消したくはなかった。
 昨晩は本当に久しぶりだったこともありお互いに何も言わずに寝台の上で実際に会わなければできないこと、に没頭してしまったし今晩も出来ればそうしたい。そうしたいのだがこれだけは絶対に言わなくてはならない。

「ヒルダには今後も何回か行き来してもらうことになると思う。でもな……頼むから!!次からはレオニーを雇ってくれ!!バルタザールがいると気が散る!!」

 頼りないと言われようが情けないと言われようがそれがクロードの本心だった。これから二人で他の隣国出身の妃は必要ない、と家臣や親族たちを説得せねばならない。これまでの慣習を破るという大変なことが待ち受けているのに母の身辺に気を取られるのは御免こうむる。

「バル兄って生々しいんだか爽やかなんだかよく分かんないわよね……」

 寝台の上で縋りつかれながら言われてしまってはヒルダも受け入れるしかない。対面時間のあの短さから言ってバルタザールが挨拶しかしていないのは確実なのだが母親のことだと思うと拒否感が強いのだろう。真の事情を明かせるわけもないのでクロードがヒルダ付きの男の護衛を嫌がった、という事実だけが表沙汰となる。真の事情が明るみに出ないようにする囮役をかって出てやろう、とヒルダは決めた。

「返事は?」

 服の裾から手を侵入させながら催促することではない、と思いつつもヒルダはクロードがしたいようにさせている。白い肌の上をそっと這い回る手の持ち主は故郷に戻っても時間を作って弓の鍛錬を続けているようで以前と同じく胼胝だらけだ。

「レオニーちゃんの他の依頼と重なってなかったら、ね」

 ヒルダは白い手をクロードの頬にそっとあてた。童顔なことを気にして生やした頬髭の奥に照れ屋で臆病な少年の姿が隠されている。ヒルダはクロードがリーガン家の嫡子として発表される前に開かれた諸侯向けの内々でのお披露目の時にクロードと会っている。その時はクロードに対して何の感想も意見もなかった。
 クロードを強く意識し始めたのは士官学校に入ったあと金鹿の学級の者たちの前で自己紹介をした時のことだ。皆が興奮してホルストのことばかりヒルダに質問する中でクロードだけがヒルダの顔にほんの一瞬だけ浮かんだ恐れや怒りを察して「両親と名字以外にホルストと同じところはあるか?」と皆の前で堂々とヒルダに問うてくれた。ヒルダはクロードのおかげで自分と兄は名字と両親と髪と瞳の色が同じなだけでそれ以外は全く違う人間である、と高らかに宣言することが出来た。それまでずっと周りの者に言いたかったのに言葉にすら出来なかった思いをクロードが引き出してくれた。

「あーもうレオニーのこと通年で雇っちまうかなあ!!」

 そんなことは露知らずクロードはこの先のことを考えている。ヒルダは自分にのしかかるクロードの頭を抱えて身体の向きを変えた。部屋着越しに豊かな胸元に顔が埋まったのでクロードも抗わない。学生の時ほどではないがあちらこちらに跳ねている焦茶色の癖っ毛を白い指で梳く。風呂上がりに髪を整えるためにつけた香油の香りが辺りに漂った。おそらくパルミラでしか育たない花か果実で香り付けがしてある。香水にはそこそこ詳しいヒルダが嗅ぎ慣れていない香りだった。

「甘くて良い香りがする」
「土産に持たせようか?」

 クロードがヒルダの胸元で囁く。フォドラに戻って一人になった時この香りを嗅いだらクロードと共にいるような気持ちになるのか今、全身で感じている息遣いそれに体温がないことを寂しく思うのか。

「私、今日はもう何にも考えたくない」
「どんなに些細なことでも?」
「うん、もう面倒くさい。全部明日にする」

 ヒルダが伝えたかったことを察したクロードが身体を起こそうとしたのでヒルダは白い手から力を抜いて瞼を閉じた。
ありがとう、これで今日も生きていける響くわ〜応援してる!11/3 ロレマリ
1.実家
 ようやくデアドラでの政務を終え自領に腰を落ち着けることになったローレンツが本宅に戻ると父は執務室ではなく玄関の外で待っていてくれた。ようやく家督を継ぎ父を休ませてやれる。千年祭の日にガルグ=マクへ行くためこっそり抜け出てから今日まで本当に心配ばかりかけてしまった。

「ローレンツ、中で母上が待っている。早く入って挨拶しなさい」
「分かりました。父上、お話ししたいことがありますので夕食後にお時間を作っていただけますか?」
「分かった。書斎で待っていよう」

 屋敷の中から出てきた召使いに荷物を任せローレンツは久しぶりに実家へと足を踏み入れた。手巾で目元を押さえる母の手に見事な紅玉の指輪が嵌っている。マリアンヌへ求婚する際に指輪を散々物色したがヒルダの協力を得られなかったらこの紅玉の指輪より素晴らしいものは見つからなかっただろう。長期間の不在を詫びローレンツは自室に戻った。
 身体を休めるため旅装を解き寝台の上に横たわり長い手足を投げ出す。マリアンヌが指輪を受け取ってくれたということは彼女がこの屋敷に引っ越してくるということだ。この部屋を夫婦の寝室にするならこの寝台はどうするべきなのか。エドマンド辺境伯のことだから嫁入り道具をたくさん持たせるだろう。果たして入りきるだろうか。執事が呼びにくるまで見慣れた天蓋の下でローレンツは家具の配置について考えていた。
 実家に戻って最初の食事くらいは心穏やかに食べたかったのでマリアンヌに求婚した件は食後に話すと決めたが視線が両親の指にはまっている指輪をつい追ってしまう。父は結婚指輪の他に私信や文書にいつでも封ができるように印章指輪をつけている。

「ローレンツ、痩せてしまったのが心配だわ」
「いつまでも食べ盛りというわけではありませんので……」

 きっと母の記憶に残っているのは士官学校にいた頃の食べ盛りな姿や食べることが仕事の一部であった前線にいた頃の姿なのだ、とローレンツは察した。戦時中より筋肉が落ちてしまったのは確かだ。食べて動かなければ筋肉は保てない。父と槍の鍛錬の予定を立てたりして久しぶりの親子水入らずな食事の時間は和やかに終わった。
 夕食後、ローレンツが父の書斎に向かうといつもは書類が山積みになっている机の上に杯が二つと蒸留酒の瓶が乗せてある。机の向かいにはローレンツが座るための椅子が置いてあった。無言で椅子を引くと父はローレンツの杯に指二本分の酒を注いだ。士官学校へ向かう前日にもこうして飲ませてもらったことがあるがその時には酒を割るための水が水差しに用意してあった。

「父上、エドマンド家のマリアンヌ嬢に求婚しました」
「使用人たちの間では意見が割れていた」

 グロスタール家はフォドラ各地に屋敷を構えているが使用人は現地採用が半分、エドギアから派遣する者が半分で異動も多い。使用人の研鑽になるしどの屋敷で何があったのか報告させる良い機会になる。

「ゴネリル家のご令嬢とも手紙のやり取りをずっとしていただろう?」
「将を射るにはまず馬を射よ、と言いますので」

 そしてやはりローレンツの行動は使用人を経由してエドギアにいた父にまで筒抜けになっていた。だが散々彼女たちへの言伝を頼んだのは自分なので使用人たちを責める気にはなれない。

「なるほど、親友か。戦術としては正しいと言わざるを得ない。しかし……」

 家格も釣り合っているし共にガルグ=マクで学生時代を過ごし各地の死線を潜り抜けデアドラでベレトにこき使われた仲だ。実の親がどんなことになったのかも全て明かしてもらったがそれでも人生を共にしたいという思いは消えなかった。彼女が宿すモーリスの紋章は結婚の障害にならない。

「マリアンヌさんほど勇敢な人を僕は他に知りません」
「いや、私はお前の人を見る目は信頼しているよ。リーガン公の葬儀の際に見かけたので顔も覚えている。背が高くて細身で美しいご令嬢だったな」
「では何故……」
「ローレンツ、私ですらエドマンド辺境伯には言い負かされてしまう。お前は実に生直なたちだから彼を義父と呼ぶのはかなり大変だろうと思っただけだ」

 エルヴィンは空になったローレンツの杯に酒を注いでから自分の杯を煽った。もう薄めなくても蒸留酒が楽しめる年頃になったというのに自分はまだ親に心配をかけている。ローレンツの頬が酒以外の理由で赤く染まった。

「父上、それは僕が彼女との結婚を諦める理由にはなりません……」
「今後お前は幾度となく彼に言い負かされるだろう。勝ち目がないのに言い返したくなる時もある筈だ。だがそういう時は親の方が先に死ぬ、と思って我慢するのだ」

 若き日の父も舅に言い負かされた時はそう考えて我慢していたのかもしれない。ローレンツも将来、我が子に似たような助言をする日が来るのかもしれない。だが……。

「父上、それは失言では?」
「お前の胸の内におさめておきなさい。そしてこれまで以上に健康と安全に気を配るのだぞ。お前一人ではなく……」
「妻子の分も、ですね」

ローレンツは些か語尾を食い気味に父の言葉を継いだ。確かにマリアンヌを妻にするならば気を配ってやらねばならない。
 
2.街中
 大乱の前フォドラ一の都会はアンヴァルだった。セイロス教の教えの影響が少なくダグザやブリギットとも交易を重ねていたし三国の中で最も国土が広く豊かでフォドラ中の高級品はアンヴァルに集まっていた。戦争が終わりフォドラが統一されてからはデアドラがフォドラ一の都会になりつつある。東の大国パルミラと国交が樹立しつつあり東から物も人も金もエドマンド港かデアドラ港を経由してフォドラに流れこむようになった。パルミラに近いのはエドマンド港だが残念ながら港の規模が違う。デアドラ港の方がより多くの大型船を受け入れることが可能なのでエドマンド港が後塵を期している。
 ローレンツに会うためマリアンヌはデアドラに出向いて結婚式や新生活に備えて買い物をしていた。デアドラは直線距離はともかく交通面ではグロスタール領とエドマンド領の中間にあるため互いに自領に戻っている今は合流しやすい。
 エドマンド辺境伯が待ち合わせ場所に少し早めに着いていたローレンツの前にマリアンヌの手を取って現れた。マリアンヌはエドマンド辺境伯の養女と言うことになっているが実際は血の繋がった伯父と姪なので二人はよく似ている。水路の渡し船に乗っている者たちからは実の親子に見えるかもしれない。

「ごきげんよう、婿殿。今日は晴れているから荷物が濡れる心配がないな」
「お久しぶりです。辺境伯、マリアンヌさん」

 いつもならローレンツが自らエドマンド家の上屋敷へ迎えに行くので今回はデアドラ中央教会近くにある庭園で待ち合わせを、とマリアンヌから言われた時点で二人きりになれないだろうと覚悟していた。咲き誇る薔薇が心を慰めてくれることを願って場所を指定してくれたマリアンヌの気遣いが嬉しい。

「こうしてマリアンヌと共に買い物が出来て私は幸せだ」

 普通の若者なら期待に胸を膨らませて新生活への支度をするはずだが士官学校入学前のマリアンヌは厭世観や希死念慮に苛まれ何一つ支度しようとしなかった。十代の娘が自分のために小物を買いたがらないというのだから当時のマリアンヌが如何に深刻な状態であったかが分かる。そんな養女に代わって買い物や荷造りをしたのは養父であるエドマンド辺境伯だった。その時期のことを思えば確かにこうしてデアドラの街中で買い物ができる日々は幸せそのものと言えるだろう。
 硝子工芸の店を数軒巡った後で辺境伯がマリアンヌに髪飾りを買ってやりたいというので三人は彼がデアドラで贔屓にしている宝飾店にやってきた。確かに伯爵夫人ともなれば硝子玉で出来た髪飾りで済ませるわけにはいかない場面がある。店主はローレンツが贈った婚約指輪を目にするとひどく真面目な顔をしてマリアンヌに語りかけた。

「申し訳ありませんが店の者たちを集めてもよろしいでしょうか?」

 ヒルダが作ってくれた大切な指輪に何か瑕疵や曰くがあるのだろうか。予想外の提案をされ動揺した彼女が救いを求めるように真っ先にローレンツの方を見つめた。こういう時にこれまでなら養父である辺境伯を見ていたのだろうが今は違う。待ち合わせ場所でエドマンド辺境伯の姿を目にした時に感じた苛立ちは朝日を浴びた霜のように溶けローレンツの胸の内から消えていった。未来の義父はお手並み拝見といった顔をしてローレンツを眺めている。

「この指輪は僕が彼女に贈ったものだ。何か気になる点があるのだろうか?」

 ローレンツはマリアンヌの白い手をそっと握った。店主に対してなるべく苛立ちを感じさせないような話し方を心がけたつもりだがおそらくエドマンド辺境伯には気取られているだろう。

「これほどの逸品は滅多に出回りません。店の者たちに見せて真に良い金剛石がどんなものなのか勉強させたいのです」
「そういうことでしたら……」

 安心したマリアンヌが指輪を外し天鵞絨が貼ってある小さな板の上にそっと置いた。ヒルダの豪快さもこの金剛石のように輝いている。店主は礼を言うと手を叩いて店の者たちを呼び寄せた。次にこんな逸品いつ見られるか分からないぞと言う店主の言葉に頷いた店の者たちは真剣な顔で指輪を凝視している。 その様子に若干ローレンツもマリアンヌも引いていた。

「確かに大きくて美しいとは思うが……」
「若様はどちらでこの指輪を手に入れたのですか?」

 すれたデアドラの宝石店で働く者たちがこんなはしゃぎ方をするほどの金剛石の出所をローレンツとマリアンヌは知っている。その上で何かを察した紫色の瞳と榛色の瞳が見つめあう。あれは詫びの品だ。

「友人から譲り受けた。友人はパルミラに少々縁があるのでおそらくそちらの伝手だろう」

 ローレンツは嘘をついていない。嘘はついていないがクロードが一体、何をやらかしてヒルダを怒らせたのかが気になった。マリアンヌも同じことを考えているらしく目が合うとひどく真面目な顔をして小さく頷いてくれた。ローレンツは伏し目がちであった彼女と目が合うようになったことに言いようのない幸せを感じる。

3.手紙
 養父と共にエドマンド領の本宅へ戻ったマリアンヌは執事から自分宛の手紙を受け取ると思わずその封筒を胸に抱きしめた。この日数で返事が来たということはヒルダがゴネリル家にいる時に上手く本人の元へ渡ったのだろう。パルミラに行っている場合はゴネリル家に手紙を留め置いて貰っているためかなり時間がかかる。
 "マリアンヌちゃん、お元気ですか?"から始まる簡易で素朴な文章はいつもマリアンヌの胸を打つ。打算がなく誠意だけがそこにあるからだ。

「上屋敷も楽しいがやはり住みなれた我が家が一番、と思うようになったらもう年だな」

 養父が執事に外套を預けながらしみじみとそう呟いた。身に付けている襯衣はわざわざエドマンド領から生地を持参してデアドラで仕立てた物だ。エドマンド辺境伯は交易で得た莫大な富を染料や織物といった地場産業に投資している。

「あら、もうそんなお年なのですか?」
「そうとも!なんと言っても私は花嫁の父だからね」

 マリアンヌが嫁げばまたエドマンド辺境伯は一人きりになってしまう。年寄りは部屋で休ませてもらうよ、と言って去る後ろ姿が少し寂しそうだった。マリアンヌは家臣や召使たちと話せるようになった頃、養父は本当に一人きりなのか確かめたことがある。自分より優先すべき人がいるなら遠慮してほしくないと思ったからだ。だが家臣も召使も首を横に振りマリアンヌが養女として自分たちの主人と共にいることを喜んでくれた。グロスタール家に嫁ぐことになっても彼らのことを疎かにはできない。
 自室に着くと荷解きもせずにマリアンヌはヒルダからの手紙の封を切った。遠方とのやりとりなのでたまに手紙の内容が食い違うことがある。マリアンヌがデアドラから出した手紙には指輪の金剛石が自分たちが想像していたより遥かに価値が高くとても驚いたことについて書いたのだが今回受け取った手紙はその件への返信だろうか。マリアンヌは深呼吸してから便箋を開いた。

"マリアンヌちゃん、お元気ですか?お察しの通りあれはクロードくんから私に贈られたご機嫌伺い兼詫びの品です。パルミラとフォドラの慣習や法律の違いもあって書類上での結婚は当分先になるけれどこの秋から王宮ではなく王都に用意した館に一緒に住もう、全て用意するから身一つで来て欲しい、とクロードくんから提案されていました。でもクロードくんが不注意で小火騒ぎを起こしてその話が延期になってしまったの。"

 マリアンヌは小火騒ぎという単語だけ拾ってしまい反射的に王宮内における権力争い故の付け火かと考え慌てて文章を何度か読み返した。クロードの不注意ときちんと書いてある。手の甲で額の冷や汗を拭ってから続きを読み始めた。

"延期について詫びた最初の手紙には何も同封されていませんでした。結婚を考える歳になったのに好奇心が抑えられなくて小火騒ぎを起こすなんて有り得ないでしょ?だからパルミラ語でも"絶対に許さない"と書いた手紙をクロードくんに送ったの。ここまで読んで察したと思うけれど……"

 怒られてようやく詫びの品を用意した、というわけだ。ヒルダはひと目で贈られた金剛石の価値を理解しただろう。きっと自分のために指輪や首飾りを作ることも出来たし彼女のことだからそれはそれは素晴らしいここぞという時に身に付けるような逸品になったはずだ。そしてヒルダの隣に立つクロードは美しい指輪もしくは首飾りを目にするたびに自分がかつてヒルダを激怒させたことを思い出すわけだ。だからと言って水に流すために死蔵するのも勿体ない。

 ヒルダからの手紙を読み終え再び封筒にしまったマリアンヌは左手を顔の高さに上げた。薬指の上で指輪は相変わらず輝いている。ローレンツから指輪を渡された時もその指輪を作ったのがヒルダだと聞いた時もこの上なく嬉しかった。この指輪は死ぬまで付けていたい。満足げに微笑むと便箋を取り出すためマリアンヌは引き出しを開けた。ヒルダ宛の手紙を書く時はいつも蝋引きの書字板を使って文章をあれこれ考えてから便箋を取り出す。しかし今日は書きたいことが明確に決まっていた。

"ヒルダさんはクロードさんの失敗を忘れてあげることに決めたのですね。事情を知ってますます婚約指輪が大切に思えてきました。将来、私が子供に恵まれその子が結婚を考える時になってもこの指輪を譲ってやれないような気がします。
 私もヒルダさんに倣ってクロードさんがヒルダさんとローレンツさんをこちらへ置き去りにしたことを許してさしあげることにしました。
 いつまでゴネリルにいらっしゃいますか?可能ならばこちらでお会いして直接お礼を……"

4.上屋敷
 三度目の正直とはよく言ったもので二回連続でエドマンド辺境伯がくっ付いてきたが今回、ローレンツはマリアンヌと二人きりになれた。そして今ちょっとした事情がありマリアンヌはローレンツの部屋でエドマンド家の上屋敷から召使が戻って来るのを待っている。

「ご面倒をおかけして本当に申し訳ありませんでした……」
「いや、良いんだ。あれは正しい行動だったしこちらこそ至らない点が多くて本当に申し訳なかった」

 ローレンツは今日の一件でエドマンド辺境伯からどんな酷い嫌味を言われるか分からない。しかしその覚悟を決めた。髪が濡れたまま頭を下げて謝るマリアンヌの左手薬指にはまだあの金剛石の指輪が輝いているのでそれだけでもう良いような気すらしている。
 今日は挙式に必要なものを探すという名目でデアドラの街中を二人でそぞろ歩きする予定だった。ローレンツもマリアンヌもそれはそれは今日という日を楽しみにしていた。生憎の雨だったが腕を組んで歩けば傘はひとつで充分だしマリアンヌが転ばないようにローレンツが気をつけてやれば良い。ところが二人の目の前で女性が水路に転落した。渡し船の漕ぎ手が慌てて櫂を差し出したが気でも失っているのか掴もうとしない。その様子を見てまずいと思ったローレンツが上着の釦に手をかけた瞬間、マリアンヌから声をかけられた。持っていて下さい、と自分の手のひらに乗せられた金剛石の指輪を見てローレンツがどういうことかと一瞬だけ戸惑った隙にマリアンヌは水路に飛び込んでいて雨で濁った水面には水色の髪が広がっていた。飛び込んだ際に結んでいた髪が解けたのだろう。
 そこから近所の者が呼んだ巡警が到着し二人揃って彼らの詰所で毛布に包まりつつ再び彼女の薬指に指輪をはめてやった瞬間までローレンツは全て鮮明に覚えている。しかし一連の流れを言語化したくない。先日、父に妻子の安全に気を配るように心がけると宣言したばかりなのに自分は一体何をやっているのか。あれこそがモーリスの紋章をその身に宿す者の本分だと言うのに。

「あの方が気を失っていたから私でも養父に教えてもらった通り助けることが出来ました」

 マリアンヌは要救助者に背後から近寄り脇の下から手を入れて水面から顔が離れるようにしていた。きちんと呼吸を確保させたいという意図がある行動だった。

「技術が身に付いていることは本当に素晴らしいが肝が冷えたよ」

 転落場所からほど近いグロスタール家の上屋敷から迎えが来るまでの間に改めて聞いたがエドマンド辺境伯はマリアンヌを養女にしてすぐに縦帆を使った小型船の操船術を彼女に教えたようだ。強風を受けて横転することもしょっちゅうだったという。でもおきあがりこぼしのように起き上がるので、とはマリアンヌの弁だが見た目からでは想像がつかない特技と言える。
 ローレンツも船着場の整備用階段から水路に腰のあたりまで浸かって要救助者を抱き上げたりしたため結局二人とも海水で全身べとべとになってしまった。上屋敷についた途端、大袈裟に嘆く召使たちによって二人はまとめて浴室に追い立てられ身包み剥がされた。雨の日に水路に転落した、とだけ聞いた召使たちの衝撃を思えば逆らうことなど出来はしない。

「何だか懐かしい気分ですね」
「確かにガルグ=マクを思い出す」

 他人と共に入浴し髪や体を自分で洗うのはガルグ=マクにいた時以来だろうか。ローレンツは今晩、エドマンド家に泊まるつもりでいたのでお抱えの施術師に休みを与えてしまっていた。
 そして風呂から上がって気づいたのだがここにはマリアンヌの着替えがない。急いで洗って暖炉の前に干しても乾くはずもなく当然裸でいさせるわけにはいかないので平謝りをしてローレンツの肌着や襯衣を渡した。マリアンヌは男物の肌着や襯衣を身に付けその上から毛布を被っている。当然、人前に出られる格好ではないので召使に今すぐエドマンド家の上屋敷に行って靴も含めたマリアンヌの着替えを一式持ってくるようにと申し伝えた。
 これでようやく一息つける筈だったがローレンツはマリアンヌを咄嗟に客室ではなく自分の部屋に通してしまった。この顛末がクロードに知られたら十年は揶揄われてしまうし婚約中の今、辺境伯には絶対に知られたくない。ローレンツは自室の見慣れた長椅子に真っ白な脚を揃えて座る婚約者の隣に腰を下ろした。毛布を肩から被っていてもいつもは隠れている膝や太腿が剥き出しになっている。肩にそっと手を回して毛布を掴み足が冷えてしまうからと言って膝にかけ直してやった。
 だが上半身から毛布を剥がすと今度はいつもなら紺色の釣鐘型をした外衣で隠されている上半身の体の線が男物の襯衣のせいであらわになってしまう。婚約してからローレンツはマリアンヌは何度も寝台で朝の紅茶を共に飲んだことがある。それにも関わらず棚からさっさともう一枚予備の毛布を出せば良いということにローレンツは気が付かず召使が婚約者の着替えを持参するまで固まっていた。
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